スペシャルインタビュー

英語を活かしグローバルに活躍されている方や話題の企業や団体にインタビュー

  • 右から
    渋谷教育学園幕張高等学校 岩田久道先生
    渋谷教育学園幕張高等学校 3年生 三上喬弘さん
    渋谷教育学園幕張高等学校 2年生 白石航暉さん
    慶應義塾大学名誉教授/立命館大学客員教授 鈴木佑治先生
TOEFLテスト日本事務局の国際教育交換協議会(CIEE)日本代表部(以下、CIEE)は、全国の高校生が、理科・数学・情報等の複数の分野で科学の力を競う「科学の甲子園」を協賛しています。 3月に行われた「第4回 科学の甲子園」の優勝校には、昨年同様米国にて開催される全米の科学好きの高校生が集う「SCIENCE OLYMPIAD」への参加資格と、本年度から新たに副賞として「CIEE/TOEFL賞」である4日間の英語研修が授与されました。

「第4回 科学の甲子園」で優勝し、また「SCIENCE OLYMPIAD」でも「BUNGEE DROP」で5位入賞という素晴らしい成績を残された、千葉県代表・渋谷教育学園幕張高等学校の3年生三上喬弘さん、2年生白石航暉さん、顧問の岩田久道先生と、4日間の英語研修をご担当いただいた慶應義塾大学名誉教授/立命館大学客員教授の鈴木佑治先生との対談の様子をお届けします。

“入賞したのはまさに実践対応できたことにあると思う”

「SCIENCE OLYMPIAD」の感想

鈴木先生:
「SCIENCE OLYMPIAD」で競技に参加した感想や印象はどうでしたか。二人が参加した「BUNGEE DROP」(*1)は公開競技だったので観衆がいたでしょうけれど、たくさんいましたか。
三上さん:
大勢いました。
鈴木先生:
見物しているほうも競技のすごさや価値がわかるから、反応がすごかったでしょう。
白石さん:
僕たちが出場する前のチームで失敗が続いていたので、僕たちの結果にみんながどよめいていました。
鈴木先生:
失敗というのはどのようなことなのかな。
白石さん:
この競技はおもりをつけたひもを床に向かって落とすのですが、計算を間違っておもりが床に着いてしまったり、あとはゴム自体が外れたり、不慮の事故って感じです。
鈴木先生:
アメリカのチームは時間をかけて準備をしてきたと思うけど、それでも失敗する難しい競技だね。アメリカに行ってからはどんな対策をしましたか。
白石さん:
自分たちは競技の順番が早かったので、前に競技したチームをあまり見られませんでした。また見学できたチームも失敗ばっかりしていたので、直前の対策にはならなかったです。
三上さん:
思ったより失敗しているところが多かったですね。もっと接戦になるかと思ったのですが。
鈴木先生:
英語研修の時に「ゴムをどうしようか」「どこで買おうか」ってずいぶん相談していたようだったけれど、どこの会社のゴムを使用したの。
白石さん:
株式会社「気谷」のゴムです。
鈴木先生
「気谷」の方には、購入する時や購入後に意見を聞いたりしましたか。
白石さん:
「気谷」の方に競技の説明をして、どういう種類のゴムが良いかなどの意見を伺ったり、アドバイスもいくつかもらいました。
鈴木先生:
競技としては、おもりを2回落としますね。1回目と2回目で取り組みを変えたところはありましたか。
三上さん:
「科学の甲子園」で優勝してから、渡米前まで何度も使うゴムで実験をして、ゴムの関数を出そうとしたのですが、「SCIENCE OLYMPIAD」まで日数が短かったので、時間が全く足りませんでした。少ないデータから関数を出すのは厳しいことでしたが、それでも実験を重ねて白石君がそのデータの関数を出してくれました。1回目に落としたことで、ある程度今までのデータとの誤差がわかったので、それを2回目で調整しました。
鈴木先生:
なるほど。その修正の結果が2回目に出た、ということだったんだね。
白石さん:
そうです。でも振り返ってみると、まだまだ工夫の余地があるし、実験のデータの取り方にも工夫できることがあったと思います。今考えると「あれをすれば良かった」とか色々後悔が多いです。
鈴木先生:
準備期間はどのくらいありましたか。
白石さん:
準備期間はあまりなく、アメリカへ行く前日のギリギリまで実験を行っていました。
鈴木先生:
他のアメリカのチームは州の代表になってから準備期間があるから、時間をかけて競技に臨めると思うけれど、お二人は短い期間の中で準備して、しかも競技中にもデータを修正できたということは、すごく良い取り組みだったよね。
白石さん:
そうですね。時間がない中で準備したので、時間があれば5位以上は取れたと思います。
鈴木先生:
アメリカの優勝校はそれをやっているでしょうね。
白石さん:
多分そうだと思います。
鈴木先生:
でもそれにしても聞いていると、1回目の競技の後の冷静な判断には驚かされます。1回目と2回目の間にはどのくらい時間がありましたか。
三上さん:
そんなにありませんでしたが、事前に1回目の誤差から次の調整をしょうと決めていました。
白石さん:
最後は実験をやってきた三上さんの勘で、それがぴったりはまりました。
鈴木先生:
自分たちの競技が終わった後、他のチームの様子も見ましたか。
三上さん:
確か僕らの3つくらい前のチームが2位のチームだったんですが、そのチームは両方の試技とも僕らの2回目のようなしっかりとした計算で数値を出しているようでした。
白石さん:
関数電卓1個で計算しながら誤差を出していたんで、どういうデータを持っているのか、その仕組みが気になりました。よほど良いデータを持っていないと関数電卓1個だけではどうにもならないはずだと思います。
鈴木先生:
それも経験値というものがあるのかもしれないね。他のチームと競技前や後に意見の探り合いみたいな、そういった時間はありましたか。
白石さん:
そういう余裕はなかったです。「BUNGEE DROP」はシンプルな競技で、持参できるゴムも限られていて替えようがないんです。「SCIENCE OLYMPIAD」のwikiに公式のデータなどの情報も更新されていたので、それを事前に確認しました。
三上さん:
使うゴムによっても関数がとらえやすいものと、とらえにくいものがあるので、そこは実験してみないとわからないです。僕らはゴムを4つ用意していきました。

