スペシャルインタビュー
英語を活かしグローバルに活躍されている方や話題の企業や団体にインタビュー
- 田村耕太郎氏
- 一般財団法人 日本戦略支援機構
代表理事
“終身雇用を保証できる会社がどれくらいあるのか、これから安定を追及するのは不安定を追及することの第一歩ではないのか”
ご自身が海外に目を向けるようになったきっかけを教えてください。
- 田村氏:
- きっかけは単なるミーハーです。鳥取県という自然に囲まれた田舎で生まれまして、小さい頃からとにかく『見たことないものが見たい』という思いが強く、東京に行きました。そこから次は『世界を見てみたい』という好奇心が湧き、ノースカロライナ州のデューク大学に長期留学をしました。
- 編集部:
- 特にアメリカの大学は、色々な国から学生が集まってきていてとても多様性に富んでいますが、最初に感じたことや思われたことはなんでしょうか。
- 田村氏:
- 多様性を肌で感じることができる環境がうらやましかったです。日本にいると例えば、コケイジャンの方を見るとアメリカ人という反応がありますが、実際はアルゼンチンだったり、ヨーロッパだったり、南アフリカだったり、色々な国の方がいることがわかりました。日本人の良さも再認識できましたし、彼らがどうして違うのかということについても、彼らと話していて、歴史とか環境とか置かれた文化、その背景にある考え方や、宗教に対する姿勢とかがまったく違いましたので、本当に刺激的で脳が活性化された気がしました。
- 編集部:
- 実際見て知るということはそれまでの、読んだり聞いたりという経験とは違いますね。
- 田村氏:
- まったく違いました。もちろん異文化体験や多様性の中に一人ぽつんと置かれる体験でも違いを感じましたが、その違いということでも、大きく二つに分けると世界が日々大きく変わっていることと、もう一つは日本も捨てたものではないなということを知るという二つがありました。その違いを知る上で海外に出ることは、ネットを見たり、本を読んだりするよりもはるかに大きいことだと思います。また、日本に入ってきている情報がいかに少ないかということに気が付かされました。例えばテロとか、経済変動などのビッグニュースは日本の大抵のメディアも押さえていますが、それ以外の情報は入ってきていません。一般的にアメリカといってもテキサスもあれば、ユタもあれば、カルフォルニアもあれば、NYもあるように、我々も一部しか切り取っていないのだと実感しました。
- 編集部:
- 今のお話を聞くと、ニュースになる前の色々うごめいている、これから始まろうという動きは、なかなか日本語でのニュースネタにはならないですが、実際にはそういう情報は、英語では様々飛び交っていることもあるのではと思いますがいかがでしょうか。
- 田村氏:
- 例えば、今年春のボストンの爆弾テロ事件に関しても、私はちょうどその時アメリカにいたんですが、最初に流れている情報は現地と日本では異なりました。現地に行けるなら行った方がいいですが、もし、セカンドベストがあるならば、英語で情報を集められたら全然違うと思います。そういった意味でも、英語ができるだけで人生が変わると思います。情報を早く原文のまま拾えるというメリットは非常に多い。英語力は絶対に手に入れた方がいいと思います。
- 編集部:
- 情報を把握されるという点では、最初に留学されてからと現在ではかなり変わりましたか。
- 田村氏:
- 早くていい情報が手に入りやすくなったこともありますし、留学しますと色々な国の方と友人になれるので、その国に行った時にアシストしてもらえたり、旅行では味わえないような濃い体験ができたりします。また、英語を獲得して一定期間海外に滞在するようなチャンスをつかむということは、昔よりもハードルが低くなっています。今はちょっと円が安くなっていますが、私が留学した当時は200円~250円の時代なので、その頃に比べれば半額ですし、しかも格安航空券などありませんでしたから、当時アメリカに行くにはエコノミーでも30、40万円はかかりました。現在は割引レートを探せば5万円くらいで行けます。為替レートで言えば、ホテルだって私が行ったころよりもいいところに泊まることが出来ますし、なぜ好条件が揃っているのに、海外に行かないのかと思います。
若者が海外に行かなくなったと言われる原因はなんだと思われますか。
- 田村氏:
- 私は大いなる錯覚が原因だと思います。日本には何でもあって、とても進んでいて、最新の情報があり、外国の文化も結構入ってきて、日本の中にいても全部知っているような錯覚になるのだと思います。我々が学生の頃はインターネットがなかったので、『行かなければいけない』という渇望感があったのですが、今の若い方は『十分知っているよ』っていう感覚になっているのだと思います。でも、世界は瞬時に情報が更新され、ものすごいスピードで動いています。アメリカでも、ジャカルタ、シンガポール、中東、アフリカなどの新興国でも、『百聞は一見にしかず』と言われるように、世界はダイナミックに動いていますから、我々が最新だと思っている時から日々動いているのです。そこに対するギャップに気づいたら、行かずには死ねないと思うでしょう。加えて企業の姿勢も大きいと思います。留学をもっと評価すべきです。下手をしたら留学すれば就活に不利との印象を学生に与えています。学生が留学に二の足を踏んでいるのはそういう理由も大きいと思います。
