6月にアメリカの大学は2016-2017Academic Yearを終えて夏期休暇の真最中です。(*1)夏休み明けには2017-2018 Academic Yearの新入生を迎え、9月には早くも2018-2019 Academic Yearに向け新入生の募集が始まります。
アメリカの大学における応募(application)から入学許可(admission)までの一連のプロセスについておさらいしてみましょう。学部か大学院か、学部でも新1年生か他大学からの転入(transfer)かでは違います。今回は新1年生に限定します。
アメリカの大学のadmissions processは、他の国々の大学のそれとは異なります。US Newsの“4 Key Facts About the U.S. College Admissions Process”と称する記事には、留学生が応募する際に押さえておきたい4つのキーポイントが紹介されています。他にも、“US University Application Process-Study USA/US-UK Fulbright Commission”(US-UK Fulbright Commission)や “College-University Application Process l Study in the USA”(International Student)などがあり、併せて目を通しておく必要があります。もちろん、応募する大学のWebサイトのAdmissionsに関する項目は必読です。
US Newsの記事が挙げる4つのキーポイントは以下の通りです。筆者のコメントを付し、要約します。
1.The U.S. does not have a centralized admissions process.
アメリカには、イギリスのUniversity and College Admissions Service(UCAS)のように、国内大学に代わって入学応募プロセス(the application process)を一括して行う機関はありません。アメリカのSATやTOEFL iBT® テストなどを実施するEducational Testing Service(ETS)は、それらのテストの作成・実施はしますが、そのスコアを応募者の要請に従い各大学に提供するだけで、合否には一切関わりません。イギリスの場合は、UCASが大学入学、さらに学部の合否まで行うようですが、アメリカでは各大学が合否を決めます。
多くの選択肢から自分が行きたい大学を選ぶことができるということを利点として挙げることができます。アメリカにある約4,000校が対象になり、選択肢があり過ぎて迷うかもしれませんが、以前本コラムで述べたように、ここからcritical thinkingが試されます。よく調べて考え、自分に最も合う大学を決めなければなりません。
2.Many colleges give the ability to apply early decision.
冒頭に述べたように、アメリカでは秋学期に新学年が始まると同時に、次学年度の新入生募集が始まります。今年で言えば、2017年の夏季休暇が終了して2017-2018 Academic Yearが始まるや、次の2018-2019 Academic Yearの新入生募集が始まります。ちなみに、募集要項、応募、合否の結果発表、入学手続きなどはすべてオンライン化されており、志望大学のWebsiteはこまめにチェックする必要があります。
通常、大学は9月か10月初旬に募集を開始するので、2月頃までにSATやACT、TOEFL iBTテスト(留学生のみ)などのテストを受け、そのスコアをETSから、応募する大学に直接送付してもらいます。並行して応募する大学の応募書類(願書)を完成させ、高校の成績証明書、推薦状、志望動機(essay/statement)を添えて大学に送ります。翌年2月から3月にかけて応募者に合否が報告されます。
これが通常の募集、応募、合否発表のプロセス(the normal admissions process)ですが、多くの大学に“Apply early decision”制度があり、応募者が特定の大学を自分の「トップ・チョイス」と明記すると、通常より早い時期に応募して入学許可をもらう機会が得られます。それに合わせてSATなどのテストのスコアや応募書類を提出する必要があります。ただし、入学を許可されたらその大学に入学しなければなりません。
トップ・チョイスが絞れる場合には、“early decision”は非常に有利な制度です。トップ・チョイスの大学に合格できるか分かりませんから、トップ・チョイス以外の大学に応募するのは自由です。
3.U.S. colleges employ a holistic admission process.
アメリカの大学の入学選考は、学力だけではなく、課外活動における全体的、包括的能力の有無を重視します。トップ大学ほどその傾向が強く、その意味では難易度が高いと言えるでしょう。(*2)応募する大学の公式サイトを開き、Admissions Officeという項目をクリックして詳細をチェックしましょう。大方の大学は、SATまたはACTのスコア(*3)、加え留学生の場合はTOEFL iBTテストのスコア(*4)、高校の成績証明書(transcript)、推薦状そして志望事由エッセイ(personal statement and essays)の提出を要求します。(*5)
以前本コラムでも述べたとおり、アメリカの多くの大学は、専攻分野に加えてその他の諸分野にも幅広い知見を持ち、授業はもちろんのこと課外活動にも積極的で総合力のある人材を育てることを目標としています。よって、サイエンス専攻の学生も歴史、社会、文学、芸術などの教養を、社会科学や人文科学専攻の学生はサイエンスの教養を持てるようにカリキュラムがアレンジされています。
したがって、応募要項における志望事由エッセイは非常に重要で、テストや成績証明書には反映されにくい応募者の能力を具体的に分かり易く綴らなければなりません。(*6)日本人にありがちな控え目なものは撥ねられます。基本的な書き方については、記事中のpersonal statement is a type essayをクリックして参照してみましょう。
ここで日本の「AO入試」との違いについて一言。AOはAdmissions Officeの略である(*3)と思います。アメリカの大学で入学業務を管轄する部署はAdmissions Officeです。日本の大学も入試担当部署があり入試業務を管轄していますね。名称は様々です。たとえば早稲田大学では大学入試センター(英名Admissions Center)(*7)があり、入試関連の業務全般を管轄しています。
「AO入試」は英語でどう訳すのでしょうか?Admissions Office Entrance Examinationでしょうか?Admissions Office Admissionsなのでしょうか?いわゆる一般入試とは別に「AO入試」があることを謳っているのですが、大学のみならず大学院も含めてすべての入試業務はAdmissions Officeの管轄下にあるアメリカでは、日本の「AO入試」という制度は、かなりの説明を要する日本特有の制度であると言ってよいでしょう。4年制のメジャー大学で、成績証明書、推薦状、志望事由エッセイだけで学力テストを求めない大学は無いからです。SATまたはACTのテスト・スコアの提出を要求し、学力をチェックするはずです。
トップ大学の中には、世界中で活躍する卒業生による面接を受けるよう勧めるものもあります。高い学力は言わずもがな、提出されたエッセイや推薦状に面接結果も加えて総合的に判断し、合否を決めます。
4.U.S.colleges offer a variety of majors and don't require students to declare immediately.
