“エネルギー溢れる環境に身を置いたことで、自分のエネルギーレベルもほんの少し引き上げられたように感じた”
ウォートン校の修士課程に進学する前は、企業勤務を経て青年海外協力隊に参加し、アフリカの西端にあるセネガルという国で保健医療関連の活動を行っていました。全くと言ってよいほどストラクチャーのない状況で四苦八苦しながら道筋を立て手探り状態で活動を進める中、事業計画の立て方や進め方のノウハウを体系的に学んでみたいと思うようになりました。当時ちょうどMBAプログラムで学んでいた友人の助言にも後押しされ、任期終了後の進路として、ビジネススクールへの進学を考え始めました。
大学(学部)ではいわゆる「理系」の専攻で、一般教養レベルの経済学を除いては経営学に全くと言ってよいほど無縁でした。そのため出願準備当時は「せっかく進学するのなら、あまり慌ただしく修了しなければならないよりは、どちらかというとじっくりと学びたい」という気持ちを持っており、修士課程が基本的に2年制であるアメリカを中心に進学先候補を探していました。また、それまで一貫してヘルスケア業界に関与しており、経営管理を学ぶと同時に同セクターについても深く掘り下げたいと思っていました。そこで、ビジネススクールの中でも特にヘルスケア・マネージメント関連の専攻・トラックがあるプログラムを探したところ、自然とターゲットが2、3校に絞られていきました。そのうちカリキュラムに最も興味が持て、留学生の割合が多く、問合せ時の対応にも特に好感の持てたペンシルベニア大学ウォートン校を第一志望に設定しました。
ウォートン校では必要最低点は特に設定されていませんが、参考までに合格者の平均点が公表されています。直近ではTOEFL® PBT テストで平均633点、TOEFL iBT® テストで平均110点と公表されているようです。
TOEFL® テスト受験は初めてではありませんでしたので、読み・書きのセクションについて最初は「試験勉強」をあまり意識せず、1~2か月ほどに渡ってできるだけ多くの学術論文的な文章に触れておくようにしました。そのうえで、試験の1~2週間前に無料で公開されているPractice Testをいくつかこなしました。Practice Testを実際にやってみると、長文読解のセクションで常日頃から親しみのあるトピックの問題文が出たときに「問題文に何が書いてあるか」ではなく「自分が以前の体験や読書から知り得たこと」を基に解答を選択し、誤答してしまう悪い癖があると気づきましたので、試験当日はこの点を徹底的に意識しました(TOEFLテストは純粋に語学の試験ですから、問題文に書いてあること以上の分野別知識は求められていませんし、逆に正解は必ず問題文の中にあります)。
リスニングのセクションについては、過去の経験から自分の弱点が「集中力が続かないこと」と自覚していたので(TOEFLテストに限らず、語学の試験のリスニング中に別のことを考え始めてしまい、大事なところを聞き逃してしまうことが多々ありました)、リスニングのPractice Testのみが入ったCDを入手して定期的に「音声のみに集中する訓練」を行いました。また、試験前の一週間ほどは、本番中に集中力が途切れずに済むよう、睡眠・食事を特に気をつけ体調を整えました。
パーティやゴルフなどを通して将来のビジネス・アソシエイトたちとネットワーキングするのが主な「勉強」…と誤解されがちなビジネススクールですが、私の経験では全くそんなことはなく、本当に厳しい学業中心の毎日でした。成績評価は容赦のない相対式で、毎年落第者が出ますので、周りも自分も必死です。特に1年目は同時並行で7科目も履修しなければならず、今思えば本当に体に悪いことだと思いますが、課題が重なるピーク時には生まれて初めてエナジードリンクに手を出してしまったこともありました。
一方で、学生主導の様々なソーシャルイベントも容赦なく毎週のように行われますし、年度をほぼ通じて夏季インターンのポジション獲得及びフルタイム就職のための活動が続きます。とにかく休む暇のない、慌ただしい生活でした。
そんな苦しい生活から唯一解放されるのが夏休み、冬休みなどの長期休暇です。長期休暇になると、インターン活動が始まるのはもちろんですが、その他にも学生有志の企画・運営で世界各地への「トレック」(観光や企業視察を兼ねた旅行)が数多く行われます。私も2度に渡りイスラエルとペルーへのトレックに参加しましたが、普段話す機会のない同級生と親しくなる機会にもなり、今でも楽しい思い出です。
留学中はとにかく周りの学生のエネルギーに圧倒される毎日でした。私が必要最低限の活動でヒイヒイ言っているところを、周りの学生たちの多くは更に+αで新しい活動に挑戦しているのです。そんなエネルギー溢れる環境に身を置いた結果として、自分のエネルギーレベルもほんの少しですが引き上げられたように感じます。
より具体的なスキル面では、ウォートン校のヘルスケア・プログラムで必須となっているField Application Projectの授業から特に多くの学びを得ました。この授業では、ペンシルベニア大学のあるフィラデルフィア、及びその近郊に拠点を持つヘルスケア関連企業をクライアントとして実際のコンサルティング・プロジェクトを行います。私は某製薬企業のワクチン部門担当になりました。元IT技術者、元経営コンサルタント、元心理カウンセラーなど、様々な経験を持つクラスメイトとチームを組み、課題の定義から、データ収集・分析、提案の策定、最終プレゼンテーションまでを行います。この過程で、それぞれのチームメイトから、それまでの私の経験の中では触れる機会もなかった多くのスキルや考え方を「盗む」ことができました。
最後に、「得たもの」というよりは「気づき」ではありますが、男性が過半数を占めるアメリカのビジネススクールに所属したことで、世界水準での自分の立ち位置(女性、それもかなり小柄な部類に入る女性で、発言力が自然と低くなってしまいやすいタイプの人間であること)を認識させられました。キャラ転換ができないものかと本気で悩んだ時期もありましたが、話し方などある程度コントロールできることには改善努力をした上で、結局は自分の生まれ持った特徴をまずは自分がそのまま受け入れ、それを上手に生かせる道を探すのが一番だと気づかされました。
修士課程修了後はコンサルティング・ファーム及び国際機関に勤務する機会を得、直近ではNPOの経営に携わっていましたが、今現在、個人的な事情によりしばしお休みをいただいています。またフルタイムで働ける状況になったときのことについてはまだ考える時間が取れていませんが、今までの経験を活かしつつ、全く新しいことにチャレンジするのも良いかな、と漠然と考えています。
私がビジネススクールを卒業して以来、リーマン・ショックや3.11などの大きな出来事を経て世の中の情勢は急激に変わったと感じています。また、私の在学当時で既に「目玉が飛び出るほど高い」と感じていたアメリカのビジネススクールの学費も、今では更に輪をかけて高くなっています。このような状況を踏まえ、もし、私が現時点でビジネススクール留学を検討するとすれば、当時とは全く異なる要素を重視するかもしれないと感じます。例えば2年制より1年制のプログラムを選ぶ可能性は高いですし、欧米ではなく新興国に留学しようと思うかもしれません。あるいは、求めているスキルを得られそうな進学以外の道を探すかもしれません。これからビジネススクール留学を検討される方は、私のような過去に留学した者の体験レポートは軽い参考程度に、現在の世の中が進んでいる方向を踏まえて広い視野で様々なオプションを検討されると良いのではないかと思います。