スペシャルインタビュー

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Teach For Japan 代表理事 松田悠介氏インタビュー
  • 松田悠介氏
  • 特定非営利活動法人Teach For Japan
    代表理事

今回は特定非営利活動法人Teach For Japan 代表理事の松田悠介氏インタビューの後編になります。前編の内容はこちら

“今までは「留学する人が受けるテスト」という括りだったが、今後はおそらくもっと身近に浸透していくのだろうと思う”

Teach For Japanを立ち上げたきっかけを教えてください

松田氏:
いくつか理由はありますが、一つは最初にお話したようにいじめを受けた際に教員によって救われたという原体験があります。もう一つは、私自身が受けた教員養成や教員採用のあり方にすごく疑問を感じており、我々Teach For Japan(以下、TFJ)が行っている教員養成や採用のあり方を日本の10年後、20年後に形にしていきたいという思いがあります。また、大学3、4年生の時に無料の学習教室を行った際に経験したことも理由の一つです。そこに集まってくれた8名の一人親家庭の子どもたちを通じて彼らが直面している様々な困難を知りましたし、困難な環境の中で自己肯定感が持てずに育ってきた生徒と接して、すごく考えさせられたことがありました。そしてそのような厳しい状況でも、教員が子どもに真摯に向き合うことによって、子どもたちの意識は変えられるという経験をし、日本国内でそういった厳しい状態にいる子どもたちが、一人でも多く自立して自分の可能性を活かせるフィールドに行くためのサポートをしていきたいと思います。

また、これらの原体験を通して分かったことですが、改めて日本の貧困に関するデータを見たときに、日本の教育が抱える問題は非常に深刻だということに気づきました。例えば日本における子どもの貧困率はOECD(経済協力開発機構、現在世界34か国で構成)の国の中でも7番目に高く、国全体の貧困率についてもメキシコ、トルコ、アメリカに次いで4番目に高いわけです(OECD対日審査報告書 2013年版参照)。また、就学援助の小中学生が過去最高の15.64%(2014年2月文部科学省発表)に上っているという事実があります。過去最高になったということは、就学援助が必要な子どもの数が毎年増え続けていることを意味しています。ということは国が現状に全く対応できていないということです。そういったところでもTFJが目指す教育モデルの日本での必要性は非常にあるなと思い「やらなければいけない」という強い思いで2010年に立ち上げました。
編集部:
実際に活動を開始されて問題や障害はどのようなものでしょうか。
松田氏:
問題はたくさんあります。例えばTFJでは、採用基準にリーダーシップということを非常に重要視しています。我々の求めるリーダーシップというのは、問題解決する力やコミュニケーション能力というのを軸に入れているのですが、Teach For Americaが新卒にフォーカスして社会人のファーストキャリアとして2年間教えるということは、日本の場合はなかなか当てはまりません。当初は日本でも学校を卒業してすぐのファーストキャリアとして2年間学校現場に派遣したいと考えていましたが、大学生の時に経験している場数であったり修羅場であったりプロジェクトをこなしてきている数が、日本の学生の場合アメリカの学生と全く違います。そういった意味で日本では、3~4年社会人経験がある人を重点的に採用していくことになりました。またアメリカの場合は教員免許を持っていなくても学校で採用できる仕組みがありますが日本ではなかなか運用できません。また、日本は実績がないと動けないところもありますので、まずは教員免許を持っている人たちを採用し育成して、教育委員会に紹介していくところからスタートしました。また、免許を持っていない人たちに対して国が教員の免許を付与する特別免許状制度というものが以前からあります。この制度はほとんど知られていませんが、教職課程をとったり教員免許を持っていなくても、社会人経験をある程度持っていたり、きわめて高い英語の能力がある方は自治体の判断で特別に教員免許を得ることができるのです。この制度を活用して、TFJが目指す日本における教員派遣活動がようやく動き始めています。