以前にも述べましたが、アメリカの大学は非常に多くの専攻プログラムを用意し、かなり自由に選択できるので、焦って選択する必要はありません。2年生の最終学期までに決めれば支障はありません。1、2年の間はan “undecided” majorとして、色々な授業を取り、自分にもっとも適した専攻は何か考えることができます。そうした授業で取得した単位は、いかなる専攻を選択しようとも卒業単位として認められるのでその意味でも無駄になりません。(*8)
日本では入学試験から専攻分野を選択し、合格するやその専攻分野の授業を取ります。途中で他の分野に関心を持つようになっても専攻を変えるには、新たに入学試験を受け直すか、編入試験を受けるしかありません。いわゆる文科系や理科系など同じ系内での変更はさほどではありませんが、文系から理系への変更など、系が異なる専攻への変更は至難です。
一方、アメリカの多くの大学は文系専攻者が理系の授業を、理系の専攻者が文系の授業を取るよう推奨しており、それが可能なようにカリキュラムを編成しているので、専攻を変更することは日本と比較するとかなり容易にできます。また、ダブル・メジャーとかマイナー(副専攻)の制度もあり、専攻分野間の垣根は低く活発な相互交流が行われています。
筆者がアメリカ大学留学を推奨する理由は、時間をかけて自分に合った専攻を選べるということです。まだ、社会に疎い高校生や大学生1、2年生に、あたかも将来を決めるかのように専攻分野を選ばせてよいものか疑問に感じます。アメリカではこのように専攻の自由が保証されているのです。また、医学や法学のような専門性が高く特殊な資格に関わる専攻分野は幅広い知識と人間性が要求され、大学院レベルのprofessional schoolsの専攻分野となっています。
大学院も専攻についてはオープンです。学部とは違う大学の大学院に進むことがある程度定着したからか、学部時代とは違う分野を専攻するケースも珍しいことではありません。
筆者自身、24才でアメリカに留学し、最初の4年間は日本での学部と大学院時代の専攻の英米文学に固執していましたが、その後、英語教授法に専攻を変え、住み慣れたカリフォルニアに惜別してUniversity of Hawaii大学院に行き修士号(M.A.)を取得しました。その過程で英語分析に関心を持ち、専攻を言語学に変え、Georgetown University大学院言語学博士課程(*9)に進みました。30才近くになっていましたが、それから4年間しっかり勉強でき、博士号(Ph.D.)を取得できました。
アメリカの大学は、学部も大学院も個々の関心を追究できる教育体制とそれに符合する柔軟なプログラムを豊富に備えており、ニーズにあった軌道修正が可能です。アメリカで学べて本当に良かったと思っています。
(2017年5月2日記)
(*1)この時期にはSummer Schoolがありますが、通常の学期と比べて人数は減ります。Summer Schoolについては改めて詳しく説明します。
(*2)5 College Admissions Mistakes International Students Can Avoidを参照してください。
(*3)本コラムの『第91回 アメリカの大学へ入学する為に必要な一斉試験SATについて(1)SATとはどんなテスト?無料SATオンライン・コースは?』を参照してください。
(*4)本コラムの『第92回 アメリカの大学へ入学する為に必要な一斉試験SAT(*1)について(2)TOEFL iBT® テストに並行してチャレンジしてみよう。』を参照してください。
(*5)記事中の[Get more tips on writing a personal statement.]を参照してください。
(*6)5 College Admissions Mistakes International Students Can Avoidを参照してください。
(*7)早稲田大学入試センター
(*8)記事中の[Ask yourself 10 questions before picking a major.]を参照してください。
(*9)1970年代のプログラムは、英語の統語論、形態論、音声・音韻論、意味論、スタイル論、テスト論にかなり力を入れていました。博士候補者試験そして論文審査における2度の口頭諮問(oral defense)では、古代英語、中世英語、近世英語、現代英語の専門家らから英語そのものについて容赦のない厳しい質問を受けましたが、応えることができたのは充実したプログラムのお陰です。恩師をはじめ敬愛する教授陣は他界され、現在のプログラムは定かではありません。