キャリアを広げて世界に羽ばたく

女性のキャリアを考える。グローバルに活躍するためのヒント

吉田穂波氏
  • 吉田穂波先生
  • 国立保健医療科学院 主任研究官
    産婦人科医/医学博士/公衆衛生修士

第4回 女性のタイムリミットを逆手にとって

どうして、子どもを産み、育てながら仕事をし、留学をしようと思ったのか? 留学をするにあたって、特に母親の立場では、子どもがいるからやめておこう、と思う方は多いと思います。また、子どもを産んだ直後に留学するなんて、正気の沙汰ではないと考える人もいることでしょう。あるいは、まず仕事や留学をしてひと段落ついてから子どもを・・・と考える人もいるでしょう。

しかし、私は、産婦人科医の立場から、「時間」が持つ厳しいくらいのリミットを知っていました。女性の年齢と共に、妊娠できるチャンスがどんどん減っていきます。また、母親の年齢は生まれる子供へも大きく影響します。これは、私が教科書だけでなく、何千人、何万人もの患者さんに出会ったおかげで教えてもらえた貴重な教訓です。

時間管理のマトリックス
図1.卵巣中の卵子数

時間管理のマトリックス
図2.女性ホルモン量と妊娠する能力の関連

とりわけ、病院で出会う患者さんたちですから、何も苦労せず産み育てた人ではなく、妊娠・出産・子育ての経過中に何かトラブルがあり、不安や悲しさを抱えながらお会いする方がほとんどでした。そうなると、自然に、「早く産もう」「たくさん産もう」「自分の生きがいも大切にしよう」と思うようになり、「仕事と子どもと、どちらが先、と言っている場合ではない。子どもを産むのは早ければ早い方がいい。そのうえで、仕事も続けられれば続けたい」「子どもはたくさんいた方がいいに決まっているし、仕事もあった方がいいに決まっている」という確固たる信念のようなものが形成されたのです。

そのような中、20代のうちに子供を産もうと思いながら実際には30歳でめでたく結婚、妊娠となり、ドイツのフランクフルトで一人目の出産を体験しました。子育てをして初めて「自分の心身のメンテナンスは後回しで、子どもの健康にばかり気持ちが集中してしまう」ということに気付きました。しかし、欧米の先輩ママたちはみな「お母さんがハッピーなら子どももハッピーよ!」と胸を張って、自分の体をケアしています。その方法も、女性ホルモン剤からアロマセラピーまで様々。自分の人生を楽しみながら、子どもも育てることは可能なんだ、と気づかせてもらえた貴重な体験でした。そして、ここが私の子どもも仕事も同時進行、というスタイルのスタートとなったのです。おかげで、子どもを産むことと自分の人生を生き抜くことは両方とも実現することができる、という楽観思考がありましたし、両方とも手に入れるということについて非常に貪欲になりました。受験も妊娠・出産・子育ても、同じように計画的に…というわけにはいきませんが、しなければならないことと、自分が楽しみにしていることをうまく組み合わせることで、ストレス相殺効果があったのではないかと思っています。

さて、アメリカの大学院の受験には、GREというアメリカの大学卒業程度の学力があるということを証明する試験と、TOEFLテストという語学力を証明する試験が必要です。また、卒業した大学、および博士号を取った大学の英文卒業証明書、英文成績証明書、推薦状3通、自分の抱負や学生時代のボランティア活動、仕事の経歴、業績など、多くの英文の書類が求められます。これらの書類は、主に、通勤途中の車内でパソコンを開いて書きました。また、夜中や週末に子どもたちを負ぶって勉強し、何回も試験を受け、3回目にようやく満足のいく結果が得られました。

GREやTOEFLテストには、日本の教育では歯が立たないほど実際的な「考える力」「論理的思考」「筋道立ててストーリーをまとめる記述力」が必要とされます。ほとんどの日本人受験生は、要求される英語のボキャブラリーもさることながら、このロジカルな思考力・記述力に音を上げます。

GREもTOEFLテストも、受ければ受けるほど点が上がるよ、と聞いていましたが、もっと勉強してから受けようと思うより、受験の締め切りである12月に間に合わせるため、とにかくTOEFLテストは毎月1回、合計3回受けて、やっとハーバードが要求するTOEFL iBT(インターネット版TOEFLテスト)100点以上にたどり着きました。過去問3冊を繰り返し解くことよりも、TOEFLテストを実際に受けることで点数が上がっていったように思います。

フォードという自動車会社を作ったヘンリー・フォードの

Nothing is particularly hard if you divide it into small jobs.
(いかなることも、小さな仕事に落とし込めば特に難しくはない)
-Henry Ford

という言葉に奮起し、受験の準備一つ一つを細かな「To Do List」にしてその一つ一つをスケジュール帳に書き込むことにしました。

また、自分のイメージ作りのため、世界中の修士課程のコースを調べました。 現在ではこのような学生向けのWebサイトがありますが、2007年当時はやみくもにあちこちの大学のサイトを見て調べたり、留学をした人に話を聞いたりして情報を集めました。

Public Health Degrees (Masters and Doctoral)

海外の大学院を受験するためには、これらのWebサイトでイメージを膨らませ、高いレベルの学問、未知の世界に対する憧れ、そして自分のミーハーな気持ちを煽りました。

  • 吉田穂波先生
    国立保健医療科学院 主任研究官
    産婦人科医/医学博士/公衆衛生修士
  • 1998年三重大学医学部卒業後、聖路加国際病院で研修し、2004年名古屋大学大学院にて博士号取得。ドイツ、英国、日本での医療機関勤務を経て、2008年3歳、1歳、生後1か月の3人の子供を連れてハーバード公衆衛生大学院入学。2010年に大学院修了後、留学中のボストンで第4子を出産。帰国後、東日本大震災では産婦人科医として妊産婦と乳幼児の支援活動に従事し、2012年より現職にて公共政策の現場で活躍。9歳から0歳3か月まで5児の母。著書に「『時間がない』から、なんでもできる!」(サンマーク出版)、「安心マタニティダイアリー」(永岡書店)など。
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