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〜短期大学の今後〜
国際短期大学 学長 高木明郎(たかぎ・あきお) 氏 |
本シリーズでは、特色ある大学のトップの方々に大局的な視点から大学の運営、指導方針、授業の改善などについてインタビューさせていただいた内容をご紹介しています。
今回は初めての短期大学長へのインタビューとなりました。2年間の高等教育という特色を活かし、カリキュラムの工夫だけでなく国際交流や地元との地域交流も盛んに行っている高木学長のお話に、新しい時代の多様な教育のあり方を感じました。 |
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昭和39年3月4日生 |
昭和62年3月 武蔵大学人文学部社会学科 卒業 |
昭和62年4月 学校法人国際学園国際短期大学 勤務 |
平成5年4月 同 常務理事 |
平成10年4月 同 法人本部長 |
平成14年4月 同 理事長・学長 |
現在に至る
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社会活動:
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社団法人東京都私立短期大学協会 監事、
芝信用金庫 総代、社団法人経済同友会 会員、
社団法人神奈川県測量設計業協会 監事、
中野区立第十一中学校 学校評議員 |
所属学会:
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大学教育学会、日本キャリアデザイン学会 |
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−貴学は戦前昭和8年に作られた中野高等無線電信学校を前身とされていますが、どのような経緯で"国際"という流れに至ったのでしょうか。 |
本学は東京・中野の地に位置していますが、第二次世界大戦中は、近くの小学校が高射砲の陣地だったため、この辺りは戦争の被害が多かったと聞いています。創立者高木章はこの戦争を振り返り、日本人が世界の人たちともっとコミュニケーションをとることができればここまで被害を大きくすることはなかったのではないかと考えました。それには若い人たちがまず語学を学び、国際社会に飛び込んでいくことが大切だとの信念のもと、昭和21年に国際外国語学校を設立しました。昭和25年には短期大学制度ができ、国際短期大学に展開しました。短期大学制度の誕生とともにできた短期大学のひとつと言えるでしょう。
当初本学は英語科だけでしたが、昭和37年に現在の情報ネットワーク学科の前身である電気通信科を作り、二学科体制としました。平成13年に両学科の名称を変更し、それぞれ英語コミュニケーション学科、情報ネットワーク学科としました。 |
−最近は大学間競争が熾烈を極めています。特に短期大学は四年制大学とは別の意味で、取り巻く環境が厳しくなっていると伺っています。どのような改革をされているのでしょうか。 |
英語とコンピュータという21世紀のキーワードと思える学科を設置していますが、本学もなかなか厳しい状況にあります。短期大学は全国的に減っており、日本私立短期大学協会の加盟校は400校に満たなくなりました。私が役員をしている東京都私立短期大学協会では、最盛期72校あったのが現在52校にまで減っています。この1年でも数校が四年制大学への転換を図っています。
短期大学協会の運動と文部科学省のご理解を得て、2005年10月1日からは短期大学の卒業生にも「短期大学士」という学位が授与されることになりました。今までは準学士の称号が付与されていましたが、称号と学位では重みが違います。これからは学科のカリキュラムをこなすだけでなく、短期大学士を得るための学位課程教育に移行していくと思います。
国際的に見ると2年間の高等教育はマーケット的に大きく、日本のようにおよそ50%の高校生が大学、短期大学に進学するところはなおさらです。しかし、その中であまりにも短期大学の比重が低すぎると感じています。長期的に見て2年制の大学がもっと元気になるためには、一旦社会に出てからもう一度学校で学ぶ社会人教育が風土として根付いていき、また企業もそれを評価するように変わっていくべきです。短期大学の教育は高校の延長ではなく、その短期大学士にふさわしいリベラルアーツを身につける場なのです。2年間の高等教育という特色を活かし、各短期大学が工夫していくことが大切です。 |
−4年間の高等教育と比べると、具体的にどのような点が異なるのでしょうか。 |
