“自分の好奇心や「このままではマズイ」という危機感に従った”
私は日本の大学の商学部に入学しましたが、当初から社会問題に関する知識と外国語を学びたいと思っていたため、まずは英語、そしてアメリカ社会を学ぼうと思い交換留学の選考を受けました。結果、母校からの助成金と日本学生支援機構から給付型奨学金をいただき、3年次の夏から1年間アメリカのミズーリ州立大学に交換留学することが決まりました。そのメールを見た時は飛び上がって喜んだことを覚えています。
交換留学を終えて帰国後、一度就職してから大学院に行くか、そのまま大学院に進学するか少し迷いました。結果的には、政治社会学と統計を学んで専門性を身に付けたいという考えや、将来は国際社会の開発等に携わりたいという希望があり、海外の大学院に進学することにしました。
その他にも帰国時が4年生の6月で、就活で旬と言われている時期に合わなかったこと、単位が取得済みであるのに、就活のために1年留年しなければならないこと、また日本の大学の交換留学経験者として就活するより、正規の大学院留学で学位を取って就活した方が、今後のキャリアを開拓するのには良いだろうと考え、今度はイギリスのエディンバラ大学大学院で社会調査の修士課程に進学しました。
交換留学が楽しかった経験もあり、アメリカの大学院で2年間学びたいという希望はあったのですが、自分の学びたい社会学がある上位校では修士号のプログラムを設置している学校が非常に少ないこと、GRE(*1)の学習にも時間を取れなかったことから、イギリスを視野に入れることにしました。GREが不要であること、1年で終えられる修士課程が一般的で費用が抑えられることが条件にマッチしていたのでイギリスに決めましたが、当時はアメリカに愛着を持っていたこともあり、イギリスには興味を持てずにいました。
エディンバラ大学の社会政治学部を選んだのは、海外のトップレベルの大学院で自分がどれだけできるのかを試してみたいと思ったからです。英語が1年間でかなりできるようになったことで自信を付け、次は世界の名門大に行ってみようと思いました。そうはいうものの、当時の自分はこの大学にはこの教授がいるからという所まで分からなかったため、大学ランキングを見て、イギリスで出願できる大学に上から出願するという出願戦略を取り、合格した中で1番上位だったエディンバラ大学に進学しました。当初はエディンバラがスコットランドにあるということすら知りませんでしたが、行ってみると非常に綺麗な所で、お気に入りの場所が増えました。
エディンバラ大学大学院の入学許可を得るためにはTOEFL iBT® テストスコアが100以上必要でした。
アメリカの交換留学から帰ってきて対策をしない状態で受けたTOEFL iBTテストスコアは90でした。しっかり対策すれば100は取れそうだと思いましたが、その後3回受験しましたがスコアは95、98、99で、スコア100は予想以上に大変でした。
対策としては、市販のTOEFL iBT テスト対策用の単語帳にある単語を全て覚え、Readingでスコアを落とさないように完成度を上げた結果、常に27以上を取れるようになりました。Listeningは実際に交換留学して耳が慣れていたので、テスト形式に慣れるだけで27以上は確保できました。Speakingはなかなか大変で、The Official Guide to the TOEFL® Test 4th Editionにある例題集に対する回答を紙に書き、タイマーで計りながら暗唱を何通りも繰り返すことで、23~24を安定して取れるようになりました。Writingも同様で、The Official Guide to the TOEFL® Test 4th Editionの例題集のサンプルを解きネイティブの友人に添削してもらうことを何度も繰り返しました。また、Webで販売されているTOEFL iBTテストの問題集も5~6回行いました。
ミズーリ州立大学の交換留学で初めて1年間外国に住み、アメリカ人や留学生の友人と寮で一緒に暮らし、学ぶことができたのは、今までの人生の中で最も楽しい経験の1つです。最初は英語が話せない、聞き取れない、書けない、読むのが遅いという状態から、新しい言語を獲得していく感覚は何ものにも代えがたい快感がありました。嬉しかったエピソードとして、最初のセメスターが後半に入った頃、社会問題について議論するクラスで、私の発言の後「英語のSpeakingが上手くなったね」と私を褒めてから自分の発言をするクラスメイトがいました。褒めることを意識するアメリカ文化の良さを感じました。
エディンバラ大学大学院も非常に楽しかったです。しかし、それは交換留学の時とは比べ物にならないほど厳しいものでした。政治学のクラスで政治理論に関するエッセイを書くために、1週間に約1,000ページ程の文献を読んだ後、第一線で活躍する研究者のオフィスに行って議論をするというのは一切の妥協と甘えのない真剣勝負でした。そうした真剣な姿勢があるからこそ、教授も適切なヒントをくれるのだと思います。
2点あります。まず1点目は、2度の留学を通して「自分の人生の最も大切な所をコントロールするのは私自身でなければならない」という意識を明確に持つようになりました。人の人生には、運、出会い、その時の世界の経済状況など、良くも悪くも自分でコントロールできない要因が大きく影響することは否定しようがないように思います。ただそれでも、自分がやりたいと思ったことについて情報を集める、資金を貯める、学習する、などして粘り強く機会を待ち、時宜を見て挑戦することが大切だと思います。
2点目は「人とは異なる自分に価値を見出す」ことです。1点目と繋がることにもなりますが、人目を気にして周りと同じように行動するのではなく、自分の軸に従って人とは異なる行動を取れば、そうした経験の積み重ねは自分を人とは異なる人間に成長させると思います。現状に不満があって何かを変えたいのなら、まずは自分を変える必要があるということを学びました。
将来はまた海外に出て挑戦したいと思っているのですが、今は色々挑戦しながら、自分にとって何が一番大切なことなのかを確かめている最中です。私はアメリカとイギリスという先進国に留学しましたが、実際に見て回る機会が少なかった開発途上国の社会にも興味があるので、仕事をして資金を貯めて、長期休暇にアフリカ、ラテンアメリカ、アジアを回ってみてようと思います。
留学を考えているなら、ぜひ実現してほしいです。若い時に行けるのであればなおさらです。私は社会に対する興味と英語を身に付けたいという思いで交換留学を決め、将来のキャリアを考えて大学院の進学を決めたと書きました。もちろん、それは本当で真剣に考えたことは事実なのですが、本当はもっとシンプルでどちらの留学も自分の好奇心や「このままではマズイ」という危機感に従っただけという所だと思います。大学入学当初はミズーリ州立大学に留学するとは思っていませんでしたし、ミズーリ州立大学にいる時はエディンバラ大学院に行くことになるとは全く想像できませんでした。日本を中心とした世界地図で見るとまさに右往左往しており、先のことは分かりません。エディンバラ大学院でお世話になった教授に"You cannot predict the future.It depends on what kind of opportunity falls onto you." と言われました。40代の聡明な教授ですらそう言うのです。だから留学も特に若い時は真面目に理由を考える一方で、何となく好奇心や現状に対する危機感に従ってみるのも悪くはないと思います。
(*1)Graduate Record Examinationsの略で、アメリカ合衆国やカナダの大学院へ進学するのに必要な共通試験のこと。TOEFL® Web Magazineの人気コーナーFor Lifelong Englishでもテーマとして扱いました。ぜひ参照ください。
「第96回 アメリカの大学院入学試験The Graduate Record Examination (GRE®)General Testについて」