TOEFL メールマガジン

留学経験者インタビュー

安東知佐子さん 安東知佐子さん
2003年3月 鹿児島県立鶴丸高等学校卒業
2003年4月 東京大学理科Ⅱ類入学
2005年4月 東京大学薬学部進学
2005年9月 高円宮殿下記念クィーンズ大学留学奨学金 第2回生としてクィーンズ大学Arts and Science Faculty, Biology Departmentに1年所属
2008年3月 東京大学薬学部卒業
2008年4月 東京大学大学院薬学系研究科修士課程入学

留学をするのにどんなきっかけがあったのでしょうか。

安東さん:私は昔から研究者になりたかったのですが、薬学の分野ではたいてい皆さん博士号取得後に留学をなさっています。しかし博士を卒業して専門での留学と言うと、知り合える人も研究者に限られ、研究室に一日こもって終わってしまいがちなので、自分と同年代の若者が何をしているのかぜひ知りたいという気持ちがありました。また小さな頃から旅行が好きで、新しいものに出会いたいという気持ちもありました。そんな時にたまたま見つけた大学の掲示板の留学奨学金情報の中に、「高円宮殿下記念クィーンズ大学奨学金」がありました。ただ、私はこの奨学金制度の2回生だったので、1回生の帰国前ですし、どのような大学生活かというモデルもなく、どういうところに行くのかよくわからないままA4の紙一枚で申込をしました。また国立大学はまだ硬くて、協定校でないと単位を動かせないため、留学をすると大学を5年やることになるのですが、それでもこの機会は貴重だと思えました。加えて、奨学金というと語学留学もしくは文系学部のものはたくさんあるのですが、理系の学部生はほとんどありませんでした。薬学部ですと皆無です。そんな中でクィーンズ大学奨学金は学部を問わず、自分のやっている学問をそのままやっていいということで、この機会を捉えたいと思いました。

留学するのにカナダを選んだのはなぜですか。

安東さん:ミーハーなのですが、小学生の時に普通の女の子同様「赤毛のアン」から入って、それ以来カナダに興味を持って写真集や本などを読むようになりました。環境が豊かでゆったりとした時間が過ぎて、だからといって経済も発展していないわけもなく・・・というイメージで、カナダに漠然とながらも憧れていたというのはあります。それと、英語のネイティブの国に住みたかったという気持ちもありました。父の仕事の影響でヨーロッパ方面に行くことがしばしばあったのですが、中学生ぐらいになると、片言ではあったものの、同年代の子と話すときには英語だったこともあり、英語を話してみたいなという気持ちがありました。大学では第2外国語でフランス語をとったので、そこでもやはり英語とフランス語が公用語であるカナダに興味がありました。

クィーンズ大学ではなぜ生物学を勉強したのでしょうか。

クィーンズ大学安東さん:クィーンズ大学にはMedical Schoolはあったのですが看護と医学だけで、薬学科がなかったため生物学科を選びました。当時私はまだ教養課程で、基礎生物、基礎化学をやりつつ薬学部に進むつもりだったので、留学先でもその基礎の部分を引き続きやろうと思いました。 ひとつ、留学を控えている方へのアドバイスになると思うのですが、学科を選ぶときに学部やコース名だけでなく、ひとつひとつの授業の内容まで調べて選択することをおすすめします。私は生物科、化学科であればどちらでも良いと思っていたのですが、結果的にBioChemistryという学科のほうがなにかと単位をとるときに適していたのです。カナダではリベラルアーツということで、最初は結構簡単に学科を選べるのですが、結局自分の学科の学生を優先させるため、きちんと興味がある学科を選んでおいたほうが後々手間がかかりません。例えば、私がカナダに行った頃には、カナダ人たちの授業登録はすでに終わっていて定員もあり締め切っていました。しかも私のとりたかった授業が、前のタームでいい成績を取った人が対象だったので、日本で同様の勉強をしてきたと具体的に説明して説得しなければならず苦労しました。生物学科の授業はすんなり決まったのですが、他学科は大変でした。結果的にとりたい授業は全てとることが出来ましたが、このような手間は少ないほうがいいですよね。

