TOEFL Mail Magazine Vol.62
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SELHi校の試行錯誤




それぞれのSELHi指定校は特色のある研究課題を設定しています。目標とする生徒の英語力は「読む・聞く・話す・書く」という4技能を駆使して自分の考えを発信できる力です。これはまさに北米大学が留学生の入学要件として期待している力であり、インターネット版TOEFLテスト(TOEFL iBT)はこの要望に応えるために開発されました。そのため、日本の英語教育とTOEFLテストの方向性は同じであると考えます。
本シリーズでは、指定を終了した学校にその学校ならではの成果に焦点を絞りそのエッセンスを報告していただくことを予定しています。高等学校のみならず、中学校・大学、更には小学校の教員の皆様にとっても有益な情報源となるものと期待します。同僚の先生方とも情報を共有し、皆様の授業改革の一助となれば幸いです。

今回は、「国際社会に生きる上で必要な発信力を段階的に高めるための指導法・教育課程の研究」に意欲的に取り組まれた山梨県立甲府第一高等学校の、輿水以久子先生にご寄稿を頂きました。


SELHiを振り返って―研究内容の反省―
山梨県立甲府第一高等学校 教諭 輿水以久子
輿水 以久子(こしみず いくこ)先生 プロフィール

平成18年度SELHi係副主任。SELHiをきっかけに授業の奥深さを再認識し、英語教育理論やストラテジーをじっくり学びたいと一念発起。現在は山梨大学大学院教育学研究科修士課程(英語教育)に内地留学中。


 SELHi指定を受けた平成16年度から18年度までのうち、17、18年度の2年間、係の一員として授業研究に関わった。どこの学校もそうだろうが、現場は多忙である。自分の授業について、不安や迷いを抱えつつも、実践についてのデータを取り、検証するなどということは、なかなかできるものではない。SELHi以前の私もそうだった。言い訳になるが、そのような時間を確保することが難しく、また結果が怖かったのも事実である。しかし幸か不幸かこの研究に携わったことでこれまで目をつぶってきたことや、考える機会のなかったことにどっぷりとつかる事となった。

1. 研究開発課題は「国際社会に生きる上で必要な発信力を段階的に高めるための指導法・教育課程の研究」
 上記課題を設定した背景は、生徒の発信力不足を漠然と感じていたことである。ペーパーテストでかなりの高得点をあげる生徒でも、いざ自分の意見を書いたり、話したりとなると、自由がきかなくなってくる印象があったのだ。発信力をつける。でもどうやって?研究課題作成会議では以下のような意見が採り上げられた。
授業の中心を文法・読解中心から自らの考えや意志を英語で表現する技能・態度の育成にシフトしていく
他教科、他分掌の教師と連携し、視野を広げ、人間的な成長につなげていくことを目指す。
発信力を高めるための段階的シラバスを研究し、インプット、アウトプットの増加につなげる。
学校生活全体を通じ、授業で学んだ英語を実際に使用する機会や場面を与えるとともに、・・(中略)・・英語学習へのモティベーションを向上させる。

 一高英語科職員にとって、このような研究は初めてである。何が正しいのかわからない。これまでの経験が頼りの研究のスタートである。最終的に、以下のような研究内容を決定した。
@ 3年間を見通した、発信力を高めるためのシラバスの研究
A 基礎的運用力を定着させ、段階的に発展させるための指導法の研究
B 国際社会で生きるための実践的コミュニケーション能力の育成
C 学校生活全体を通した異文化理解の促進

