スペシャルインタビュー

英語を活かしグローバルに活躍されている方や話題の企業や団体にインタビュー

中川智皓先生インタビュー
  • 中川智皓先生
  • 大阪府立大学 工学研究科 機械工学分野 助教 博士(工学)

 

“ディベートは勝ち負けが必ず決まるものなので、そのように追い込まれる状況が英語力の向上に繋がった”

英語との関わりや即興型英語ディベートを始めるきっかけなど教えてください

中川先生:
英語を習い始めた中学生の頃から英語自体に興味はありましたが、中学・高校では特別な英語ではなく一般的な受験英語を学んでいました。たまにALTの先生などの授業でネイティブの英語を聞くこともありましたが、特別な英語教育を受けていませんので、いざ英語を話そうと思っても全く話せないという状況でした。大学では、元々英語に興味があったこともありESSという英語の部活に入りました。ESSでは、ディベートとディスカッション、スピーチのアクティビティなどの活動があり私はディベートを選択しました。そこでのディベートは準備型と言われるもので、1年間同じ論題で肯定と否定に分かれて勝負するという形で、ルールも1年間同じ論題をいくらでも調べていいというものでした。その準備型のディベートを2年間程経験したことで、私は英語をかなり使いこなせているような気分になっていましたが、あるとき外国の人との交流会に参加した時に全く話せないということがありました。疑問に思い原因を考えた結果、準備型のディベートでは準備したものを読んでいるだけで「読むことと話すことは全く違うことだ」ということに気がつき、世界で主流の即興型のディベートを学ぶことにしました。
即興型のディベートでは論題は毎回変わり、準備時間も15分、30分など限られているため、その時点で自分の持っている知識のみを使うことになります。そして一人7分間のスピーチの時間が与えられ、その中で自分の力のみで話さなければなりません。初めて即興型を行った時には、1分とか最長でも3分くらいしか話せずとても困りましたが、ディベートは話さなくては勝てないので「頑張って話そう」という気持ちを持ち、3か月間毎日練習して、7分間話せるようになりました。これは私一人だけがそうなったわけではなくて、普通の英語教育を受けて大学に入ってきた後輩たちも毎日練習した結果、早くても3か月、遅くても1年くらいあれば即興型で話せるようになりました。また、ディベートは勝ち負けが必ず決まるものなので、そのように追い込まれる状況が英語力の向上に繋がったのだと思います。

中川智皓先生インタビュー

編集部:
3か月間即興型ディベートの練習をされたということですが、具体的にはどのような練習をされたのでしょうか。
中川先生:
私はとにかくラウンドを繰り返しました。ラウンドというのは実際にやってみることで、ある意味練習試合のようなものです。1日のうち授業の前に7時半から9時まで1ラウンド行い、授業が終わってから16時半から18時まで2ラウンドめ、そして18時から19時半と計3ラウンドを毎日行いました。最初は言いたいことがあっても言葉が出てこないということばかりで、ものすごく苦労しました。
編集部:
最初に苦労はするができるようになる、ということは、例えば自転車に乗る練習のように、とにかく実践で慣れるしかないということでしょうか。
中川先生:
本当にそうです。最初はものすごくしんどいです。慣れるしかないですね。ですが慣れれば忘れることがないのでずっと話すことができるようになります。
編集部:
準備型と即興型のディベートの両方をご経験され、それぞれの面白さや難しさなど違いはありますか。
中川先生:
まず、準備型のいい点は、徹底的に調べるのでリサーチ力がかなりつくところです。徹底的に調べるリサーチ力というのは、理系では文献を読み込むことや研究調査などそういうところにも繋がってきます。また、論理がしっかりしていないと勝てないので、たとえ屁理屈に思えることでもしっかりエビデンス(証明)があればいいと、そういうゲーム的な面白さもあります。
一方即興型は、いくら論理的に正しくても人の心を動かすことができなければ勝てません。一般聴衆をジャッジとしていることもあり、非常に実用性があり、好感度を持って受け入れられる話し方をしているか、そういうところが鍛えられるので現実のディスカッションに即しています。また問題が毎回変わるため、中には自分の興味がない論題に当たることもあります。その論題に当たった時に、ディベート後「わからなかった点はどこか」を考え復習することによって、どんどん知識量も増えていくので、そういったところも即興型の魅力になります。
編集部:
ディベートのジャッジメントはどのように行うのでしょうか。
中川先生:
準備型ではその論題についてある程度知識があるということが前提です。ジャッジもその論題について勉強して知っておかなければいけません。即興型はジャッジが一般聴衆のため、普段から新聞を読んだり、ニュースを見ている人をジャッジの対象にしています。勝ち負けはどちらの主張に説得力があったかというのを判断していきます。説得力の中身というのは、内容、理由付け、例があるか、わかりやすかったかという点と、表現の仕方や声の大きさが十分に届いていたか、ずっと下ばかり向いているのではなく、きちんとアイコンタクトができていたか、などの2つの点から主に判断します。
編集部:
即興型の一般の聴衆というのは、大会があった時にそこに来場されたオーディエンスということですか。
中川先生:
いいえ、違います。最低限ルールをわかっていないと公平なジャッジができないと思いますので、ルールがわかっていて多少経験を積んでいる方が行います。
編集部:
中川先生もジャッジをされるのですか。
中川先生:
準備型も即興型も両方ジャッジをしています。何年か前にアジア大会の審査員長をさせていただきましたが、審査員なので論題を作る側にもなります。色々な国の人たちにとって公平になるようにバランスを考えて問題を作らないといけません。また、これまでは日本人のディベーターが非常に少なかったので、日本人に有利な論題というのはあまり出ませんでしたが、最近では日本人のディベート人口が増えてきたので日本人にも有利な論題が出てくるようになってきています。