なぜ薬学部を目指したのですか。

安東さん:小さい頃は国連で働きたいとか外交官になるといった夢を持っていました。高校1年生でコース選択をするときに、理科の先生がとても刺激的な方で、ものを新しく作ったり発見したりする楽しさを教えてもらいました。また、その頃ちょうど遺伝子のゲノムが解明された時期でもあり、影響が重なりました。もちろん国連や外交でも新しいシステムや制度をつくるということはあるでしょうけれど、物事の「新しい」原理やメカニズムを発見したりというほうが面白そうだなと思うようになったのです。基本的な「新しい」ものへの興味という部分は変わっていません。また、生物学はまだまだ発展途上の学問のため情報が日々変わり、情報収集というと本を読んでいるのでは遅いので、論文をオンラインで探してとってきます。それを翻訳されるのを待っていられないし、研究室でも、学会でも言語は英語ですし、英語能力が問われる世界にいるという意味でも変わらないのかも知れません。

カナダ留学でのエピソードを教えてください。

安東さん:心に残っているのは、旅行したこと、新しいものに出会ったことなど色々ありますが、1番は寮生活ですね。学校内のInternational Residenceで、1フロアに12人、半分がカナダ人もう半分が留学生という生活をしました。共同のキッチンとダイニングとお風呂場があって、疲れると皆そこに出てきたり、毎食そこで作ったり。24時間家族のように一緒に暮らすことで、食べるものなどは違っても、自分の機嫌の良いとき悪いときもわかってくれて、どこの国でも同じような事に悩んで嬉しくなるということがよくわかりました。日本だと一人暮らしが多くて、寮生活というのもなかなかないですし、色々な国の人と言いたいことを言い合える。ちょうど総裁戦の時期で、TVを見ながら論議をしたりもしました。それぞれの個室があるのですが、皆ドアをオープンにして自由に行き来していました。家族のようですよね。たまたま最初の学期では、私のフロアは全員Nativeだったのです。

様々な国籍の留学生半分6人がカナダ人、他はイギリス、ウェールズ、スコットランド、オーストラリア、ハワイ出身の日本人と私。これは過酷でしたけれどある意味恵まれていたと言えます。ちなみにカナダ人は上級生がほとんどでした。なにかと国際的なものに興味がある人が選んで入寮してくるということでした。ですから比較的Interaction(相互の交流)を図ろうとする人たちで、兄弟が一気に11人もできたようでした。

留学をしてどのようなことに影響を受けたと思いますか。

安東さん:帰国して3年が経った今振り返って一番変わったのはなんだろうと思うと、何よりたくましくなりました。もともと鹿児島から東京に一人で出てきていたので、なんでも出来ると思っていたのですが、まったく異国に一人で行って、授業も自分で交渉して、何でも自分で決められるし、決めなければいけない環境に身を置き、ますますたくましくなりました。積極的に自ら入り込んでいかなければ何も変わらないし誰も何もしてくれない。やりたいことは貪欲にという精神です。行動力もつきました。カナダ人は課外活動も評価されるので、積極的に参加していて、部活もいくつもはいったり、ボランティアしたりしていました。私はダンス部に所属したのですが、2回休むと除名でしたし、年に2回ある4日間連続公演など、お金をいただくのでチケットなどもしっかりと作らなければいけませんでした。土日は部活の合宿に行ったりと、勉強とのオンオフをはっきりさせて、したいことは全部貪欲にして、というカナダ人の行動力に感心しました。勉強はというと、授業の評価も厳しくて、出席やテストだけでなく、授業中の発言、プレゼンテーションなどが問われ、図書館で夜中の2時まで勉強している学生も大勢いました。勉強だけでもハードなのに、それ以外も貪欲にこなして行動に移してと切り替えをはっきりさせるということは大きな影響を受けました。帰国してから研究室にこもった生活ではあるのですが、それでも休日には友人に会ったり、よその研究室でも気になった発表には足を運んで出かけてみたりと形は違うけれど、前より貪欲に行動しようと思っています。新しいことに対して臆病にならない、大変そうな恐縮してしまいそうな場所にも行ってみようというチャレンジ精神ですね。カナダ時代の友人が日本に来たら、放課後の研究を短縮したり、朝5時に築地へ行ったりと行動しています。