四年制大学の場合、どのように教育を行うかは学校によってまちまちです。例えば、国公立大学の理系学部では、卒業生の半数以上が大学院に進むところがあります。また、全般的に就職活動が早期化し3年生になったと同時に活動が始まります。そのためどこに学部教育があるのかわからないという議論も少なくありません。
短期大学の場合にはもっと厳しく、入ったと思ったらもう次の年には卒業です。しかし短いなりに2年という期間の中では目標を立てて勉強がしやすい。自分で長期的な計画を立てて勉強をするのが苦手な学生には2年間の教育が合っているのだと思います。 |
−日本経済に明るさが見えてきたと言われていますが、まだ十分とは言えません。就職活動の支援についてはどのようにされていますか。 |
従来は就職と学生指導をひとつの部署で行ったほうがよいとの考えから、教務学生課で全て行っていました。しかし、学生のキャリアデザインにきめ細かいサポートが必要な時代となったため、2005年10月にキャリア支援室を立ち上げました。入学の段階から将来へのモチベーションを持たせ、個性にあった進学・就職指導を行っています。最初の半年で学生自身に将来を決めさせないと、のちにぶれてしまうのです。英語が好きで入学する学生は入学当初から留学も頭の隅に置きながら、進学・就職も同時に考えています。
本学は1年生のうちからゼミナールが必修ですので、ゼミの担当教員がアドバイザーとして授業だけなく進学の相談やそれ以外の対応に当たっています。2年生になると自分でゼミを選び、その先生がアドバイザーになるシステムを取っています。また、オフィスアワーも設けていて、学生は学期中に最低1度はアドバイザーの研究室に行って指導を受けなければなりません。進路決定の際、学校推薦で編入したり就職したりする場合、アドバイザーに相談した上で承認が必要です。アドバイザーの承認印がない限りキャリア支援室では書類を受け付けないシステムになっています。 |
−貴学では、2年間の中でどのような工夫で留学や国際交流のプログラムに取り組んでいますか。 |
本学では、アメリカのテネシー州にあるMartin Methodist Collegeという大学と提携しています。Pulaskiという小さな町にあり、人口およそ8,000人のうち1割が学生・教職員です。町と大学が一体になっていて、私自身も数回赴いていますが、留学生アドバイザーや入学担当の職員が留学生をきちんと世話してくれるので安心です。アメリカ留学コースでは、2年次の7月から約11カ月、TOEFLテスト免除でMartin
Methodist Collegeに留学し、単位互換により本学を卒業することができます。さらに頑張れば、Martin Methodist
CollegeでAssociate Degreeを取得することも可能です。2004年に留学した3人は、全員が学位を修得して帰ってきましたが、生活習慣の違い、勉強の仕方など、色々な問題を乗り越えて大きく成長したようです。 |
−経済的負担が軽いという理由で短期大学を選ぶ学生も多いと思われますが、留学の際の奨学金制度などはどのようにされていますか。 |
留学費用は、アメリカ留学コースの場合、約11ヶ月の滞在費と学費で300万円以上かかります。留学中の本学の学費は免除になります。そのほか、成績の優秀な学生1名は文部科学省から月額8万円、11ヶ月で88万円の派遣留学奨学金がもらえます。実質的費用は200万円前後となり、地方から東京に下宿して学校に通っている場合に比べれば安いと言えます。確かに経済的負担は軽いとはいえません。しかし、米国ではセキュリティと教育に費用がかかります。安いところは多くの場合、他大学へのトランスファーができなかったり治安が良くなかったりします。Martin
Methodist Collegeはそれほど大きくないリベラルアーツ・カレッジであり、お互いの規模が近いので、本学の学生も埋もれることなく個性を発揮できているようです。
また、昨年Martin Methodist Collegeを訪問した際に学長と話をし、2006年度からは経済的負担の比較的軽い、夏期の短期留学プログラムをスタートさせることにしました。約2週間午前中にESLの授業を受け、午後はアメリカの文化・社会を学びます。週末は教会を訪問してアメリカの文化に触れたり、U.S.ロケットテストセンターやデビー・クロケットパークを訪れたりとアメリカの大学生の雰囲気を味わいます。最後にWashington
D.C.に行き、スミソニアン博物館などを見学するプログラムを予定しています。
その他の派遣としては、東京都私立短期大学協会と合同による4週間のオーストラリア研修を既に行っており、単位に認定しています。 |
−留学の際、英語力についてはどのくらいのレベルを要求しているのですか。 |
