スペシャルインタビュー

英語を活かしグローバルに活躍されている方や話題の企業や団体にインタビュー

  • 出口治明氏
  • ライフネット生命保険株式会社
    代表取締役社長

 

“グローバル人材を育成するために、大学で勉強をする体制を作ることがなによりも大事”

グローバル人材とは

出口氏:
一言でいえば、自分の頭で考えることのできる人材でしょうね。ダイヤモンド・オンライン(※1)等、色々なところでも書いているんですが、教育とは何かといえば、自立して生きていくための手段を与えるものであると思っているんですよ。そのように考えれば世界がグローバルになったわけだから、グローバルな世界の中で生きていける能力を与えるのが教育であり、どこに行っても自分でご飯が食べられる人材、それが恐らく一番プリミティブな意味でのグローバル人材の定義だと思いますね。どんな場所に行っても自分の頭で考えることができる、その社会の社会常識や一般に流布されている思い込みを離れてゼロから世界をありのままに見て、『これはこういうことであり、自分はこうすべきだ』というように、ゼロから自分の頭で考える事ができる人材に尽きるんではないでしょうか。
編集部:
自分で考えていける、いろんな国の中でどこに行っても生きていける、そのあたりの感覚やそういったお考えはやはりご自身のご経験からでしょうか。
出口氏:
そうですね。やっぱり僕は、人間の学びは、人に会う、本を読む、旅をする、それ以外では学びようがないと思っています。僕の場合は、旅から学んだことも多いですが、本から学んだことが一番多いように思いますね。色々な本を読めば、世界で生きていくというのはどういうことかということが分かります。

編集部:
最近では、インターネットで色々情報を得ることができる時代にはなってきています。
出口氏:
アクセスは楽になりましたね。ただインターネットの情報というのは、非常に断片的なので、様々な情報を整理するために考える力を付けるには、やはりきちんと書かれたテキストを読み込むこと、つまり、古典を読むことが僕はやっぱり一番だという気がします。
編集部:
その辺で今の日本の教育ではなかなか手がまわっていないというというか、そういったところに力点が置かれていないように思います。
出口氏:
それは、教育のせいではなくて、大人が本を読まないからですよ。大人が読まないから若者が読まないだけで、本、特に古典をきちんと読むという習慣を、大人がそれをやれば若者もきちんと読むようになります。大人の劣化が若者の劣化になっていくというふうに考える方がたぶん正しいでしょう。
編集部:
要するに今、通俗的に言われている若者がどうのという議論ではなくて、まずその上に立つその前の世代の人間が変わらなくてはいけないということですね。
出口氏:
若者は大人の意識を映す鏡ですから。例えば今の若者は海外の赴任を嫌がるとか、本社にしがみつきたい若者ばっかりで、覇気がないということを言う経営者がたくさんいます。でもこれは天に唾をしていると思います。本当にそう思うのだったら、経営者が「我が社では海外3ヶ所15年以上勤務しないと管理職に登用しない」と言えば済むわけです。でもそういう会社に限って偉くなる人は本社に長くいて、企画とか秘書とか経理とかを経験してきた人ばかりを登用しているわけで、それを見ていた若者が本社を離れたら『損だ』と、行きたがらないのは当然ですよ。
編集部:
自分の将来につながらないなら、海外に行きたいと思うわけがないですよね。まずその範を示すのは―。
出口氏:
大人であると。そういうふうに思います。グローバル人材に一番必要な教養であったり能力というのは、ある意味、人、本、旅とありますが、僕は本のウエイトはかなり大きい気がします。