TOEFLテストはいかがでしたか。

安東さん:高円宮奨学金はTOEFL CBT237点、エッセイ5点以上が条件でした。当時締切1ヶ月前くらいに奨学金のことを知って、TOEFLテストは知っていたけれど受けたことがなく、でもTOEFL CBTならすぐ受けられるということだったので、1週間問題集を解いたり、デモ問題を解いたりして一生懸命勉強しました。高校でいい英語教育をしてもらっていて、長文は毎日読んでいましたし、Writingや文法のベーシックな部分は受験勉強が役に立ったと思います。日本人はあまりしゃべれないと言われますけれど、受験勉強でも、学校の勉強でも文法などに関してはまんざら悪くもないのではと思っています。大学に入ってからは、第2外国語のほうがメインになっていましたが、なるべく英語に触れるようにはしていていました。それでもTOEFLテストは今まで受けてきたテストとはまったく違っていたので衝撃的でした。でも今思うと、授業中や友人との会話など留学生活を想定したテストなのだなとわかります。ちなみに英語は、中学校から他の皆と一緒にI My Me Mineから始めたのですが、中学2年生のときに1ヶ月ヨーロッパに行く機会があり、何もわからないながらも片言で話した経験が本当に楽しく思いました。英語は勉強しなければいけない対象というよりも人とコミュニケーションするためのツールという意識ができました。

留学の経験は現在どのように生かされていますか。

安東さん:現在、神経の発生、どのように神経ができるのかということを研究しています。用いているのは遺伝学で、ショウジョウバエを使っています。ショウジョウバエは、論文を調べるとマウスと同じくらい昔から使われているツールなのですが、高度な遺伝学が出来るといわれています。面白いのが、そのショウジョウバエとの出会いも実はクィーンズ大学なのです。当時ハエと言うとあまり興味はありませんでしたし、どちらかというと虫嫌いで抵抗感がありました。でもメンデルの遺伝を実証しようという実験でショウジョウバエと出会い、そのお陰で今の研究室を選ぶときに抵抗感なく選べたのかなと思っています。3月に出席するシカゴの学会も通称”Fly Meeting”と呼ばれる数千人規模のものなんですよ。

もし外交官になっていたとしたら、もっと留学の経験も具体的に世の中の役に立っていたのではないかとも思うのですが、科学者を目指している今も新しい研究を最先端でするために、論文も学会も全部英語の世界で外国の方とも交流して、日本の中でおさまっているわけにはいきません。実際私が今やっている研究は、スタンフォード大学の方との共同研究なのですが、あの頃学んだ英語力とか、プレゼンテーションの仕方とか、全てがやはり役に立っています。だからノーベル賞をとりたいとかそういう大それた夢ではないのですが、何か新しいものを自分で発見して、それをみんなに知ってもらえたらいいなと思っています。そう思ったときに、情報交換だったり、論文だったり、発表したりという全てのことに、英語力や「たくましく」あることなど、あの時Struggle(苦心、必死の努力)した全てのことが、役に立つと思います。

あとは友人ですね。プライベートで、ある意味離れているからこそいまだに色々なことを愚痴ったり、客観的にどう思う?とアドバイスをもらったりしています。いつか訪れる学会先で誰かに再会できたらと思います。

最後にTOEFLメールマガジンの読者へメッセージをお願いします。

安東さん:行こうと思っている人は絶対に行動するべきだし、迷っているのだったら行くべし!これが私の全てをまとめた一言です。もちろん日本でも出会いはありますし、私もこの大学に来てよかったと思っていますが、留学は今までと環境も変わり、出会う人も違って、公私共にエクサイトできる全く違った世界なので絶対に何かが得られると思います。私の場合、A4の紙1枚で人生が変わる経験をしました。ホームシックになる暇もないほどすぐに友達が出来て、授業も楽しくて。良い機会や人に恵まれて導いてもらえたのは、自分なりに一生懸命Interact(相互に交流)した結果なのかなと思います。あまり不安に思わず、まず行動してほしい。私が高校まで住んでいた鹿児島には留学経験者は周りにあまりいなくて、自分が留学するという発想はありませんでした。東京に来て、大学の掲示板でこの高円宮殿下記念クィーンズ大学奨学金とたまたま出会い、それからの行動の結果が今につながっています。私に奨学金を提供してくださった方には本当に感謝しています。

●安東さん、ありがとうございました。

安東さんが得た「高円宮殿下記念クイーンズ大学奨学金」は3月25日(水)締切です。
詳細はこちら↓
http://www.canadanet.or.jp/study/takamado.shtml

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