“留学を素晴らしいものにするためには、留学の目的をはっきりとさせて、その目的を途中であきらめずに最後までやりきることが必要”
私は高校を中退し、日雇い派遣や路上スカウト、夜の仕事などを転々とし、数年間荒んだ生活を送っていました。当時は人生に行き詰まり、稼いだ金は全てブランド物の服や飲食代に消え、毎日朝方まで遊び歩く自堕落な生活を送っていました。
しかし、ある日、大前研一氏の『企業参謀』という本を読み、「論理的に考える」「徹底的に思考する」といったことの大切さを学びました。それまでの私は、人生の中で物事について深く考えたり、論理的に答えを導き出したりといったことを一切してこなかったので、この企業参謀に書かれているような思考法は当時の私にとっては衝撃的でした。
当時、本の内容は冒頭の導入部分以外全くといっていいほど理解できませんでしたが、この本を読んだのがきっかけで「知りたい」「理解したい」という知的好奇心が湧いてきました。こうして不真面目だった私が「学びたい」と思うようになったのです。
そのようなきっかけで、経営コンサルタントの大前研一氏の存在を知り、「自分も経営コンサルタントになりたい」と思い、コンサルタントに必要な英語力とビジネススキルを同時に効率的に学べる手段が留学だと思い、留学を志しました。
昔からアメリカの音楽や映画などのカルチャーが好きだったこともありますし、影響を受けた大前研一氏が若い頃にアメリカに留学していたことなどからアメリカに留学しました。
アメリカの大学を色々と調べていると、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)にマネジメントサイエンス(経営科学)という専攻があることが分かり、この専攻はまさしく経営を科学的なアプローチでとらえる学問で、経営コンサルタントに必要な能力を培えると思い留学することにしました。また、米国大学の統計を発表しているCollege Factualの専攻別のランキングによると、UCSDはマネジメント・サイエンス(経営科学)分野で全米1位となっている大学です。
私はコミュニティカレッジと呼ばれる2年制の大学を経てカリフォルニア大学に編入をしたのですが、そのコミュニティカレッジに入学するのにTOEFL® PBTテストが必要でした。
コミュニティカレッジに入学するには、当時TOEFL PBTテストで500点が必要でした。これはそんなに難しい要件ではないと思いますが、当時の私は、高校教育をまともに受けていない中学生レベルの英語力であったため、必要スコアに遠く及ばず、まずは語学学校に入学して英語を勉強しました。
TOEFL® テストはアメリカの大学で授業を受けるのに問題のない英語力を有しているかを測るためのテストだと言われていますので、TOEFLテストの問題集などを勉強するほか、授業が分かるようになることを目標に、大学の授業をひたすら聞いていました。
結果的にTOEFL PBTテストで550点を取得でき、コミュニティカレッジに入学し、その後カリフォルニア大学サンディエゴ校に編入することができました。
カリフォルニア大学サンディエゴ校では「近代世界の創造」という思想の授業が必須科目になっていました。
私が学びたいビジネスや経営学と何の関係もないので、最初は全く興味がなかったのですが、この授業は私のこれからの長い人生で「学び」を続けるための礎となりました。
このクラスでは、広範な世界中の思想、哲学、文学等を学ぶ授業なのですが、授業の中で何度も出てくるキーワードがあります。
それが、「Wisdom(知)」
授業の中で、物語の主人公が、世界の思想的リーダーが、あるいはその信奉者が「知」を得るタイミングを幾度となく読むのです。思想や哲学は、「生き方」や「学び方」といった根底にあるものを教えてくれます。この授業を通じて、何かを学ぶ前段階において「学ぶ意味を考える」そして「学び方を学ぶ」といった根本の能力を獲得することができました。私の大学の恩師に言わせれば、それは「Wisdom」を獲得できたことを意味するのかもしれません。
▲ 外国の友達とバンド
アメリカ人や色々な国からの留学生と交流することで視野が広がりましたし、外から日本を客観視することで日本にいては気づかないところが見えてきました。それは2つあります。
まずは、危機感を持ったことです。日本からアメリカへの留学生は1997年をピークに昨今は半数以下にまで減少している中、正規留学よりも語学留学や交換留学が多く、その中で学ばずに数か月遊んで帰っていくケースを多く見ました。一方で、韓国人や中国人の留学生は「留学後は祖国に貢献する」というような明確な意思を持って学んでいる人が多かったように感じ、このような状況に日本人として危機感を持ちました。
また、私が留学していた当時、日本は経済が低迷している中、アジアの経済が好調で、例えば韓国の家電や自動車は堅調だったり、中国も北京五輪の後で急激に経済成長を続けていました。アメリカにいながら日本のプレゼンスがどんどん低下していくのを肌身に感じ、コンサルタントとして日本企業を支援したいと考えるようになりました。それはモチベーションのアップにも繋がりました。
▲ 卒業セレモニーにて
2つ目に、海外に出て初めて自分が日本人であることを本当の意味で自覚しました。外国人と話すと、あらゆることに対して「日本ではどうなの?」とか「日本人としてどう考えるの?」と聞かれます。日本にいて全く意識したことがないことも聞かれたりするので面食らうことも多々ありましたが、日本人として意見を述べなければいけません。
そういったことがあり、日本人としてちゃんとした意見が述べられるようにならなければいけないと思うようになりましたし、日本人であることが誇れるような日本にしていかなければいけないとも思いました。
▲ 卒業パーティにて
私は今、ロンドンの会社で働いたり、日本で人材会社の立ち上げに携わったり、日本人の留学・キャリアの支援を行ったりと色々なことをしていますが、全ての仕事に共通していることは「逆境」「困難」といったものに自ら飛び込んで挑み続けるという点です。私は色々なことを経験できて、予測できない人生を送ることに楽しみを感じワクワクするので、今後も先が見えない不確かな状況の中で切磋琢磨し、色々な経験をしていきたいと考えています。
また、私は留学したことで人生が素晴らしいものになったので、将来的には、留学をしたい方、あるいはグローバルにキャリアを構築したい方のサポートをしたいと考えており、まずは仲間と一緒にそういった方々の相談に乗ることも始めました。
留学をしていると、言葉・文化・人種など色々な壁によって日本で暮らしていると直面することのない辛い困難や問題に直面することもあります。
しかし、それを差し引いても留学することは素晴らしい経験であったと思いますし、間違いなく自分の人生に最も影響を与えた経験の一つだと思います。
私は日本で生まれたので、日本での生活がスタンダードになっていましたが、海外に出て色々な人と知り合い、違う文化に触れることで日本の素晴らしい部分を再認識したり、逆に日本のおかしい部分に気づいたりもしました。
留学によって得られるものは、単純に視野が広がるということ以上に、あらゆる面で人生をはるかに豊かなものにしてくれます。
留学を素晴らしいものにするためには、留学の目的をはっきりとさせて、その目的を途中であきらめずに最後までやりきることが必要です。そのためにも留学する前から、留学をしてどんなことをするのか、あるいは留学が終わった後に何をするのかイメージを膨らませなければいけません。
留学する前にそういったことをじっくりと考えて、ぜひとも留学経験を素晴らしいものにしてください。
▲ 卒業セレモニーにて