For Lifelong English

  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授
    Yuji Suzuki, Ph.D.
    Professor Emeritus, Keio University

第109回 Fake(フェイク)について

2017年1月11日に開かれた記者会見(press conference)で、トランプ大統領は質問に立ったCNN記者に対して驚愕の一言を浴びせました。

You are fake news!(*1)

いつものTwitter上でのつぶやきかと思いきや、公式記者会見の発言であったことで激震が走りました。カタカナ表記されて日本語に定着して久しい感があるこのfakeという言葉は、この発言を機に日本でもよく目にするようになりました。

改めてfakeの意味をまとめてみましょう。名詞、形容詞、動詞として頻繁に使われています。

名詞として「偽物」または「偽者」(例:The story is a fake./He is a fake.)

形容詞として「偽の」(例:That’s a fake story.)

動詞として「〜を本物と思わせるようにする」、「〜の偽コピーを作る」、「〜をでっち上げる」、「〜を装う」(例:He is faking (up) a story.)

同義語にはcounterfeit(名詞)、falseやfraudulentやfictitiousやphony(形容詞)、そしてmockやmake-believe(動詞)などがあります。(*2)カジュアルでインフォーマルなセッティングの会話でよく使われ、手っ取り早く言えば日本語で「インチキ」、「インチキな」、「インチキする」などを使うときの感覚に近いでしょう。筆者自身ごく親しい友人たちとの内輪の会話で耳にし、使ったことはありますが、フォーマルなセッティングの会話ではあまり耳にした記憶はありませんし、筆者自身は断じて使用したことはありません。(*3)

もっとも、いくら親密な人たちとの打ち解けた会話であっても、あえて言えば、目の前にいない第三者とそれに関連する物事について、

He is a fake. / He is faking up a story.

と言うことはあるかもしれません。しかし、話している相手または関連する物事について、

You are a fake!

などと言うのは非礼で、喧嘩を売っているとしか思えません。ただし、「それ冗談だろう?」ぐらいの意味で、

C’mon, you are faking up a story, aren’t you?

ぐらいはよく耳にしますが、それでさえも内輪同士の会話でのことです。

Webster’s Third International Dictionaryを見ると、この語は古くから使われているようですが、語源は不明です。

海洋業界で「(ロープを)するする滑るように巻く」という意味でfakeを使いますが、その場合は語源がはっきりしていて別の言葉のようです。(*4)

また、音楽ではjazzやpopsなどで、即興(adlib)で歌ったり演奏したりするという意味でfakeが使われています。魔法使いが行うtrickという意味からきたようで、fakeという言葉と関係があるようです。プロのjazz musiciansはfakesの宝庫です。スポーツでもサッカーなどの“trick play”を表す語として使われており、名プレーヤーは試合中に様々なfakeを見せてくれます。

このように音楽やスポーツでは良い意味合い(ameliorative)で使われていますが、通常は、上述した通りの悪い意味合い(pejorative)で使われています。アメリカ合衆国大統領が、あろうことか、公式の記者会見でこの言葉を使ったのですから前代未聞の言動として記憶されるでしょう。もしWebster’s Third International Dictionaryが改編されるとしたら、恐らく、この語の使用例として引用されるでしょう。

その後もこの一連の事態は収束するどころか、トランプ大統領はTwitter上で、自らが扮する背広姿のレスラーが、CNNと記された相手を場外乱闘でねじ伏せるというパロディ動画をuploadする始末です。(*5)

報道機関の使命は真実を伝えることであり、その報道内容はfakeの反意語であるtrue(真実の)かつgenuine(純粋の)でなければなりません。よって、いかなる報道機関であれ、アメリカ合衆国大統領に名指しでfake newsとされたら看過できないでしょう。その発端となった根拠をめぐり、今後もトランプ大統領とさらに激しい舌戦を繰り返すことでしょう。(*6)

社会、政治をひとまず置いて、教育に目を向けて見ると、残念ながら、ここでもfakeという言葉は飛び交っています。fake schools, fake degrees, fake certificates, fake transcriptsなどです。多くのfake schoolsが、fake degrees, fake certificates, fake transcriptsを売っているようです。実際の学校は存在しませんし、授業をしているという形跡もありません。〇〇大学の学位、免許、成績書などに酷似したものを作成して販売しています。

真実を追求する教育の場でも、最も相応しくないfakeという言葉が闊歩している様が窺えます。なんと、高等学校から大学院までの全レベルのニセ卒業証書、ニセ成績証明書、ニセ各種資格証明書などを販売しているのです。インターネットで“fake high school diploma and transcript”あるいは、“fake college degree, certificate and transcript”あるいは、“fake master’s degree, certificate and transcript”あるいは、“fake Ph.D. and transcript”と入力しチェックしてみると、そうした会社のサイトが出てきます。その数の多さに呆れるばかりです。

いわゆるプロフェッショナル・スクール系大学院の偽の学位、fake JD(Doctor of Jurisprudence)や fake MBAやfake MEd(Educational Master)やfake MD(Doctor of Medicine)そしてfake DD(Doctor of Divinity=神学博士)なども売買されています。教育や医学や神学など、嘘偽りは許されない学問分野でもfake degreesが公然と売られているとは、いやはや何をか言わんやです。

