本学の学生は、文法や語彙の基本知識はあり難解な文章の精読にも慣れていますが、その他3技能に極端な苦手意識を持っており、TOEFL® テストの結果にもその傾向が顕著です。そこで私が担当する全学部向けの英語科目では、Listening、Speaking、Writingのみに焦点を絞り、徹底的に参加型の授業でコミュニケーション能力の向上を目指しています。
Listening、Speakingに関しては、授業を全て英語で行うこと、授業中に2~4人の小グループに分かれての討論を15~20分間行うことで、聴くこと話すことに慣れてもらいます。何か話そうとするたびに頭の中で文章を組み立て始めて沈黙してしまう人が多いので、教員が歩き回って「一言でもよいのでとにかく口を開くこと」を強要します。
段階的な肩慣らし作戦は有効なようで、まず学期の初めに全員に1分間のスピーチを課すという荒療治により、人前で英語を話すことへの恐怖感を払拭し、グループ討論への円滑な導入を図ります。初心者にとってはいきなりスピーチすることは難しいので、準備の仕方は事前に教示します。それから少人数のグループ討論で発話力を鍛え、最後は「模擬国際学会」の発表でまとまった内容を論旨明解に構成し聴衆に伝えることを練習してもらいます。一学期の終わり頃にはもう、積極的に手を挙げて質疑応答に参加できる人が多くなっています。
Writingでは、当初は150語〜300語といった分量のshort essayを課して個別添削をしておりましたが、理路整然としない英文を大量に直すのはかなり苦痛でした。その上、せっかく丁寧に添削して返却しても復習してくれない学生もいたため、もっと簡単迅速なフィードバック方法に変更しました。毎週の講義で扱った話題に対する自分の意見を50語以内の短文にまとめてスマホや携帯電話から送らせ、なるべく早々にコメントを返すという方法です。この方法は手軽に提出でき即反応が得られるためか、学生には大変好評でした。
▲専攻によらずディスカッションできる身近な話題を提供
しかし個別メールだと雑な文章や単純ミスの文法・語法の誤りが目立ち、複数の学生に共通する誤りに毎週同じ指摘を繰り返さなければならないことにも疲れてきました。そこで最近は公開添削と併用しています。学生から提出された短文回答またはessayを無記名で紹介し、クラス全員の目の前で添削するのです。これなら指導すべきポイントのみを解説できるので無駄が省け、学生も強制的に復習する機会を与えられます。さらに他の学生の過ちから学ぶこともでき、一石三鳥です。提出数が多く全員分の添削が無理な場合は、代表的な例をいくつか選んで構成すれば、100~200人といった大教室の講義クラスでも無理なくフィードバックが行えます。教材としてより適するよう、学生の回答を部分的に改訂して使用することも可能です。学生にとっても、「次は自分の作文が出るかな?」というドキドキ感が集中力を高めるようです。さらにTOEFL iBT® テスト教授法ワークショップ(*)で学んだ採点基準に照らして「この英文は5段階評価のどの辺りで、どこをどう改善すべきか」ということを解説すれば、今後の学習の羅針盤にもなり、さらに効果的でしょう。
どのような形にせよ、教員からのフィードバックは学習意欲を向上させます。教員の負担が大きいのは事実ですが、何とか工夫をして続けていきたいと思います。
▲リスニングに自信の無い学生を助けるビジュアル教材
(*)TOEFL iBT® テスト教授法ワークショップ・・・TOEFLテスト開発・運営元の米国ETSが提供する、米国ETS公認トレーナーによる 英語教員のためのワークショップ