私の勤務校では、生徒の4技能を育成する英語授業に全職員で取り組んでいます。全学年でスピーキング力を鍛える上で重要な役割を果たしているのが「ワードカウンター」という「魔法の紙」です。
これは、1~150の数字が印字されたA4用紙で、2人1組で相手の「発話語数」をカウントするのに使います(参考:『即興で話す英語力を鍛える!ワードカウンターを活用した驚異のスピーキング活動22(目指せ!英語授業の達人)』明治図書/西巌弘 (著))。自分の発話語数が数値に表れるので生徒は自然に英語を話し続けようとします。
この用紙は色々なスピーキング活動に使えます。例えば「将来の夢」や「週末の予定」など日常的な話題に関する即興的な「モノログ」や、教科書の内容を自分で語る「リテリング」などです。
これらの活動をほぼ毎時間継続して行うことで生徒の「発話力」を育てています。現在では、ある程度の時間責任をもって一方的に英語を「発話」する力は付いてきたので、次の段階として、双方向のやりとりを即興で行う「対話力」を育成するステージに入っています。
その事例として、高校1年生のコミュニケーション英語Ⅰの授業で、「リテリング」(発話力)と「ディスカッション」(対話力)を中心とした1時間の様子をご紹介します。
授業の最初はリテリングから始まります。これは、前時までに学んだ本文の内容をペアになって1人1分間ずつワードカウンターを使って語り合う活動です。たとえば前時までにセクション②を終えていたらセクション①と②をまとめてリテリングします。こうして授業の最初にリテリングを取り入れることで、前時までの「復習」となり(生徒は自宅で練習してくる)、授業の「ウォーミングアップ」と「プレゼン力」を向上させる機会となります(リテリングはShort Presentationと呼んで、相手を巻き込む工夫をすることを促している)。ペア練習の後には、全体から1名がくじなどで選ばれて全体発表することになっているので、ペア練習にも熱が入ります。
リテリングが終わったら、「本時のねらい」と授業の最後に行う「ディスカッションの議題」を全員で確認します(授業前に板書しておく)。本文内容に関連したディスカッションの議題をこの段階で示すことで、生徒は授業の最後に何を求められるか分かるので、その答えに関する内容を知りたくなり、本文に対して課題解決的な主体的な学習姿勢になるのです。例えば、授業前に次のように簡単にその日の目標を板書しておきます。
①To retell section L.5①&②
②To understand section③&discuss the following topics.
A)To develop a wild area for money. Good or Bad? Why?
B)How do you understand animals?
ディスカッションの議題を確認したらすぐに、ペアで1回目のディスカッションをしてみます。この段階では十分には内容のある話はできません。本校では予習を課していないからです。ここでの目的は、1回話してみて十分に話せないことを認識した上で、「もっと知りたい、もっと話したい」と本時の授業内容に対して前向きな学習姿勢を引き出すことです。
生徒はその後、上記のディスカッションの議題を頭に入れつつ本時の学習を進めます。新出単語を学び、本文のリスニングやリーディング(TF、QAなど)、さらに、重要な文法・語法等の英作、音読(リピーティング)などの活動を行います。そうした活動をしつつ、生徒は最後のディスカッションに向けて情報のインプットや思考作業を続けています。
最後にいよいよディスカッションの時間です。最初に2つの議題のうちどちらか好きな方をペアで選択してそのトピックから話し始めます(時間があれば次に移る)。話しにくいトピックよりは話しやすい議題の方がいいですし、物事を自分で選んで自分で決める「自己選択・自己決定」は、生徒の主体性を高めることにつながると言われています(自己決定理論)。
議題を選んだら、生徒は各自で数分間ディスカッションの準備をします。たとえば本文の該当部分を黙読し直したり、音読・暗唱をして使える表現のインプットをしたり、自分の体験などからキーワードをメモしたりします。この2分間程度の個人活動(準備)の時間を保証することは、ディスカッションの質を高める上でとても大切です。思いつきだけの「浅い」ディスカッションを避けることができるからです。
いよいよ本番です。これは立って行います。スピーキングは立って行うだけでも生徒の集中度は大きく向上します(先生方も体験されてみると活動に集中できることがよく分かると思います)。
ディスカッションのときは,「本時の内容について2分間話し合いなさい」と漠然とした指示をするよりも、議題を与える方が生徒は断然話しやすく授業内容を活用しやすくなるようです。たとえば、地雷について学習したセクションでは、“What are mines?”“Why do they exist?”などの議題を示すことで、「本文内容の一部を活用して表現や内容を身に付ける」ことや,議論に対してsomething new(自分の意見や他教科・読書等での既習内容)を加えて「創造性を発揮する」こともできるようになります。これらは「暗記・再生」型の授業から「思考・表現」型の授業に移行する上で重要だと考えています(「深い学習」にもつながりやすい)。
ペアでの2分間ディスカッションが終わったら、全体から数名を指名(ランダムに)して、討議内容の報告(英語で)をしてもらいます。生徒がどのような話をしたか(内容)や英語力の確認ができ、生徒にとっては他の生徒のパフォーマンスから刺激を受ける時間にもなります。
最後に、本時の学習から気づいたことや学んだことを各自でReflection Sheetに記入します。ワードカウンターの裏にその欄を作っています。記入欄は2つあり、1つは「他者から学んだスキル欄」で、人から学んで良いと思ったスキルをいつでも書き込めるようになっています(主体的な学習を促す)。もう1つは活動直後に英文を書いたり、感想や気づきを記したりするためのスペースです。
こうしたスピーキング力を育成する上では、「指導と評価の一体化」という考え方が大切であると考え、定期テストの次の時間にはリテリングなどのパフォーマンステストを行っています。生徒はテストがあることが分かっているので、毎時間、よりしっかりと練習を続けるわけです。今後もこれらの指導を続けてさらにレベルアップし、TOEFL® テストの「読み聞きした英文の口頭サマリー」や「意見表明」などのタスクにも対応できる英語力を育てていきたいと思っています。目標は、海外留学にも対応できる英語力です。
著書等(取り組みの詳細はこちらでご確認いただけます)
○『即興で話す英語力を鍛える!ワードカウンターを活用した驚異のスピーキング活動22(目指せ!英語授業の達人)』明治図書/西巌弘(著)
○『授業が変わる! 英語教師のためのアクティブ・ラーニングガイドブック (目指せ! 英語授業の達人) 』明治図書/上山晋平(著)
○『45の技で自学力をアップする! 英語家庭学習指導ガイドブック (目指せ!英語授業の達人17) 』明治図書/上山晋平(著)
○DVD『意欲アップ!習慣定着!「楽しくて効果的な家庭学習法」』 ジャパンライム/上山晋平
○『高校教師のための学級経営365日のパーフェクトガイド できる教師になる! 3年間の超仕事術』明治図書/上山晋平(編著)
○『授業で使える全テストを網羅! 英語テストづくり&指導 完全ガイドブック (目指せ! 英語授業の達人26) 』明治図書/上山晋平(著)