スペシャルインタビュー
英語を活かしグローバルに活躍されている方や話題の企業や団体にインタビュー
2014.07.22
松田悠介氏
特定非営利活動法人Teach For Japan 代表理事
“自分の思う教育に対して共感してくれて子どもと向き合うことができる仲間たちを集めて、その授業を受けたい子どもたちに対して120%の力で教えていくような最高の教育改革をしたい”
教育との関わりや教員を目指すきっかけを教えてください
松田氏: まず、私自身中学生の頃にいじめられたという体験があります。当時は、英語も勉強も嫌いで体育もできずいじめられていたのですが、その時に救ってくれたある体育の先生がいました。その先生の教えを通じていじめられなくなり、体育が好きになっていくというプロセスを経験し、自分が受けた恩を恩返ししたいという想いで母校の教員になったのが教育との関わりの始まりです。教員になってからは「自分は子どもたちのために何ができるだろうか」と朝から晩まで考えて、週末も子どもたちに向き合うようにしていました。ですが、教員として教えていくと、中には生徒に真摯に向き合わずに、教員としての責任を放棄しているように見える先生もいて、そのような現状に違和感を持っておりました。
この現状を変えるために自分が考えた選択肢は二つあって、一つは教員を辞めて一人でも多くの子どもと向き合うことができる大人を増やしていく学校や仕組みを作るということと、もう一つの選択肢は、このまま20年30年と現場で過ごして、後から入ってくる後輩教員のロールモデルになり、常に子どもに向き合い続ける姿勢を持って教育現場にとどまるというものです。しかし、あるとき、このロールモデルになるという選択肢をベテランの先生に相談してみると、「学級崩壊を引き起こしているあの先生は、昔は子どもに対して熱い思いを持っていた、しかし20年、25年と現場にいるうちに、いつしか情熱というのが消えていったんだよね」という話を伺い、とてもショックを受けました。学校文化そのものが時にはそういった情熱を消していってしまうのだとわかって驚くと同時に「今自分は教育にとても熱い思いを持っているけれども、この熱い思いをこのまま維持し続けることができるのだろうか」という自らの問いに対して明確なYesという返事ができるかどうか自信が持てなくなったのです。結果、それ以降子どもの前に立つということにしっくりこなくなり、最終的に前者、つまり学校や仕組みを作ることの選択をしました。自分の思う教育に対して共感してくれて子どもと向き合うことができる仲間たちを集めて、その授業を受けたい子どもたちに対して120%の力で教えていくような最高の教育改革をしたいと思うようになりました。
しかし、学校を経営するという立場になると今までの教育に対する思いだけでは足りず、プラスアルファで経営する力、マネジメントする力が求められてきます。そこで学校経営の勉強をするため、まず国内・海外問わずそのような勉強ができる大学院を調べました。その中でもアメリカでは、大学・大学院で教えている教授は、単に大学内にとどまるばかりではなく、かなり頻繁に民間との行き来をし、民間分野でもその分野の最前線にいる魅力的な方が多く、理論と実践との融合も非常に多くあるように思えました。そのあたりに惹かれたのでアメリカに留学することになったのだろうと思います。
まず、自分が興味を持った大学や、ニュースサイトのランキングにある大学院のシラバスを全部取り寄せて、そこの大学の教授にもアポをとりSkypeで話をしたり、最終的にどこに行きたいのかというのを決めていきました。中でも面白かったのはハーバード大学(以下、ハーバード)の教員に事前にどこで学ぶかなど悩みを相談したところ、「ハーバードに来ても9か月のプログラムということもあるし、リーダーシップのすごく深いところまで学ぶことはできない。では我々が何をあなたに与えることができるかというと、人脈の提供と、ネームブランドの提供、そしてリーダーシップの概念だけは伝えることができる。そして理論と実践が融合できることがあれば教えてあげられるよ」とおっしゃったんですね。それが私にとって大きなインパクトとなり、その後の軸となりました。自分はまず一刻も早く学校を作りたかったので、何が必要だったかというと、理論というよりも、学校を作るために必要な状態を作ることでした。またハーバードの教授は「うちなんかはとっとと1年くらいで卒業して、うちの卒業生には世界で暴れて世界を変えて欲しいんだ」ということを言っていて、その一言は、自分の背中を押してくれた要因になりました。アメリカの大学院に行くための英語の勉強はそこから本当に真剣にやりました。
編集部: 日本でそれまでに学ばれた勉強の科目としての英語と、例えばアメリカの大学院の中で使う英語は内容がかなり異なるわけですが、勉強していく中で戸惑いはありませんでしたか。
松田氏: 私自身、高校・大学でちゃんと日本の教育の英語を勉強していたわけではないので、TOEFL® テストが、以前のTOEFL® PBTテストのように文法的な要素も多く問われる問題であればきつかっただろうと思います。私自身は「聞く」「話す」ということを通して、アカデミックの英語を学ぶモチベーションを維持できるような勉強の仕方を創意工夫しました。具体的には新宿や六本木のアイリッシュパブに毎週金曜日に飲みに行き、自分の中でルールを決めて2~3名の外国人と話すというようなことを、1年半ずっとやっておりました。そういう意味では、私にとってはTOEFLテストが4技能を総合的に測定するTOEFL iBT® テストに変わったことは、良かったことだと思います。コミュニケーションしていくことを学んでいくモチベーションの源泉は、異文化の人たちとつながる瞬間にあると思います。異文化の人たちと英語というツールを通じて繋がることで「英語を学ぶことは楽しい」と感じるのだと思います。そういったところを要素として英語教育においては組み込まれて欲しいと思います。
ハーバード大学に入学された時のことをお聞かせください
編集部: 著書(*)の中でハーバードに志願された際に、点数的には足らなかったと書かれておりましたが合格となった要因はなんだったと思われますか。