- 編集部:
- 日本に入ってくる情報は入ってきた時点で古くなっていて、実際にはそれよりも、早く動いている、そういうギャップは日本の中にいるとあまり実感しません。
- 田村氏:
- 私がなぜそう思うのかというと、私が以前書いた本を手に取ってくれて実際に海外に行ったほとんどの方が『行ってよかった』『ガイドブックを見て行った気分になっていましたが、全然違っていました』というんです。もちろんガイドブックにも正確な部分もありますが、上海や、シンガポール、ドバイなど最近は1年経つと全く違う街の様相になっている国も多いので、ガイドブックの情報が古くなってしまうこともあります。それが良いとか悪いとかではなく、ただみんなが都市の良いところ、自然の良いところ、マーケットの活気があるところに実際に行ってみてよかったと、実体験することが大切だと思います。
- 編集部:
- 実際に行くと都市の匂いを感じることができます。人の匂いや空気など、例えば上海では活気があり大きな動きがあり、それを感じることができます。
- 田村氏:
- 先ほど話した企業の姿勢に関してですが、私は「留学を評価しないような会社に入るのは危険だ」と学生に言っています。ただでさえ、今後日本企業のサバイバルは厳しいと思いますが、社員に多様性を求めない企業はその中でもさらに厳しいと思います。よく、若い人は手堅く終身雇用を狙うために、『就活を3年から始めなくてはいけないので留学なんていけません』というのですが、私は彼らに『終身雇用を保証できる会社がどれくらいあるのか、これから安定を追及するのは不安定を追及することの第一歩ではないのか』と言います。日本では過去に大手航空会社や大手証券会社など絶対安定と言われていた企業が倒産しました。誰も想定できないことが起こります。皆さんのあと60年70年ある人生の中で、安定を最初から求めずにちょっと寄り道をしても世界を見てきたほうがいい。やはり世界を感じて就職の前に一歩引いて、冷静に見る機会をできるだけ早く作った方がいいと思います。
- 編集部:
- 18歳を過ぎて大学に進学し卒業した後、その年代が一番吸収しやすいともいえます。
- 田村氏:
- それは、中学生でも高校生でもいいと思います。例えば、今、日中韓の関係が非常によくありません。お互い自分の国だけにいて、自国の情報だけを見て、自国の教科書だけ見ていることが原因の一つではないでしょうか。しかし、今はそのような状況でも、難解な中国語や韓国語を勉強せずに英語さえ勉強すればコミュニケーションを取れる環境になっています。柔軟でより歴史に対して客観的に学べるような時期に1週間でも2週間でも行って、『なぜ中国、韓国の人はそういうふうに考えるのかなぁ』など考えながら旅してみたら、日中韓の次世代の関係も変わってくると思います。
- 編集部:
- そういった意味でも、若い世代の交流の方がよりストレートにお互いの思っていることを言い合えると思います。
- 田村氏:
- 歴史を知らなくても許される時期ですし、私の世代も徐々にそうなってはいますが、今の若い人たちはさらに、英語がマストになっていますよね。私の時は、多少は中国語や韓国語を勉強しなければと思いましたが、今は英語という共通のプラットホームで、これだけコミュニケーションが取れますからそれだけ大きなチャンスを広げることになります。
- 編集部:
- 韓国の高校生は、韓国語も日本語も英語もトライリンガルでできる学生も多いと聞きます。
- 田村氏:
- そういうことも、いい影響を与えると思います。私が親しくしている東京大学の学生サークルの京論団という「東京」と「北京」の京を合せて、東京大学と北京大学の同世代の学生で交流しようという会があるのですが、ここでは共通言語を英語にしています。東京大学と北京大学の学生の英語力は、TOEFL®テストのスコアでいうと15点から20点近く違うということがここで初めてわかります。日本の学生は、自分たちは日本の最高峰で帰国子女も多くいるのに、ほとんど留学していない北京大学の学生の方が圧倒的に英語ができる。彼らはそこで打ちのめされて目が覚め、それから猛勉強を始めました。俺たちは同じようなアジア人で同じようなハンデがありながら、なぜ英語が遅れているのか。日本中の英語の試験ならば東京大学なのでトップクラスです。それが世界共通の英語の試験になったらこんなものだったの、というギャップがいい刺激を与えています。
【参考著書】
君に、世界との戦い方を教えよう 「グローバルの覇者をめざす教育」の最前線から 講談社
次号(8月27日更新予定)は「田村耕太郎氏インタビュー ―後編―」をお送りいたします。
- 田村耕太郎氏 プロフィール
- 前参議院議員(二期)。日本戦略支援機構代表理事。第一次安倍政権で、アベノミクスの司令塔、内閣府大臣政務官(経済財政担当)を務める。慶應大学院、エール大学院、デューク大学院、東京大学EMP修了。日本人政治家で初のハーバードビジネススクールのケースの主人公になる。前大阪日日新聞社代表取締役。
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