いくつか理由はありますが、一つは最初にお話したようにいじめを受けた際に教員によって救われたという原体験があります。もう一つは、私自身が受けた教員養成や教員採用のあり方にすごく疑問を感じており、我々Teach For Japan(以下、TFJ)が行っている教員養成や採用のあり方を日本の10年後、20年後に形にしていきたいという思いがあります。また、大学3、4年生の時に無料の学習教室を行った際に経験したことも理由の一つです。そこに集まってくれた8名の一人親家庭の子どもたちを通じて彼らが直面している様々な困難を知りましたし、困難な環境の中で自己肯定感が持てずに育ってきた生徒と接して、すごく考えさせられたことがありました。そしてそのような厳しい状況でも、教員が子どもに真摯に向き合うことによって、子どもたちの意識は変えられるという経験をし、日本国内でそういった厳しい状態にいる子どもたちが、一人でも多く自立して自分の可能性を活かせるフィールドに行くためのサポートをしていきたいと思います。
問題はたくさんあります。例えばTFJでは、採用基準にリーダーシップということを非常に重要視しています。我々の求めるリーダーシップというのは、問題解決する力やコミュニケーション能力というのを軸に入れているのですが、Teach For Americaが新卒にフォーカスして社会人のファーストキャリアとして2年間教えるということは、日本の場合はなかなか当てはまりません。当初は日本でも学校を卒業してすぐのファーストキャリアとして2年間学校現場に派遣したいと考えていましたが、大学生の時に経験している場数であったり修羅場であったりプロジェクトをこなしてきている数が、日本の学生の場合アメリカの学生と全く違います。そういった意味で日本では、3~4年社会人経験がある人を重点的に採用していくことになりました。またアメリカの場合は教員免許を持っていなくても学校で採用できる仕組みがありますが日本ではなかなか運用できません。また、日本は実績がないと動けないところもありますので、まずは教員免許を持っている人たちを採用し育成して、教育委員会に紹介していくところからスタートしました。また、免許を持っていない人たちに対して国が教員の免許を付与する特別免許状制度というものが以前からあります。この制度はほとんど知られていませんが、教職課程をとったり教員免許を持っていなくても、社会人経験をある程度持っていたり、きわめて高い英語の能力がある方は自治体の判断で特別に教員免許を得ることができるのです。この制度を活用して、TFJが目指す日本における教員派遣活動がようやく動き始めています。
世界34か国でできているわけですから、解決しなければならない問題があるにせよ日本でできないわけはありません。アメリカの就職ランキング1位になったTeach For Americaのように「わぁ、かっこいいなぁ」「携わらなければ損だ」と思えるようなムーブメントを起こしていきたいと思っています。TFJの活動を通してムーブメントに関わっていただける方が一人でも多く出てきて欲しいと思っています。
また日本の英語教育を考えたいという方は、是非ともTeach For Japanプログラムにご応募をお願いします。
松田悠介氏 プロフィール
1983年、千葉県生まれ。2006年日本大学文理学部体育学科卒業後、体育教師として都内の中高一貫校に勤務。その後、千葉県市川市教育委員会 教育政策課 分析官を経て、2008 年9 月、ハーバード教育大学院修士課程(教育リーダーシップ専攻)へ進学し、修士号を取得。卒業後、外資系戦略コンサルティングファームPricewaterhouseCoopers に勤務したのち、Teach For Japan の代表理事として現在に至る。京都大学 特任准教授。
特定非営利活動法人Teach For Japan
特定非営利活動法人Teach For Japan。2010年設立。「日本のすべての子どもが素晴らしい教育を受けることのできる社会の実現」をめざし、独自に採用・選抜・育成した人材を公立小中学校の教師として現場に送り出し、赴任後2年間にわたり継続的に支援するフェローシップ・プログラムを運営。Teach For All ネットワーク加盟団体。