「科学の甲子園」優勝校渋谷教育学園幕張高等学校のみなさん

三上さん:
他の競技、例えば「FORENSICS」(法医学:*2)に参加したメンバーは競技直前まで準備を行っていました。「BUNGEE DROP」は開始前におもりの重さや落とす高さについてのルールが配られて、それにしたがっておもりを落とすというシンプルな競技です。だから言語の壁というのはそんなにありませんでしたが、「FORENSICS」となると、問題用紙もその場で配られて、回答も英語で答えないといけないんです。
鈴木先生:
「FORENSICS」に参加したメンバーは、言語の壁について何か話していましたか。
三上さん:
直接は聞いていませんが、とても難しかったと思います。
鈴木先生:
これこそ準備だよね。1年くらい前にわかっていれば、君たちはもっと良い成績が残せたと思いますよ。
白石さん:
今年から新しく競技に加わった「Science Quiz Bowl」(*3)も60チーム中16位というかなり良い成績を残せたんですが、この競技に参加した大鶴君も、言葉を多く使う競技だとわからない単語が結構あったと言っていました。
三上さん:
「SCIENCE OLYMPIAD」には他にもいろいろ競技があって、例えば飛行機の滞空時間を競うという競技があったのですが、それも公開競技で言語の壁がないと思うし、あれだったら日本のチームでも取り組みやすいから、上位を狙えるのではないかと思います。
鈴木先生:
表彰式の録画を見させてもらいましたが、あの中でアメリカ人のオーガナイザーの方が、去年までは日本チームはお客様のようにオブザーバーで来ていたけれども、今年は競技者として参加してくれたと述べていましたね。皆さんが真剣に取り組んでくれたことを非常に喜んでいらっしゃいました。他の競技に参加したら日本人の生徒はもっと多くの賞を受賞したかもしれないと、ある意味脅威を感じながらも、そうなってもらいたい、という思いがひしひしと伝わってきました。
白石さん:
全部で23競技もありますから、「科学の甲子園」優勝チームの人数だけでは無理だと思いますが、1位2位3位の連合チームを作って「SCIENCE OLYMPIAD」に乗り込んだら面白いと思います。
鈴木先生:
総合優勝したカリフォルニアのTroy High Schoolは、文系も理系も「科学の甲子園」の競技のようなことを日常的にしている学校で、「Project LEAD, Troy High School」では、車まで造ったりしているのがネットに載っています。彼らは、日頃から自発的にいろんな活動を行っていることも優勝の理由かもしれない。
三上さん:
今回Troy High Schoolがダントツで優勝しましたが、個別の競技では3位までの上位入賞校には名前が出てこなかったので、Troy High School以外の高校が優勝するものだと思っていました。
白石さん:
全ての順位を足した数字が小さい方が勝つということになっていますが、点数を見ると2位を大きく引き離してTroy High Schoolがダントツで少なかったです。個別の競技で入賞していなかったのにも関わらず、総合力では本当に強かったと思います。
鈴木先生:
今年はいろいろ準備しましたが、私から見て、皆さんが自分で競技を選んで、自分自身の得意なもので勝負できたら、かなりいいところまでいくんじゃないかと思ったのですがどうですか。
白石さん:
そうですね、是非やってみたいです。
三上さん:
ロボット系が好きな生徒もいるので、ロボット系の競技も含めたらいいと思います。 
鈴木先生:
ロボット系は、日本人なら絶対勝てると思いますよ。
白石さん:
それは今回、他のメンバー達も言っていました。大鶴君と坂間君が、「あれうちだったら勝てるじゃん!」って話していました。

