広島大学附属福山中・高等学校ではSGH(スーパーグローバルハイスクール)の取り組みの一つとして、高校2年生で「Global Communication(1単位)」を全員履修します。
授業は、CALL教室で行います。生徒はABCニュースシャワー(字幕対訳・キーワード解説付)を視聴し、与えられたトピックについて、文字チャット機能を使い英語で議論を進めていきます。議論は40分程度で、教師が指定したグループで活動に取り組みます。司会進行役は、グループの中で決め、生徒運営で議論をすすめます。
教師はその間ファシリテーター役となり、必要に応じてグループに介入したり、議論を促すデータを示したり考え方を提案したりするなどして、生徒同士での議論が続くように補助します。
一般的に「英語で議論」と聞くと、専門性・抽象度の高い内容に関して、英語で意見交換しなければならないのでとても難しいのではないかと思われがちです。生徒も同じように考えており、英語好きな生徒であっても「議論」と聞くと消極的になりがちです。
議論する力を付けるには、実際に議論を繰り返し練習する必要があります。しかし、「習うより慣れろ」の精神で、半ば強引に高校生に議論をさせようとしても、内容面・言語面で負荷が大きく、活動が停滞するばかりか、難しさばかりが強調され、「議論離れ」を引き起こしてしまいます。
そこで1学期は「英語で議論すること」に親しみを持つことから始めます。授業では、映画『12人の怒れる男―評決の行方―』を視聴しながら、議論の作法について学習します。
映画は陪審員が議論を通じて評決に至る様子を描写しているのですが、その過程で感情のまま意見を言う、話を脱線させる、個人攻撃する、人の意見に便乗するなど、反面教師として学べる部分が多くあります。こうした「ダメな議論」を見せることで生徒の「議論」に対する抵抗を下げることができます。
また、英語母語話者同士でも議論がかみ合わない場面を生徒に見せることで、英語で議論するには、単なる文法や語彙などの英語力だけでなく、論理的思考力や批判的思考力が必要であることを示すことができます。
文法、語彙、4技能を含めた総合的な英語力の育成は、「コミュニケーション英語Ⅱ」「英語表現Ⅱ」の授業で実践しつつ、「Global Communication」では、論理的思考力と批判的思考力の育成に重点を置いた指導をします。
論理的思考力に関しては、トゥールミンモデルを用いて、「意見」「理由」「論拠」「証拠・前例」「例外・条件づけ」「反駁」などの要素を含めながら、「わかる」意見から「うなずける」意見へと立論が発展していけるように練習します。
批判的思考力に関しては、相手の意見を鵜呑みにしないように、生徒が陥りやすそうな論理の誤謬について学習を進めていきます。
2学期以降は、冒頭で述べたように議論を本格的に実施していきます。生徒にとって馴染みがあり背景知識を比較的必要としないトピックを選ぶと、内容について調べる時間もかける必要なく、そのまま議論に移れます。
例えば、「歩きスマホの罰則化は必要か」「なりすまし詐欺に引っかからないためには」「タブレット端末と育児」「英語を第二公用語にすべきか」「地球温暖化は本当にいけないことか」などを授業で扱います。
生徒には、「議論中、英語で表現できない語彙がある場合は、部分的に日本語を使用してもよい」と伝えています。そうすることで言語面での負荷も軽減され発言しやくなります。
議論後は、教師からクラス・グループに向けてフィードバックします。フィードバックは、内容面に絞って、わかりやすく説得力のある発言ができたか、複眼的な視点で物事を考えることができたか評価します。
言語面のフィードバックは、クラスで共通して、そして繰り返し見られるミスに限り指摘します。文法やスペリングの間違いばかり指摘すると生徒は間違いを恐れて発言が減ってしまうので注意が必要です。
議論の回数を重ねるにつれ、英語が苦手な生徒も一回の議論で一度は発言できるようになりました。また思考力を訓練することで、一回の発言量が増えただけでなく、論理的でわかりやすい発言もするようになってきました。
しかし、英語で議論できるようになったかと言えば、まだ不十分だと言えます。実践レベルまで高めるには、今後は文字チャットから口頭での議論へ橋渡ししていかなければいけません。そして、生徒全員が口頭での議論に参加できるようにするには、英語力の底上げが必要になります。
今後も指導を続けていき、TOEFL® テストで見られる議論のやりとりのように、相手の発言に柔軟に対応し、自分の意見をしっかりと発信できるような生徒に育てていきたいと考えています。