For Lifelong English

  • 2014.05.13
  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授
    立命館大学客員教授

第70回 大学の新入生へ!受験英語を発信型英語にリサイクルしてみよう!(その2)

皆さんがこれから生きて行く世界は、大量の情報に満ちています。その中から必要な情報を選ぶわけですが、一つ一つ細かく目を通し、耳を傾けていたら、何時間あっても足りません。そこでまず、ざっと目を通すようにしなければなりません。スキミング(skimming)と言いますが、日本語で情報を取るときにはそうしている筈です。英語でもそうです。例えば、新聞などをはじめから一字一句読んでいたら大変です。ざっと目を通してから興味ある記事をしっかり読むでしょう。先月号で述べたように、筆者は渡米する前に英米文学作品を200冊ほど読みましたが、訳読ですから一字一句大変な時間を要してしまいました。渡米直後に英文学の授業を2つ履修しましたが、リーディング・リストには合計約30冊が並んでいたことを憶えています。これがクオータ制1学期2クラス分です。2日で1作品を読まなければついて行けません。恐れていたとおり、筆者はクラス・ディスカッションに参加できず取り残されてしまいました。アメリカ人のクラスメート達はそんな授業を4つ以上履修しており、彼らがネイティブであることだけでは説明できません。そこで、どのようにして読みこなしているのか聞いてみたところ、全員、スキミングしながら肝心な箇所をしっかり読めばいいと応えました。しばらくして、彼らがしっかり読む「肝心なところ」が「自分が関心を持てるところ」という意味であり、それを中心にディスカッションしていたことが分かったのです。要は、ペーパーでも試験でも独自の視点を高く評価し成績を付けるからです。それが分かるや、開き直って自分の関心の赴くまま作品を読み、クラス・ディスカッションで思う存分ぶつけてみました。どんぴしゃり、それからは成績も上がり、アメリカ人の仲間も増えました。気がつけば、渡米から2年の歳月が瞬く間に過ぎていました。

日本の大学の授業は、学生が関心をもっている事柄ではなく、教員が重要だと判断した事柄を中心に授業が行われているのではないでしょうか?グローバル社会で日本が生きて行くのに必要なのは独創性です。それぞれが考えてもの造りをしなければなりません。誰かの後追いではその人にしかできない価値あるものは生まれません。そこで先月号で述べたように、身近な趣味や関心事を一つ選び、まず情報を集めてみましょう。そして、スキミングしながら関心がある箇所を中心にじっくり精査します。集める情報は英語のものでも日本語のものでもかまいません。例えば、相撲について調べるなら、まず、日本語の資料を調べてみることです。英語のグローバル化が進んだ今日では、さまざまな分野の情報が英語で得られるようになり、英語でも相撲についての資料はたくさんある筈ですから調べてみましょう。集めた情報のうち関心あるものを選んで精査し、自分の考えをまとめて英語で発信してみましょう。そこで、受験英語を含めこれまで習って来た英語を使い、発信用にリサイクルすればよいのです。テーマは興味があることですから、英語を聞き、読み、話し、書くことが楽しくなり、質量ともに充実するでしょう。そのことは内容についても言えます。好きなことですから、調べることが楽しくなり、質量とも充実して内容が深くなります。こうして趣味ではじめたものが大学の専門分野に繋がることがよくあります。例えば、アニメへの関心が異文化論、映像論、メディア論、経済学、哲学、社会学、心理学、生命科学、薬学、そしてもちろんICTなどの専門分野の研究に結びついた例はたくさんあります。物事を深く掘り下げれば人間の本質に到達するからです。こういう活動を続ければ、TOEFLテストやTOEICテストなどのテストのスコアの向上につながるのです。

筆者がTOEFLテストをはじめて受験したのは1967年でした。東京の山王会館であったように記憶しています。日本人は読み、書きは出来るが、聞き、話しは苦手だと言われたものですが、リスニングよりもリーディングの量と難易度に圧倒されました。TOEFLテストは、アメリカの大学や大学院の授業を想定した一連のコミュニケーション活動を行えるかどうかを診断するテストです。ですから、そうしたコミュニケーション活動をせずにスコアを上げるのは至難の業と言えるでしょう。インターネット上にあるTOEFL iBTのサンプル・テストを見てみましょう。リーディングでは、英語で書かれた情報を的確にとらえられるかどうかを測定します。日常生活において英語で情報を取っていなければ太刀打ちできません。筆者が、過去6年間立命館大学びわこくさつキャンパス(BKC)の生命情報学部と薬学部で行ってきた「プロジェクト発信型英語プログラム」では、学生各自が関心事を調べ、その成果を発信して来ました。両学部の1年生と2年生は、毎年6月と12月に実施されるTOEIC IPを受験しなければなりません。この6年間で両学部全学生の平均点は大幅に上昇しました。また、3年生を中心にTOEFL ITPテストを受けさせていますが、良い結果が得られつつあります。

米国の大学や大学院ではリーディングとともにライティングも重要であることは言うまでもありません。ペーパー、各種小テスト(quizzes)、試験(examinations)など、短時間で起承転結を考えながら、自分の考えを反映させなければなりません。受験勉強やその延長の学習方法では無理です。TOEFL iBTを受験すれば、いかにラィティングが難しいか分かるでしょう。それは日本人だけではなく他の国の人にも当てはまります。そのような事を踏まえて、このプログラムでは授業内外で自分の関心事を調べながら、1年生はカジュアルなエッセイを、2年生はアカデミック・イングリッシュを、3年生は専門英語のterm paperを書きます。毎週平均すると200語から300語以上のエッセイを書かかなければなりません。自分が関心を持つ事柄であるので意欲的に取り組んでおり、苦情を言う学生は1人もいません。授業では、ETSのCriterionというソフトを使い、学生各自が自分の書いたものを編集しています。Criterionは、TOEFL iBTレベルのエッセイを測定するものと、大学院を対象にしたGREレベルのエッセイを測定するもの(Best Ideas)の2種類があり、本プログラムでは後者を採用しています。6段階で4以上をとると合格点であるとのことですが、専門英語の履修者の多くが提出するterm paperは、最終的に4か5の評価を受けています。自分で得た情報を書いて発信する習慣が身に付いてきたのです。筆者がいつも繰り返し言っている事は、「中学校や高等学校で習った英語、大学受験の英語を使えるようにしてみよう!」です。多くの学生さんがそれに応えるようになりました。まだ流暢に英語を話すようになった訳ではありませんが、英語で情報受信・発信する楽しさを覚えたようです。社会に出ても続けるでしょうから、かれらが35才くらいになると相当の使い手になっていると予測します。

立命館大学生命科学部・薬学部におけるCriterion(Best Ideas)の使用例

立命館大学生命科学部・薬学部におけるCriterion(Best Ideas)の使用例
立命館大学生命科学部・薬学部におけるCriterion(Best Ideas)の使用例

立命館大学生命科学部・薬学部のterm papers(research papers)
立命館大学生命科学部・薬学部のterm papers(research papers)

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