「科学の甲子園」優勝校渋谷教育学園幕張高等学校のみなさん

鈴木先生:
他にも「これだったら、もっと良い成績まで行ける」という競技はありましたか。
三上さん:
「BUNGEE DROP」のように事前に内容が公開されている競技で、デバイスを持参して競うという競技の方が、上位を狙いやすいと思います。
鈴木先生:
時間を測る競技「IT'S ABOUT TIME」(*4)はどうでしたか。
三上さん:
「IT'S ABOUT TIME」は、問題の中に相対性理論が出てくるのですが、アメリカの学校では相対性理論が物理の教科書の内容に入っているので日本より優位だと思いました。
鈴木先生:
日本だと大学で習う内容ですね。
白石さん:
はい。問題を見ましたが、知識問題は解らない部分もあったけど、計算問題は全部わかりました。僕が感じる日本とアメリカの違いは、日本は知っているかどうかということを求められますが、アメリカは知識をいかに応用できるかどうかという部分が求められるということです。
鈴木先生:
アメリカの大学の先生は、自分の研究が世の中で役に立たないと研究費がもらえず、研究ができないから、始めから応用できるかどうかを念頭に入れることが重要になっていくんですね。アメリカでは早くからpragmatism(実用主義)が根付いており、理論と応用を分けるのではなく、実践する中で理論を考える、working theoryというか、そんな考え方が強いのではないでしょうか。特に医学などは臨床を重んじ、その中で新しいものを見つけるという話を聞いています。「BUNGEE DROP」はまさにそういう考えに基づいた競技だと思う。お二人が入賞したのはまさに実践対応できたことにあると思いますよ。もちろん、実践しようにも手に届かない遠い宇宙のようなものもありますが、アインシュタインの相対性理論思考実験でしか到達できないものとか、それでもいずれは実践で実証するという、応用できるという思いを感じますね。

鈴木佑治先生

 

(*1)BUNGEE DROP…ゴム紐におもりを付けておもりを落として、床までの距離が最も近いかどうかを競う競技。試技は2回行われ、合計が最も少ないチームが勝つ。おもりの重さやどのくらいの高さから落とすかは、直前に指定されるので、どのくらいの重さでゴムがどれだけ伸びるかを事前に割り出しておかなければならない。
(*2)FORENSICS…事件現場に残された物的証拠を分析して犯人を特定する競技。英語の資料が与えられ、記述された内容を読み、実験や検証を行い根拠を述べて犯人を割り出す。証拠やデータは物理、科学、生物などの分野にまたがった物証が残されている。論理的な思考と計算力、実験力など総合した科学の技量が問われる競技。
(*3)Science Quiz Bowl…日本で以前放送されていたクイズ番組「クイズ・グランプリ」の形式。得点のついたパネルがジャンル別に並べられ、早押しで答えて出来るだけ多くのパネルの得点を獲得する。幅広い科学の知識と、英語力が必要になる競技。
(*4)IT'S ABOUT TIME…あらかじめ指定された材料で時間を測るデバイスを作り、競技の場で指定された時間(コンマ以下の秒数も含む)を測る。それと同時に、時間に関する様々な問題が出され、それについて答えていくという、物づくりと知識が両方問われる競技。

次号は「科学の甲子園』優勝校スペシャル対談 ―後編―」をお送りいたします。

鈴木佑治先生
  • 聞き手:鈴木 佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授/立命館大学客員教授
  • 渋谷教育学園幕張中学校・高等学校(千葉市美浜区)
  • 多様な価値観を主張できる自由闊達な校風と「自調自考」の理念に基づく自主性を重視した教育が特徴の男女共学の中高一貫校。全国有数の難関大学合格率を誇る一方、スポーツでも数多くのプロ選手を輩出している。留学生の受け入れ、在学中の留学プログラム、海外大学への進学など、学校全体で活発に国際交流を行っている。
  • 国立研究開発法人 科学技術振興機構
  • 我が国の第4期科学技術基本計画の中核的実施機関として科学技術イノベーションの創出に貢献することをミッションとしている機関です。戦略的な研究開発を推進したり、産学が連携した研究開発成果への貢献や知的財産の利用支援などを行っています。基盤形成のために次世代の理数系人材の育成も行っています。
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