先ほどお話したとおり、アメリカ留学コースはTOEFLテスト免除の留学プログラムで、プレースメントテストを受け、一定の点数を取れば、学長推薦で留学できることになっています。しかし、実際はTOEFLテストで要求される英語運用能力がないと、現地で苦労します。先生の言っていることがわからずノートも取れなければ、授業についていくことは困難です。ボキャブラリーについてもたとえば"Hand-out"という単語がわからなければつまずいてしまいます。そのため本学では、「留学英語」というTOEFLテストを目標とした授業やアメリカ留学を前提としたゼミを設けています。このゼミでは、2年次春学期に週2コマの集中講座でネイティブの教員がサポートしています。
以前、Martin Methodist Collegeの教授の家に招かれた際、「派遣する学生は日本の中学・高校で6年、さらに短期大学でも英語を学んでいるが、アメリカの大学の授業についていけるか心配だ」と尋ねました。すると、「日本で優秀な学生でもアメリカ人の学生に比べれば、英語ができない。多少の英語力よりも遊び気分ではなく本当に勉強に意欲がある学生を送って欲しい」とのことでした。もちろん、本学では留学前に、できるだけの英語力、適応力を養えるよう教育しています。 |
−海外からの学生の受け入れに関してはどうですか。 |
現在およそ50名、中国9割、他韓国・台湾・香港・ベトナム・ペルーから留学生を受け入れています。本学は、「国際」短期大学なので、外国人留学生については、授業料を半額免除するなどの優遇措置を設けています。また、単に受け入れるだけではなく、地元の小学校との連携教育も行っています。今年はアメリカ人の教員と香港・中国・韓国からの留学生が地元の中野区立沼袋小学校を訪問し、国際理解のテーマで児童との交流授業を行いました。留学生は学校以外では日本人とはあまり交流がないので、子供たちと接するのを大いに喜んでいました。今後もこうした地域との交流を深めていきたいです。 |
−地元との地域交流は非常に興味深い試みですね。町の中にあるという立地条件も活かされています。今後はどのように展開されていくのでしょうか。 |
現在、情報ネットワーク学科のゼミの一つで地元町会のホームページ立ち上げをお手伝いしています。毎週のように町会の方がゼミに参加して、学生と一緒に一年間かけて完成しました(沼袋親和会のホームページ(http://www.sinwakai.com))。また、2005年10月には「初心者対象パソコン入門」、「パソコンで年賀状を作ろう」、「やさしい旅行英会話」、「生涯スポーツ卓球教室」などの無料公開講座を開き、のべ175人以上の受講者がありました。 |
−2006年5月から、TOEFLテストは新しくインターネット版TOEFLテストになります。このテストはまさに貴学が教育されている英語とIT技術が結びついたものと言えます。ITの得意な人は英語が苦手であり、英語ができる人はITが苦手であることが多いのが現状です。貴学のように、両方を兼ね備えた学生はこれからの社会でさらに必要とされるのではないでしょうか。 |
本学には基礎教育科目というカテゴリーがあり、情報ネットワーク学科の学生も外国語(英語、フランス語、中国語、留学生のための日本語)を学びます。一方、英語コミュニケーション学科の学生もコンピュータの基礎操作を学ばなければなりません。このように、お互いの専門を少しずつ学べるようになっています。また、「インターネットイングリッシュ」という科目があります。ネイティブの教員がコンピュータを使って、英語のホームページを見たり英語でメールを送ったりする授業です。このように、外国語とコンピュータという今の社会に必要なスキルを取得できるのが本学の特徴です。 |
−最後に、現在学んでいる在校生、そして貴学に入学を希望される方へメッセージをお願いします。 |
本学の建学の精神は、「自主独立・融和協調」です。一個の自立した社会人であると同時に、協力して仕事ができる人に育って欲しいと願っています。この建学の精神を体得し、社会で活躍してもらいたいです。本学で何を勉強したいかをしっかり持った学生に来て欲しいのと同時に、私どもではきちんとしたプログラムを用意して教育することが一番大切だと考えています。
創立者は栃木県の日光から上京し、苦学をして大学を卒業して学校を作りました。その経緯から、学ぶ機会は誰にでも平等に与えられるべきだと信じ特待生制度を設けてあります。第一種は授業料全額免除、第二種は半額免除です。2年間でしっかりと勉強したいという方には環境が整っていますので、本学を是非活用していただきたいですね。 |
―ありがとうございました。
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(インタビュー:2005年11月17日 TOEFL事業部部長 高田幸詩朗)
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