20世紀はmass-production(マスプロ)の時代でした。大量生産(mass-production)される均一のものを大量消費に結びつけなければなりません。その役割を担って来たのがマスメディア(マスコミ)です。マスメディアに取り上げられるものは消費者に注目され人気を得て大量に消費され、やがて、カリスマ性を帯びたブランドとなり更に消費されるという図式です。
そんな図式も21世紀になると崩壊しつつあることを、2014年7月18日付けのNewsweek誌の掲載記事“Mass individualism makes life tough for consumer product giants” (http://www.newsweek.com/2014/07/18/mass-individualism-makes-life-tough-consumer-product-giants-258078.html)は伝えています。ずばり、21世紀はmass-productionではなく、mass-individualismの時代であると言い切っています。先ず、記事を読んでみましょう。記事を要約した分かりやすいビデオ・クリップも付いています。 記事によると、mass-individualismが浸透しつつある今、 Coca-Cola、MacDonald、Ford、Hilton、Calvin Klein等の世界のトップ・ブランドは、存続をかけた厳しい(tough)状況に置かれているようです。こうしたブランドの隆盛は、消費者が独自に情報を収集・交換する術が無く、マスメディアが流す情報に依存せざるを得なかったことに起因していたと言えます。マスメディアを介してmass-productionを円滑にする mass consumer brandsが次々と生まれ闊歩しました。
ところが20世紀末の1992年に様相が一変します。この年、クリントン政権下の副大統領であるAl Gore氏がインターネット情報ハイウエイ(The Information Superhighway,http://en.wikipedia.org/wiki/Information_superhighway)を提唱するや、ハイパーネットワーク(hyper-network)による情報過多の(data-engorged)時代が始まりました。個々人が情報発信基地をもつことができるようになると、それに呼応するかのように産業界では無数の非ブランド(原文“unbrands”=ブランドにあらず)が出現したのです。巨大ブランドからすれば得体の知れない、ちっぽけな(quirky small)なものであったものが、それから20余年経た現在では無視できない存在に成長してきました。
要は、個々の顧客と深い関係を築こうとする会社にとって、それを可能にするICTの普及は格好の勝機をもたらしているのです。記事は、そうした親密な関係を得るには2通りの方法があり、2種類の会社に大別できると述べています。
一つは、自動的に多量の顧客データを集め、そこからややあやふや(borderline-creepy)に顧客を知る方法です。マスメディアが情報をできるだけ多くの人に流したのに対して、デジタル・ブラックホールの引力に人々の関心を引き、彼らの情報を飲み込むという方法です。記事ではAmazonやGoogle等がその例として挙げられています。
もう一つは、顧客と個人レベルで接触する方法です。小規模と親近感がキーワードです。その例としてハンドメイド・クラフトのマーケット・プレイスであるEtsy(https://www.etsy.com/)とか、小規模宿泊施設を紹介するAirbnb(https://www.airbnb.jp/)が挙げられ、両者とも個々人の取引を世界規模で支援しています。mass-individualismを地でいくモデルとして取り上げられています。
Etsyは発足当初は振るわなかったものの、最近になって急速に成長し、世界中に百万人以上のsmall sellersがおり、2年前の2013年の売上高は$1.35billion(1,350億円)にも上ると報告されています。 The Wall Street Journal(2014年7月18日)の“From mass production to mass individualism” (http://blogs.wsj.com/cio/2014/07/18/from-mass-production-to-mass-individualism/)と称する関連記事でもAirbnbを取り上げています。Airbnbが成功したのは、人々が個人文化(“personalistic” culture)を持つようになり、ユニークで個人に即した経験を求め、マスプロ時代のホテルチェーンのバニラ臭い均一性(vanilla sameness)に飽きたからだと言っています。今や高級な宿泊先の斡旋にも乗り出し、高級ホテルチェーンの経営を圧迫しつつあるとのことです。
その他に、無料でメッセージを交換できるスマートフォン向けのWhatsApp Messenger(https://www.whatsapp.com)が紹介されています。使用しているglobal messaging systemは、4億人以上のユーザーがいるものの、少人数サークルがメッセージ交換をして親密な関係を築くことを主眼としています。
これらmass-individualismで成功している会社は、いずれも先端テクノロジーを使い、個々の顧客と生の親密な人間関係を築き、それぞれの顧客が求める、世界に一つしか無い(one-of-a-kind)ユニークなものを提供しようとしています。従来のmass consumer brandsから正反対のunbrandsに顧客の関心が移りつつあることを熟知しているのです。
これは産業界だけの話ではなく、将来の教育界にもいずれ波及することかもしれません。20世紀後半はマス教育の最盛期でした。特に高等教育におけるマス化は、いわゆるマスプロ大学なる名称を生みました。大学のサイズの問題はもちろんの事、その中身にも社会全般に広がるmass-productionの影を映していました。全ての学生に同じ知識を提供することに主眼が置かれ、学生個人の才能を伸ばすことには疎かったように思えます。
この記事が述べているように、Coca-Colaは世界中に同じものを提供しますが、顧客一人一人の意見を情報として得るわけではありません。それと同じ事がいわゆる一流のブランド大学に当てはまらない事を祈ります。個々人の学生のニーズを聞くというよりは、ブランド力を背景に自分たちが提供するカリキュラムを絶対的なものと思い込む危険性があります。
この連載でも何回か述べましたが、インターネット上には大学と同等の、否、それ以上の授業に無料でアクセスできるプログラムがあります。大学に行かなくても、いつでもどこでも個々人が取りたい授業を受ける事ができます。近い将来、Etsy、Airbnb、WhatsApp Messengerの大学版が出現するかもしれません。これらはICTを使いますが、その上でリアルに人、物、サービスを動かしています。
もしこの記事の予測が当たれば、mass-individualismの流れは高等教育にも押し寄せて、世界中のブランド大学を脅かすことになるかもしれません。これら3社のプラットフォームは発進型教育にピッタリです。個人がone-of-a-kindのunbrandカリキュラムで教育を受けることができる、例えば、“WhatsApp Learner”、“Airlearning”など早晩ありえるかもしれません。
最後に、今回紹介しているNewsweekの記事は他に幾つか重要なポイントを語っています。TOEFL iBT® テストで高得点を得るにはこの程度の記事を5分以内に目を通せるようにしましょう。