聖光学院では、これまで東京大学をはじめとする国内の国公立や私立の大学に多くの生徒を輩出してきました。その基本的な流れは踏襲しつつも、多様化するニーズに応えるべく海外進学を志す生徒へのサポートにも近年少しずつ注力し始めました。TOEFL® テストやSATの受験を検討する生徒も徐々に現れはじめ、今後ますます4技能を意識した指導の必要性があると感じています。本稿では、私が担当している学年におけるエッセイ指導の一端をご紹介させていただきます。
私が担当する学年では、中学3年生の時点でエッセイライティングの基礎となる5パラグラフエッセイの書き方を教えました。しかし導入してすぐに、中学生にとってボディパラグラフを3つ書くことは非常に困難であることに気づきました。2つまではなんとか書けても、3つ目になるとアイデアが思い浮かばず、内容が薄くなってしまったり、これまでの内容を重複するだけに留まってしまっていました。もちろんブレインストーミングの方法は指導しましたが、論理性を維持しながら、具体例を豊富に盛り込んだパラグラフを複数構成することは簡単なことではなかったようです。そこで、5パラグラフは早々に諦め、ボディパラグラフを2つに絞った以下のような4パラグラフエッセイの指導に切り替えました。
第1パラグラフ:導入
第2パラグラフ:ボディ①
第3パラグラフ:ボディ②
第4パラグラフ:結末
ライティングの練習を始めると生徒は、より良い文を書くためにはリーディングを通じてより多くの文に触れ、アイデアや文体を吸収する必要があることに気づきます。その逆も然りで、ライティングの練習を通しパラグラフの基本構成を理解すると、英語の文章がどのように構成されているのかを理解することができ、結果的に読解力が伸びる生徒も多くいます。つまり、Writing for Readingであり、Reading for Writingなのです。ReadingとWritingは決してそれぞれに独立したスキルではなく、相互補完的な関係にあることを知ると、生徒たちは面倒臭がりながらもその意義を踏まえつつ真剣に取り組むようになります。
ライティング指導における一番の苦労はやはり添削です。ライティングそのものの重要性は多くの教員が感じていながらも、なかなか手が出せないのは、指導法が明確になっていないこともありますが、それ以上に添削にかかる時間や労力を懸念されてのことかと思います。
ライティングの添削にはどうしても手間と時間がかかります。そこで重要になるのが、すべてを一人で抱え込まないということです。私の場合、一緒に学年を担当している英語科の教諭に協力いただき、私がエッセイ課題の導入から完成までのプロセス(過程)を担当し、もう一人の方にプロダクト(成果物)をすべて評価していただく形を取っています。また、教員ではなく、生徒同士での添削も合わせて入れることで、一人の教員にかかる力は相当軽減されると思われます。
私のクラスでは、第1稿をそのまま提出させることはありません。生徒は最低でも3回から4回はドラフトを書き直すことになっています。第1稿の時点では、とにかくパラグラフを4つ構成することを目標とし、第2稿・第3稿で内容の掘り下げやロジックの確認を行い、最終稿となる第4稿で文法やスペリングのミスを校正するようにしています。多くの生徒は第1稿を書き上げた時点で満足していますが、この時点で完璧なものを書ける生徒は一人もいません。一晩寝かせ、見直しをすると必ず書き直しの必要性が出てきます。この書き直しの必要性に気づかせることもライティング指導の重要なプロセスと認識し、以下のような流れで指導に当たっています。
1. 課題の導入、ブレインストーミング
2. 第1稿執筆
3. 生徒同士でPeer Review(内容を中心に)
4. 第2稿執筆
5. 生徒同士でPeer Review (内容を中心に)
6. 教員が添削 多く見つかったエラーを各クラスで共有
7. 第3稿執筆
8. 生徒同士でPeer Review(具体例やロジックを中心に)
9. 第4稿(最終稿)執筆
10. 生徒同士でPeer Review(スペリングや文法などを校正)
第1稿を書かせたら、まずはグループ内でPeer Reviewを行います。教員が読むのではなく、生徒同士で互いのエッセイを読み合い、フィードバックをします。フィードバックの観点は、文法やスペリングといった表層的なものではなく、内容面でのロジックに絞り、フィードバックの仕方も指導をします。グループは4人一組を基本とし、数の調整が必要な場合は3人や5人のグループも作ります。
Peer Reviewのメリットは、他の生徒がどういう内容や切り口でエッセイを書いているかを知ることができる点にあります。自分一人では思いつかなかったアイデアに遭遇することもよくあります。また、アイデアだけでなく、英語の表現(イディオムや文体)についても生徒間で学ぶことがあり、非常に効果的と言えます。当然のことながら、他人の作品をそのまま盗用することは禁じていますが、良い点を学び真似ることは強く推奨しています。
▲Peer Reviewをグループで行う様子
TA(Teaching Assistant)とは、本来、大学において大学院生が教授の指導補助をアルバイト的に行うものですが、私のクラスではそのシステムを一部取り入れ指導をしています。本校では帰国子女の生徒が学年の5%から10%ほどを占めるため、各クラスに数名の帰国子女が在籍しています。彼らを各グループのTAとして位置付け、グループのメンバーのエッセイに責任を持ってもらうことにしています。しかし、帰国子女の生徒だけでは当然ながらすべてのグループの数をカバーすることはできないので、一般入試で入学しながらも非常に高い英語力をつけてきた生徒もTAに指名し、各グループに最低一人はアドバイスができる生徒がいる状況を作っています。
もちろんTAの生徒の労力は大きくなりますが、多くの場合やりがいを感じ真剣に取り組んでくれます。英語力の高い生徒が、英語に苦労する生徒を助けることで学び合いや助け合いが生じ、生徒間のコミュニケーションも活発になっているように思います。
▲TAからのフィードバック
私が添削をするのは第2稿か第3稿で、当初は全員分を細かく添削していました。また、Student-Teacher Conferenceの機会を設け、生徒一人ひとりに口頭で直接フィードバック与えることにも取り組みましたが、あまりにも時間がかかるためこの方法は残念ながら断念しました。代わりに、多くの生徒に共通するミスを含むエッセイを各クラス数枚選び、スクリーンに投影して、クラス全体の前でフィードバックをするという方法に切り替えました。個別の添削に比べるとやはり精度は落ちるものの、労力とのバランスを考えるとこの辺りが落とし所なのかと今のところ考えています。
最終稿の提出後、評価はパートナーの教員に担当していただいています。これによるメリットは、もちろん添削や評価の労力を軽減することにもありますが、何より評価基準のすり合わせを行うことにより、教科担当者間のコミュニケーションが活発になることにあると感じています。指導における大まかな方向性を共有する教員同士であっても、細かな評価のポイントやバランスはやはり個々で異なります。そのためコミュニケーションを通じて互いのズレを最小限に抑える事が不可欠になります。これにより、プロセスにおける指導とプロダクトへの評価の間のズレが少なくなり、生徒も安心して課題に取り組むことができています。
現状、上記のような流れで指導を行っていますが、決してこれが完成形だとは考えていません。何よりも課題に感じているのが、教員からのフィードバックです。効率を考えてクラス全体での公開フィードバックの形を取っていますが、英語学習に対するモチベーションが低い生徒にはこの方法は効果的ではありません。個別でのサポートをすると同時に、Criterion®の導入も今後は検討し、より充実したライティングの指導にあたっていきたいと考えています。