グローバル人材を育成するために、国、教育機関(大学・高校)、企業、個人はどのようなことに取組むべきでしょうか

出口氏:
まず、大学で勉強をする体制を作ることがなによりも大事です。僕は『タテ・ヨコ思考』と言っているんですが、自分の国がどういうポジションに置かれているのか、歴史の時間軸の中で縦軸として自分のポジションを見て、そして横軸で世界との比較で見るべきです。例えば今、株が少し上がって日本は喜んでいますけれども、これで喜んでいいのかと思います。僕も前の会社ではロンドン駐在を3年、国際業務部長を3年やっていて、世界の金融機関やトップと会う機会があったのですが、海外ではほとんどの方がMasterやDoctorの学位をお持ちです。これに対して日本は低学歴で、世界と比較すると幹部が勉強していない。大学卒であっても、3年の前期が終われば就活が始まるので、専門の勉強なんかほとんどできていない。こんな不勉強なまま社会に出て、世界のMaster、Doctorを学んだ人に勝てるのかということです。だから今グローバル人材を育成するために一番大事なことは、大学では学生をひたすら勉強させるというシステムにする事であって、就活は卒業後にすべきだと思います。大学では徹底的に勉強をしてもらって、学生を採用する側が成績をちゃんと見るということをしなければ、世界のMaster、Doctorをとるために必死で勉強している人間と、学士で勉強していない人間とではまったく勝負にはなりません。また、秋入学になれば、夏前に卒業しますから、それから4月までの半年間に就活できます。だから国と社会がすべきことは、まずひたすら大学を勉強する環境にすること、それがグローバル人材養成の一番だと思います。
英語については、当然大事ですけれども、東京市場の国際化を促すためにも、例えば国家公務員の上級職とか司法試験、公認会計士試験などは、TOEFL®テストを義務付ければいいと思います。例えばTOEFLテストで一定のスコアを取らなければ国家公務員の上級職になれない、司法試験を受けられない、公認会計士になれないと決めれば、皆必死に英語を勉強するので、そういう「仕組み」にすることが、一番大事だと思います。グローバル人材を育成するためには、ともかく若者を勉強させるしかないですよね。
編集部:
大学は当然勉強の場であるはずですが、大学に入って一息ついてみたい、という風潮はここ何年もずっとあったと思います。
出口氏:
当然それは圧倒的に直さないといけません。そして大学は全員入学でもいいと思うんですよ。東大でも希望者は全員入れる、その代りに卒業できないようにする。卒業できなければ入っても価値がありません。入学試験さえ突破すれば、あとは遊んでいて構わないなんていうこんなバカなシステムはやめなければいけません。これだけ日本の財政が苦しいのに、大学に2兆円も貴重な税金を注ぎ込んでいるということは、やはり大学生に勉強してもらってこの国を良くしたいと国民が考えているからで、今の3年生からの「青田買い」という状況に対して、僕は税金泥棒のようなものだと言い続けています。こんな「青田買い」を続けていてグローバルに競争できる人材が育つはずがない。とある雑誌に、日本の大学生は4年間で100冊しか本を読まないがアメリカの大学生は400冊読むという記事がありました。この二人が同じ会社に入ったらどちらが上司になるか、今から答えは出ていますよね。これが全てです。
編集部:
本を読むことの重要性も、最近はあまり強調されていないように思います。
出口氏:
だからまずは大学生を勉学に集中させることが、グローバル人材を作る最大の課題かと思います。
編集部:
大学が果たさなければならない役割は大きいということになります。
出口氏:
大学でできることは限られていますよ。企業が変われば大学は変わるんですよ。さらにこういう人材を求めているということも言う必要はないです。極端に言えば日本の超一流企業は、どこの大学でも優が8割以上ないと幹部として採用しない、とかを決めればいいんです。あるいはTOEFLテストのスコアで100をとっていないと面談にも進めないとか。要するに基本はインセンティブですから、そういう「仕組み」を社会が作れば、大学は変わっていきます。「仕組み」をうまく作った会社が、あるいは社会が、やはり成長していくんですね。人間はもともとみんな怠け者で意識が低いので、「仕組化」することが一番大事になります。
編集部:
出口社長からご覧になって、うまく「仕組み」を作っている国とか組織というのはどんなところがありますか。
出口氏:
例えば韓国のサムスンはずっと前から英語力がなければ採用していません。極めて簡単で、大学の成績証明書を重視し、英語力を重視する会社は世界中に山ほどあります。
編集部:
なぜ日本ではそうはならないのかということですね。
出口氏:
それはいわゆる「1940年体制」といわれている、戦後の高度成長期の思考形態から抜けていないからです。日本は戦後キャッチアップ型の経済で、アメリカを真似て電機産業、自動車産業を作ればこの国は豊かになると考えて、人口も増加し高度成長も続いたわけです。ですからそのような「仕組み」においては、考える人はいらなかった。そのような「仕組み」の中では、大学生の「青田買い」というシステムは合理的だったんです。しかしグローバル社会になって人口も減り、先進国になり、モデルとする国もなくなれば、国を発展させるためには考えるしかなくなります。社会の基本的な枠組みが変わった中で、高度成長時代と同じことを行っていて経済がうまくいくはずがありません。
編集部:
子どもも少なくなり、高齢化も進み、でも競争相手は増え、そういう中で英語が世界共通言語となってきています。
出口氏:
グローバル経済の下で、デファクトスタンダードとして英語がリンガ・フランカになっているのでこの世界で生きようと思ったら英語を勉強するしかないわけです。最近は政府の方からも「公務員試験等にTOEFLテストを入れよう」とそういう前向きな発言も聞かれることは、それは日本のために非常にいいことではないでしょうか。人事院も総務ベースで考えているということは大変いいことだと思います。一番大事なことはやっぱり就職を変えることですよ。それといくら英語力がTOEFLテストで身についても、自分の中にコンテンツがなければ、何にも語れないので、基本的には世界中の大学生よりもたくさん本を読まなければ、賢い優秀な若者はできない。コンテンツを勉強させるというのがグローバル人材の最たるものじゃないでしょうか。

 

(※1)ダイヤモンド・オンラインで連載されている「出口治明の提言:日本の優先順位」のこと

[参考記事]
第57回 グローバル人材とは何か、どうやって育てるのか(ダイヤモンド・オンライン)
第13回 東大の「秋入学」は、企業の国際競争力の強化にもつながる(ダイヤモンド・オンライン)

 

次号は「ライフネット生命保険株式会社 代表取締役社長 出口治明氏インタビュー -後編-」をお送りいたします。

ライフネット生命保険株式会社代表取締役 出口 治明氏
  • ライフネット生命保険株式会社
    代表取締役社長 出口治明氏プロフィール
  • 大学を卒業後、日本生命保険相互会社に入社。生命保険協会の初代財務企画専門委員長として、金融制度改革・保険業法の改正に従事。 ロンドン現地法人社長、国際業務部長を経て、2006年にネットライフ企画株式会社設立、代表取締役就任。2008年にライフネット生命保険株式会社に社名を変更、生命保険業免許を取得。現職。
  • ライフネット生命保険株式会社
  • ライフネット生命保険は、相互扶助という生命保険の原点に戻り、「正直に経営し、わかりやすく、安くて便利な商品・サービスの提供を追求する」という理念 のもとに設立された、インターネットを主な販売チャネルとする新しいスタイルの生命保険会社です。また、2012年に東京証券取引所マザーズ市場へ上場しました。
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