松田氏:
もちろん受かりたくて一生懸命勉強はしましたが、点数も足りていなかったので私自身本当に受かると思っていませんでした。そういう状況の中でハーバードに受かったこともあり、渡米して最初にアドミッションオフィスに行きました。ご挨拶をさせていただいて「なぜ、自分が合格したのか教えて欲しい」と名前を伝えたところ「あっ、ユウスケね」って覚えてくれていて「ユウスケのエッセイは今でも覚えているよ」とすぐに私の出願書を出してくれて、「こういった思いや原体験があって教員になり、実際教員になってからもこういうことに苦しんでいてこういう問題意識のもと学校を作りたいんだよね。そして学校を作った後は、こう展開していくんだよね。その学校を作るために、この教授のこの授業を受けたいんだよね」と詳細に話してくれてとても驚いたし、嬉しく思いました。要するにハーバードの審査の基準は二つあって「Why Harvard?」(なぜあなたはハーバードでなければいけないのか)という質問に対して明確な答えがあるのか、もう一つは「Why you?」(あなたがハーバードに貢献できる価値はなにか)ということへの答えです。私のエッセイを読んでくれたアドミッションオフィサーは、「点数は確かに足りないけれども、あなたには言語の問題以上に提供できる価値がここにはある」ということを言ってくれて、それは私にはとても救われた部分でもありました。アメリカの大学院で学んでいくということは、ただ言語を学ぶのではなくて、色々な価値観をぶつけ合うことによって、新しい発見や学びを仲間から学んでいくんだということを強調されていたことは印象的で、それは自分にとって非常に大きな影響を与えられた考え方でした。
留学中の印象的な出来事を教えてください
松田氏: いくつかありますが、一つはやはり「入試のあり方」の違いというのは自分にとってはすごく大きかったです。先ほどもお伝えしましたが、彼らは学びの場を設計しているわけです。それは非常に印象的でした。二つ目としてはプロフェッショナルスクールだからこそかもしれませんが、非常に理論と実践のバランスが上手くできていたことがあります。リーダーシップに関する論文はたくさん読まなければならないのですが、その論文自体を読んだり暗記することが学びではないということを、教授は毎回強調されていて、実際の授業ではその論文の内容を解説するわけでもなく、読んであなたがどう感じたのか、というのを自分のバックグラウンドや仕事や出身の国などを通して語り合うわけです。ディスカッションしたところで理論を内省化したものを次は実践にかしていくわけですけれども、実践への移し方というのは二つあって、まず、ディスカッションの際にクラスルームの中でどうリーダーシップを発揮してディスカッションするのかということと、もう一つはインターシップを1年間通年で行って、そういった学んだばかりのことを少しでも実践にかすようにしていくということです。そういった形で、理論を実践に落とし込んでいくためのディスカッションや、実際に自分の考えを実践していく場が強制的に単位として存在していたということはすごくよかったです。それを通してわかったのはリーダーシップ論というのは、直面する困難を乗り越えていくエネルギーであり、それを共感に移していく発信力であり、それが組織をマネジメントする力に繋がっていくことを一通り感じることができました。
また、ハーバードでは寮生活をしていたのですが不思議な体験をしました。例えば、中国や韓国とは、現在メディア上では険悪な関係のように報じられていますが、寮生活では自然といつも一緒になるのが中国人と韓国人でした。そもそも日本人がほとんどいないこともありましたが、一致団結ではないけれども非常に引き寄せられることになったことに、やはり地域性というものを感じました。その異文化な生活の中で学びというのは多様な価値観等をぶつけ合う中から感じられるものだという気づきや発見は非常に大きなものでした。
最後に何よりも今の生活に繋がっていることですが、Teach For AmericaというアメリカにあるNPOと出会えたことは、私にとってすごく大きかったです。Teach For Americaというのは私がやろうとした子どもに向き合う大人を一人でも多く増やしていく活動で、社会全体を巻き込みながらやっており、何よりも優秀で情熱がある人たちが教育の課題の解決に引き続きコミットしていくということに非常に感銘を受けました。また、その卒業生達がハーバードの同級生にもいて、教育課題の解決をしていく人たちの登竜門になっており、「自分が学校単位でやろうとしていたことを、社会単位でやっているこのモデルに出会ってしまったのだから、自分は帰国したらこのモデルを是非日本で実現していこう」と思うに至りました。
(*)グーグル、ディズニーよりも働きたい「教室」 ダイヤモンド社/松田悠介(著)
次号(2014年8月12日更新予定)は「Teach For Japan 代表理事 松田悠介氏インタビュー ―後編― 」をお送りいたします。
松田悠介氏 プロフィール
1983年、千葉県生まれ。2006年日本大学文理学部体育学科卒業後、体育教師として都内の中高一貫校に勤務。その後、千葉県市川市教育委員会 教育政策課 分析官を経て、2008 年9 月、ハーバード教育大学院修士課程(教育リーダーシップ専攻)へ進学し、修士号を取得。卒業後、外資系戦略コンサルティングファームPricewaterhouseCoopers に勤務したのち、Teach For Japan の代表理事として現在に至る。京都大学 特任准教授。
特定非営利活動法人Teach For Japan
特定非営利活動法人Teach For Japan。2010年設立。「日本のすべての子どもが素晴らしい教育を受けることのできる社会の実現」をめざし、独自に採用・選抜・育成した人材を公立小中学校の教師として現場に送り出し、赴任後2年間にわたり継続的に支援するフェローシップ・プログラムを運営。Teach For All ネットワーク加盟団体。
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