2. 研究内容をふりかえって
@ 3年間を見通した、発信力を高めるためのシラバスの研究
 シラバスは大きく分けて2種類からなる。1つは本校独自の「英語力シラバス」である。6項目に分けた英語力(会話力、聴く力、語彙力、文法力、文章読解力、文章構成力)について、それぞれの最終目標を定め、そのための小ステップを3ヶ月おきに作ったものだ。
 もう一つのシラバスは「学年別シラバス」である。「英語力シラバス」を実際の場面ではどのように活用するかを念頭に、使用する教科書の単元名や副読本のページ数を入れた。特に教科書に関する箇所は、その目標が「英語力シラバス」内の6つの項目のうち、どれに属するのかを示し、生徒、教師共々目的意識を持って単元学習に臨めるようにした。
 計画を立てることは重要である。適切に作られた計画は、9割の成功を約束するようなものだとさえ思う。しかし実行は思った以上に障害の多いことだと知った。例えばこの作業は既に前年度6月の教科書採択から始まる。教科書採択の事情は各学校により、まちまちであろうが、私の経験では多忙な職場で、関係する教員が全員集まりじっくり来年度の教科書について内容や難易度を検討することは難しい。採択した教科書を使用してはじめて、語彙が難しすぎたり、使用しづらいという問題が出てきたりする。また前年度末にシラバス作りにじっくり時間を取ることも思った以上に難しい。3月は授業や課外と同時進行で年度末成績処理、指導要録の作成といった神経を使う仕事の他、校務分掌の仕事もある。次年度の授業の中身を左右する重要なシラバス作りが、ほんの少しの時間で事務的に決定されてしまう現実がある。
A 基礎的運用力を定着させ、段階的に発展させるための指導法の研究
 魔法の杖となる指導法はない。目的や対象によって変える必要がある。毎日の授業がそのままSELHiの実践となるため、担当教師への負担が極めて重い研究項目であった。インプットを増やしアウトプットを促す授業の実践を心がけ、和訳先渡授業、ペアワークshadowing/ Look and read up/ Paraphrasing/ Easy versionの活用/ Dialogue making/ Chain reading/ Last sentence dictation等、効果がありそうだと聞いたものをどんどん取り入れていったが、教員なら実感していることだろうが、自分が経験したことのない指導法を試みるのはかなりのエネルギーを要する。自分でも半信半疑になることがある。例えばある日、初めてディベートを試みた。グループ分けは準備しておいたのだが、気が小さい私はその日に欠席者がいただけですっかり気が動転し、予想外の時間を要してしまった。そんな時は腹をくくってどっしり構えるのがとても辛く感じられる。「手っ取り早い授業の方が無駄がないのではないか」と。事実ディベートは効果が高いと言われているが、軌道に乗るまでの準備や実施にかける時間は長い。このような気の休まることのない授業準備は辛かった。更に辛いのは、何がどう効果的なのかが見えないことである。生徒のアンケートでは、「活動は楽しかった」「Shadowingは効果的だったと思う」などの意見が多かったが、何か実施者としては物足りないような気がする。英語の授業とは、英語を「生徒に教える」ものではなく「生徒自身が身に付ける手助け」にすぎないと、力みすぎないことが大切なのかもしれない。
 これと比較して進歩が分かりやすかったのはWritingの指導である。1年次はjournal、2年次は100語エッセイを毎週提出させ、ALTにチェックをしてもらった。文法チェックは最低限にし、内容がわかりづらいところを中心に赤線を引いてもらう形を取った。英文を書くことに慣れてきた3年次は、更にCriterionSMを採用した。CriterionSMとは、ETS(Educational Testing Service=米国の非営利教育機関)が開発した教員向けの、ライティング指導ツールである※。生徒がエッセイを提出すると、20秒程度でコンピュータによるスコアとフィードバックが与えられ、Web上に保存される。また、教員はWeb上でこれらの結果を確認したり、生徒の各エッセーにコメントを加えたりすることができる。
 この活動を定期的に行うことにより、書くことに抵抗がなくなり、英語独特の論理展開にも慣れていったように思う。
※ CIEEホームページ参照
山梨県立甲府第一高等学校 SELHi校の取組
山梨県立甲府第一高等学校 SELHi校の取組
B 国際社会で生きるための実践的コミュニケーション能力の育成
 オーセンティックな英語活用場面の設定という山梨県立甲府第一高等学校 SELHi校の取組ことで、Email交換、SELHi室(Native speakerと自由に会話を楽しめる)の活用やイングリッシュセミナー、イングリッシュワークショップ(英語漬けの1日をNative speakerと楽しむ。50名程度)、英語暗唱大会、スピーチコンテスト等の開催を行った。イベントは計画も実施も神経を使う。更に費用もかかる。しかし、やはり実際に英語を理解したり、話したりできる体験は格別という意見が多かった。
C 学校生活全体を通した異文化理解の促進
 他教科との連携ということで、他教科の教員と英語科教員とでティームティーチングを行った。一例を挙げると、平成17年度9月には地歴公民科の先生にお願いし、三省堂CrownULesson 6 “Singlish bad ; English good”に関連した授業を行っていただいた。テーマはシンガポールにおける独自の英語シングリッシュに関するもの。私の授業では発展学習として、シングリッシュの是非についてディベート活動を行っただけで終わったが、地理の先生は、言語を国家戦略と断言する国際競争力世界第4位のアイスランドの例を示したり、コミュニケーションの相手として常に欧米人を想定することなどの具体的な問題提起で生徒の意見を求め、英語教科書の1トピックを教養にまで高めた。更に先生ご自身もAll Englishで授業を進行したこともあり、生徒から知的好奇心を大いに刺激されたと好評であった。しかし実施にあたっては、ビデオ教材や原稿の準備等、かなりの負担をおかけしたことと思う。今後の課題は、形にとらわれず、10分程度の運用も含め、教員同士が気軽に授業に入れるように、いかに等身大の活動にアレンジできるかということだろう。

3. 3年間を振り返って
 SELHiは辛かった。私のみならず、関係した先生方は全員思っているに違いない。こちらとしては精一杯の努力をしても、それがどう功を奏しているのかが実感としてわからない。また、本校のSELHi対象の中心は英語科であり、英語に関してかなりの高学力を持った生徒であったため、あえて従来の指導を一新させることへの不安は計り知れなかった。そこで生徒の意見も取り入れながら、十分とは言えないまでも少しずつ改善を試みた。例えば、文法指導に不安がある生徒に考慮し、文法事項中心の予習プリントを作成。その結果コミュニケーション活動の時間捻出が容易になった。また3年次は、受験も考慮に入れ、コミュニケーション活動から離れ、英文和訳や要約、文法演習等を多く取り入れた。SELHi校とはいえ、進学校として生徒が不安なく受験を迎えられるように受験の王道を行く出題形式に慣れて欲しかったからである。
 数々の事務仕事や、試行錯誤のうちに、あわただしく終わったSELHiだが、私たちに新しい風を吹き込んでくれたのは事実である。教員間でこれまでバラバラだった3年間の指導目標が共有できるようになった。授業内で英語を多用するようになった。教材を当番制で作成するようになり、教材研究にかける時間が増えた。文法を過重視しないなど、意識の統一ができるようになった。これらはすべてSELHiで得た成果である。英語科教員にとって負担の大きい3年間ではあったが、将来につながる一時的な労力だったと考えたい。はじめての事は何だって莫大なエネルギーが必要なのだ。一度やってみれば次からはほんの少しの努力でうまくいくことが多いものだ。ただの苦労で終わらせたくはない。SELHiの真の収穫は今後にかかっているのだ。

 

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