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編集部:
アジア大会にはどのような国が参加されているのでしょうか。またアジアの中には英語が母語の国もありますが、やはりネイティブの人が有利なのでしょうか。
中川先生:
大会にもよりますが、アジアではシンガポールやマレーシアはすごく強くまたディベート人口も多いです。世界大会ではイギリス、オーストラリアやアメリカなどが強いです。また、ネイティブの人たちは言語の面で有利ということがありますが、ディベートというのは一つの論題について、肯定と否定で戦うという枠組みがしっかり決まっているので、日本人のようにネイティブでなくても、同じ土俵に立つことができます。私も以前に日本人の学生と組んで世界大会に出たことがありますが、アメリカのチームにも勝ちました。
編集部:
論理構成や話の展開などがしっかりしていれば十分に勝機があるということでしょうか。
中川先生:
はい、単に英語が話せるだけではだめです。英語の流暢さというのはどうしてもネイティブの人に負けてしまうこともありますが、流暢でないからといって内容が負けているわけではありませんから、そこに勝機があります。
編集部:
日本人が強いトピックというのはどういうものでしょうか。
中川先生:
国際的な論題ですと「日本は国連の常任理事国になるべきか」とか「自衛隊」のことなど、国際社会の中の日本に関するトピックになるかと思います。逆にとても弱いと感じるのは宗教関係の論題です。このトピックの時は、マレーシアなどは多宗教国家でもあるため、参加者は多くの例を出してくることもあり、圧倒的な強さがあります。そもそも何を言っているのかわからないことが多く、自分の知識のなさを思い知らされることもあります。
編集部:
そのための知識量を増やしていくにはどうしたらいいのでしょうか。
中川先生:
それは、もう日々勉強していくしかないです。ディベートの際にわからなかったトピックについて自分で調べたり、興味がない分野のニュースでも関心を持つなど少しずつ増やしていくしかありません。

次号は「大阪府立大学・中川智皓先生インタビュー ―後編―」をお送りいたします。

 

中川智皓先生インタビュー
  • 中川智皓先生 プロフィール
  • 大阪府立大学 工学研究科 機械工学分野 助教 博士(工学)
    東京大学大学院 工学系研究科 産業機械工学専攻 博士課程 修了(2010年)。
    2010年より現職。専門は、機械力学・制御。
    東京大学英語ディベート部を設立し、大学生英語ディベート世界大会ESL準決勝進出(日本最高記録)を果たし、東京大学総長賞を受賞(2006年)。
    堺市・大阪府立大学 産学官連携人材等育成事業「即興型英語ディベートによる英語コミュニケーションスキルの育成事業」責任者、文部科学省助成事業 高等学校における「多様な学習成果の評価手法に関する調査研究」研究代表者などを務める。
  • ディベートの事業について
  • 文部科学省助成事業 高等学校における「多様な学習成果の評価手法に関する調査研究」
    http://englishdebate.org/

    本事業での即興型英語ディベートでは、授業時間内で各人のスピーチ時間を設けることで英語での発信力を鍛え、勝敗によってモチベーションを高め、各種スキルを効果的に身に付けます。
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