そして、販売されている偽証書類の精巧さには驚かされます。希望する高等学校や大学や大学院の名称を記入し、専攻を明記して料金を払えば、かなり本物に近い偽の卒業証書(diploma)、成績証明書(transcript)、教員免除(teacher’s certificate)が手に入ると豪語しています。

これに関連して以前本コラム(「第59回全米の博士論文を収録したUniversity Microfilms Internationalのデータベース」)で触れたdiploma millsと称する不認可の(non-accredited)大学の存在があります。多くはonline大学で、大学とは名ばかりで授業をしているという実態が無いものが多く、料金を払えばその大学の卒業証書や成績証明書を出します。一見もっともらしく~Universityという名称が付いているので、認可を受けている大学と勘違いするかもしれません。しかし、認可が無いのでそれらの大学が発行する卒業証明書も成績証明書も就職や進学には使えません。

ここで注意が必要です。こうしたfake degrees,fake diplomas,fake transcriptsを販売する会社やdiploma millsの多くがonline上で取引を行っているからと言って、全てのonline universitiesやcoursesが不正なものではありません。多くはきちんとした認可を受けた(accredited)ものです。アメリカではほとんどの大学がonline coursesを提供し学位を授けていますし、認可を受けたonline universitiesがあり、それらが出す学位や成績証明書は正式なものとして使えます。インターネットで“online accredited colleges and universities”と入力すれば、認可を受けているonline collegesやuniversitiesをリストしたサイトが出てきますのでチェックしてみましょう。

例えば、US Department of Educationが発行するThe Database of Accredited Postsecondary Institutions and Programsなどをチェックすれば、アメリカ政府が認可する高等教育機関やプログラムのリストが見られます。そこに載っていないものはfake schoolsということになるでしょう。また、“List of diploma mills”と入力すると、世界中のfake schoolsのリストを掲載したサイトがありますのでチェックしてみましょう。

本コラム(第91回 アメリカの大学へ入学する為に必要な一斉試験SATについて(1))でもonline coursesを紹介しましたが、勿論、きちんと認可を受けた大学や教育機関によるものでなければなりません。

学校や企業の採用人事において、fake degrees, fake diplomas, fake transcripts, fake certificatesは学歴詐称に抵触します。採用人事では卒業した大学から成績証明書(transcript)を人事部にcertified mail(書留)で直接送付するようにするべきです。(*7)

インターネットで簡単に売り買いができる時代になり、こうしたfake businessが多発していると言えましょう。しかし、diploma millsは100年以上前から存在し、特に医療関係の学位(medical degrees)は早くから売買の対象とされていたようです。基本、電話や手紙でのやり取りに依存し、直接行って確かめないと分からず、学位の真贋を見極めるのには時間と手間が掛かったことでしょう。

現在ではインターネットで瞬時にチェックできます。上述したように、アメリカの場合は、2005年以来、US Department of EducationのThe Database of Accredited Postsecondary Institutions and Programsにアクセスし、学校や機関やプログラムの名称を入力すると、それらが認可されているかどうかチェックできるようになりました。

(2017年7月11日記)

 

(*1)“Trump to USA: ‘You are fake news’” USA Today. (https://www.youtube.com/watch?v=wJxxQM7GxJA)
(*2)Fakeの詳細は、Merriam-Webster Learner’s Dictionary (http://www.learnersdictionary.com/definition/fake)などでチェックしてみましょう。
(*3)広報や公的報告書では代わりにcounterfeit, false, fraud(ulent), fictitiousなどをよく見かけます。インフォーマルな会話ではfakeと同じくらいphonyがよく使われます。
(*4)この意味のfakeはflakeと同義語でロープなどの結び目や塊ったものをバラバラにするという意味です。マグロ・フレーク缶詰のフレークはここからきています。
(*5)2017年6月27日、CNNはその1週間前に行った「上院情報特別委員会が、トランプ大統領就任4日前に、トランプ大統領が引き継ぎチームとロシアの投資基金のトップと密会したのではないかと調査の目を向けた」との報道を証拠不十分で撤回したと報道しました。それを受けてトランプ大統領は再度CNNをfake newsと揶揄しました。“Trump blasts CNN as ‘fake news’ after it retracts story.” (www.politoco.com/story/2017/6/27/trump-cnn-retracts -story-239988) どうやらこのパロディ動画の奥にはそうした背景があるようです。
(*6)(*3)で紹介した記事にもある通り、攻撃対象はCNNのみならずNBC, CBS, ABC,The New York Times, The Washington Postなどの主要マス・メディアにも及んでいます。視聴者の中にはこうしたトランプ大統領の発言にまつわるニュースに食傷気味を訴える人も多く、最近では、地方局を中心に敢えて取り上げない局も現れてきたと聞きます。
(*7)筆者は大学の採用人事では、このことを公募要項に明記し、かつ博士論文と直近5年以内の主要論文数点を送ってもらい、書類選考で合格された候補者を面接に招いて研究・教育業績についてのプレゼンテーションと質疑応答の場を設けました。

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。