Teach For Japan 代表理事 松田悠介氏インタビュー

編集部:
Teach For Japanの学習支援の対象は小中学生ですが、特別な理由があるのでしょうか。
松田氏:
TFJが考える二つの大きな日本の教育課題を解決しようと思うと、一番の予防的措置としてまず取るべきは、格差が開き始める原点である小中学生だと思っています。この時期に教員が真剣に自分と向き合ってくれて、学ぶ喜びを伝えてくれたか、英語を話す喜びを感じさせてくれたか、ということは最初の時点では小さな差なのかもしれませんが、成長するにつれ大きな差となり、克服するのが困難になっていきます。その差が小さい時点において埋めることが大切なので、小中学生を支援対象として活動していくことにしています。
編集部:
Teach For Japanを採用している自治体は増えてきているのでしょうか。
松田氏:
はい、確実に増えてきています。実は今、教員のなり手が不足しているという現状があり、特に英語については非常に質が低下してきていると嘆いている自治体もありますので、TFJのプログラムは付加価値の一つではあると思います。単に教員が足りていないから派遣しますということではなく、厳しい状況にいる子どもたちや誰も勤務したがらない学校に対して最高の教育を提供していくという思い。もう一つは英語にフォーカスして、小学校の段階から理想の英語の教室を形にしていくこと。また、採用の基準や育成の仕組みを体系化して、教育委員会に確立したサービスとしてこれを提供しシステムとして普及させていく。今の国の動き方では自治体や教育委員会、現場の学校が抱えている問題は解決できないですし、民間もお金にならないから行いません。だからこそ我々のようなNPOが社会的なリソースを結集して、機動力を持った状態で厳しい状況の子どもたちに教育を提供することと、併せて理想の英語教育のあり方を追求する、この両輪を実現していくことは非常に重要だと思っています。
編集部:
Teach For Japanの取り組みに今後若者をどう取り込んでいくのでしょうか。
松田氏:
世界34か国でできているわけですから、解決しなければならない問題があるにせよ日本でできないわけはありません。アメリカの就職ランキング1位になったTeach For Americaのように「わぁ、かっこいいなぁ」「携わらなければ損だ」と思えるようなムーブメントを起こしていきたいと思っています。TFJの活動を通してムーブメントに関わっていただける方が一人でも多く出てきて欲しいと思っています。

Teach For Japan 代表理事 松田悠介氏インタビュー

TOEFLテストに関してのお考えをお聞かせください

松田氏:
留学というところに紐づいてくると限りなくTOEFL® テストというのは非常に重要になってきますが、英語の学び方は多様でいいと思っています。また、私もリーディングやリスニングに含まれる採点されないダミー問題が分かるようになるほど数多くTOEFLテストを受験しましたが、留学をされる方は是非とも敬遠をせずに勉強してください。逆にTOEFLテストを乗り越えられなかったら、大学や大学院の授業は乗り越えられません。また、今までは「留学する人が受けるテスト」という括りでしたが、今後はおそらくもっと身近に浸透していくのだろうと思います。

Teach For Japan 代表理事 松田悠介氏インタビュー

TOEFL Web Magazineの読者にメッセージをお願いします

松田氏:
留学をされる方が多いと思いますが、留学をする際はただ単に自分探しのために留学に行くのではなく、やれることをまず国内で探してみて、今後自分のやりたいことや深めたいことが海外にあるのであれば、是非とも留学にいくことを決断してもらいたいと思います。そしてすでに目的があって留学を考えている人たちに関しては、目の前のハードルであるTOEFLテストに向き合って頑張っていただきたいと思っています。自分は決してハーバードにいけるようなバックグラウンド等は持っていなかったですが、あきらめずに最後までやり遂げた結果すごく貴重な経験ができました。大変ですがあきらめずに頑張ってください、頑張りましょう。

また日本の英語教育を考えたいという方は、是非ともTeach For Japanプログラムにご応募をお願いします。

 

Teach For Japan 代表理事 松田悠介氏インタビュー
  • 松田悠介氏 プロフィール
  • 1983年、千葉県生まれ。2006年日本大学文理学部体育学科卒業後、体育教師として都内の中高一貫校に勤務。その後、千葉県市川市教育委員会 教育政策課 分析官を経て、2008 年9 月、ハーバード教育大学院修士課程(教育リーダーシップ専攻)へ進学し、修士号を取得。卒業後、外資系戦略コンサルティングファームPricewaterhouseCoopers に勤務したのち、Teach For Japan の代表理事として現在に至る。京都大学 特任准教授。
  • 特定非営利活動法人Teach For Japan
  • 特定非営利活動法人Teach For Japan。2010年設立。「日本のすべての子どもが素晴らしい教育を受けることのできる社会の実現」をめざし、独自に採用・選抜・育成した人材を公立小中学校の教師として現場に送り出し、赴任後2年間にわたり継続的に支援するフェローシップ・プログラムを運営。Teach For All ネットワーク加盟団体。

    特定非営利活動法人Teach For Japan公式Webサイトはこちら
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