私の担当する「英語教員養成研修Ⅰ」は、科目名通り将来英語の指導者になるために必要な英語力を養うことを目指す、週に1回90分の授業です。次の3つの原則、
(a)各個人にとって学びが最適化する教材を選択する
(b)十分な学習量を確保する
(c)4技能を統合する
を心がけています。それらを踏まえた、少し変わった授業の取り組みをご紹介いたします。
下の写真にある表現学習シートを使い、毎時間授業の初めに小テスト①を行います(小テスト②は後述します)。
▲ 写真1.自分で選んだ表現で埋められた表現学習シート
左側に母語訳やイラストなどのイメージを、右側に英語の表現を書く欄があります。学生には、自宅で好きな洋画や英語のテレビドラマを視聴し、「へぇー、なるほど、そう言うのか」と、ちょっぴり感動した表現を別の紙に書き留めるように伝えます。そして毎週の授業までに、写真の表現学習シートの左側だけを埋めてくるように指示します。授業の初めの小テスト①では、左のイメージ・母語訳を見て、英語の表現を書くわけです。写真の表現数は10ですが、実際は裏面もあるので1週間に20ずつ表現がストックされていきます。こうすることで、学生は自然と興味、難易度共に楽しめる教材を選ぶことになり、原則(a)はクリア、また毎週20の表現をストックするには、自宅で何度も映画やドラマを視聴することになり、原則(b)も踏まえられます。
まず学生は、自分に合った教材、つまり読んでいて楽しく、辞書を使わなくても読み進められる洋書を選びます。多くの学生は、大学の図書館にあるレベル別のペーパーバックの本を手に取ります。授業ではまず、15分程度各自音読します。その際私は机間指導をして発音のアドバイスなどをします。音読の後は、語彙力の増強の方法、長い文章を書くときの注意点など、その時々に学生から生じる疑問に対して、第二言語習得研究の知見からアドバイスをする寺子屋セッション(20~30分)をはさみ、最後は黙読です。授業時間ラスト10分になったら読んだ内容を隣の人に英語で伝えます。授業はこれで終了ですが、自宅で読み進めるように伝え、次の授業の初めには、読んだ内容の概要を100語以上の英文で書く小テストを行います(小テスト②)。話したり書いたりする際の指導・評価にあたっては、TOEFL iBT® テストのものを参考にして作成したルーブリックを提示します。この取り組みにおいても、教材選択において原則(a)を踏まえ、原則(b)に沿って小テスト②により自宅学習を促しています。
▲ 写真2.図書館のグループ学習室での多読の様子
ここで紹介した2つの取り組みに関して原則(c)の「4技能を統合する」はどうでしょうか。1つ目の取り組みでは、映画やドラマを視聴して「聞く」というインプットから、表現をストックして「書く」というアウトプットに繋がっています。また2つ目の取り組みでは、英語の本を「読む」というインプットから、読んだ内容を他人に「話す」、要約を「書く」というアウトプットに繋がっています。このような言語活動はTOEFL iBTテストのIntegrated Taskの構造に類似しており、技能統合型の課題を考える上で大いに参考になります。英語に興味を持ち、その道を目指す学生は、外国人との交流や留学など、「陽」の当たる部分に注目しがちですが、地道に技能を高める自律的な学習という「陰」の部分の重要性も忘れずに自分を磨いていってほしいと思います。