最近日本の大学でもインターネットで授業配信するようになりました。筆者の前任校の慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスでは、すでに10数年も前から、村井純教授のWIDEプロジェクトのSOI (School of the Internet) でインターネットによる授業配信をしています。筆者も在任中、English Diversity(英語)、English in Social Context(英語)、「状況と意味論」(日本語)、「言語コミュニケーション論」(日本語)と称する授業を配信いたしました。アメリカでは授業を配信するだけではなく、オンライン学士号も取れる大学が続出しています。“Online bachelor’s degrees”と入力すると約9,850万(2013年11月現在)ものヒット数があり、各方面から関心を集めているようです。高額の授業料を払えず、働かざるを得ない学生にとって、好きな時にオンラインで受けられ、しかもかなり安価であることは魅力的なようです。もっとも、本コラム(第59回 全米の博士論文を収録したUniversity Microfilms Internationalのデータベース)で述べたDiploma Millsについての懸念もあって、州政府から正式認可を受けた大学 (Accredited) であるか、Diploma Millsのリストを見ながら、互いに情報交換している声も多く見受けられます。
今回は大学ではなく、小学校、中学校、高等学校の教育のオンライン化をみてみましょう。アメリカなどでは、K-12と称し、幼稚園 (Kindergarten) 、小学校1年 (1st grade) から高等学校3年 (12th grade) までの12年が義務教育とされています。公立の学校に行けば無償になりますが、最近このK-12もオンライン化され、Online K-12 schoolsを検索してみると約2,710万(2013年11月現在)のヒット数があり、相当普及しているものと考えられます。小学校から高等学校のどのレベルの教育でも、各州政府が率先してオンライン授業を配信し、それをもって代用することができます。人種問題、身体的問題、不登校、治安、宗教信条、地理的環境などの理由で、自宅でオンライン授業を受ける児童や生徒が激増しているのです。オンラインスクールのカウンセラーも配備され、生徒や保護者の相談に乗っているようです。
注目すべきは、スタンフォード大学が高校生向けに、Stanford University Online High School(以下OHS)というオンライン高等学校を開設していることです。日本では有名私立大学があちこちに系列小学校、中学校、高等学校を作って大学入学者の定員を確保しようとしていますが、アメリカはオンラインで世界中の高校生を対象に授業を配信し、受講者の中から成績優秀者を招き入れようとしています。それでは、OHSの中身を見てみましょう。Coursesは、(1)Core、(2)English、(3)Humanities、(4)History、(5)Foreign Languages、(6)Mathematics、(7)Computer Science、(8)Economics、(9)Science、(10)Otherの10群で構成され、それぞれに複数の科目が設置されとても充実しています。授業は全て、ディスカッションセミナー形式で週2日、リアル・タイムで教員と受講者がディスカッションしながら進められ、物理学などは大学レベルの授業も受講できます。
いくつか面白そうなものを拾ってみましょう。(1)Coreの“Methodology of Science-Biology”では、生物を中心に日本では欠けている「科学方法論」が学べます。(3)Humanitiesの“Advanced Topics in the Humanities: Film Art”でも、日本の高校ではまず教えない「フィルムアート」を通して新しい人文科学の方法論を学べます。(2)Englishコースはかなり充実しており、英文の分析法や書き方を教える基礎的なものから、文学評論・創作をカバーしています。“Fundamentals of Expository Writing”では、「アカデミックイングリッシュ」の書き方の基本が学べます。ここから挑戦してみるのがよいでしょう。(6)Mathematics、(7)Computer Science、(9)Science等のいわゆる理系コースはさらに充実しています。ここでは余白が限られているため、全ては挙げられませんので自分で調べてみましょう。日本の高校の理系科目は進んでいますから、内容を学ぶというよりは、中学校や高校で勉強した数学、理科(生物、化学、物理学)などの概念を英語で学び、英語で専門用語を学ぶのに適しています。プロジェクト型ですから学んだ知識を活かせ、さらに興味を深めることができます。また、基礎的なことを噛み砕いて教えているようですから、理系科目が嫌いな人も理系好きになれるかもしれません。各コースには成績優秀者用にHonors programsがあり、優秀な成績を取れば入学許可のみかScholarship (s) を貰えるかもしれません。
今回スタンフォード大学のOHSを紹介しましたが、プリンストン大学も行っていて、その流れは他の大学にも広がっているようです。私は高校生時代に「本場で英語英米文学を学びたい」と切望していたので、その当時にこのようなオンライン授業が受けられるのであったら、高校時代からこうした授業を受け、そのままアメリカの大学に行って、英語・英米文学を学んでいたことでしょう。
17世紀を代表する哲学者の一人、ライプニッツ (G. W. Leibniz 1646~1716) は、父親が学者であったことから、自宅には図書館のような蔵書があり、少年時代は一人でそれを読みあさって勉強し、14、5才で大学に入学したとの記録があります。うらやましい話ですが、今ではインターネット接続ができれば、ライプニッツも驚くほどの世界中の膨大な知識にアクセスできて、場合によっては無料で授業を受けられるのです。しかも、日本にいながらにして世界トップレベルの授業を受けることができるのですから、こんなにありがたい話はありません。当然、TOEFLテスト、SAT、 GRE、 GMAT、 LSATなどの準備にもなります。
筆者は現在の本務校の立命館大学生命科学部・薬学部の専門英語 (Junior Project 2) では、学生にサイエンストップ校の授業やTEDやiTunes Universityのtalksを選んで聞かせて、プロジェクトをさせています。一銭のお金もかかりませんし、受講生は自分で好きな講義を選んで聴ける上に、好きなプロジェクトを組むことができるので目を輝かせながら挑戦しています。現在進行中の授業の成果をポスタープレゼンテーションしており、下記のサイトでリアルタイムでご覧になれます。
・プログラムの公式WEBサイト (http://www.pep.sk.ritsumei.ac.jp/)
・授業の様子が見られるfacebookの公式ページ (http://www.facebook.com/ProjectBasedEnglishProgram)
英語のみならず世界中の言語で、いつでもどこでもオンライン授業を受ける時代に突入しました。世界中の教育機関、企業、団体、個人が、簡単にコンテンツを配信できるようになりました。コンテンツの魅力が勝負になるでしょう。