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For Lifelong English

  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授
    Yuji Suzuki, Ph.D.
    Professor Emeritus, Keio University

第115回 アメリカの医学部(medical school)に入学するには?(その2)―アメリカ人にとっても狭き門、留学生が入る余地はあるのか? 

本コラム第95回では「アメリカの医学部(medical school)に入学するには?」と題して、世界rankingsトップを占めるアメリカのmedical schoolが、大学院プログラムであることを述べました。応募条件は、大学を卒業して学士号を有していること、在学中にpre-med coursesを履修して単位を取っていること、The Medical College Admission Test(MCAT®)(*1)を受験してスコアを提出することです。今回は、留学生が直面する厳しい状況と対策に焦点を当てます。

最近、日本の大学入試では医学部人気が高く、それを反映してアメリカmedical schoolsへの関心も高まりつつあります。最初に2017年QS World University Rankings: Medicineで、最新の世界medical schools rankingsをチェックしてみましょう。

[トップ10]アメリカ6、イギリス3、スウェーデン1
[トップ25]アメリカ13、イギリス7、カナダ2、オーストラリア2、スウェーデン1
[トップ50]アメリカ20、イギリス9、オーストラリア5、カナダ4、オランダ2、ドイツ2、デンマーク1、香港2、日本1(東大26位)、シンガポール1、スウェーデン1、台湾1、韓国1

アメリカのmedical schoolsは、世界rankingsにおいて断トツでトップを占め、その傾向は益々強くなりつつあります。アメリカはAIにおいても最先端の研究でリードしており、本コラム前回で指摘したように、医学を筆頭に多くの分野がAIの研究開発と協働することにより最先端を走っています。一方、ヒトの生身を扱うのですから、AIでは不可能と思える医療分野、ヒトにしかできない医療分野があります。AIによる最先端研究があるからこそ、逆にAIでは不可能とする領域が特定され、関心を集め、そちらでも先端研究が展開されています。

Andrew Weil氏らの提唱する統合医療(integrated medicine)とか代替医療 (alternative medicine)の最先端研究が同時進行で急成長を遂げている背景にはそうしたことがあるからでしょう。(*2)AIを駆使した最先端医療だけではなく、その逆の医療も、また、両者の中間を行く医療も発展する、そうした土壌を持つアメリカの医学研究は今後も益々発展していくでしょう。

こうした背景を持つアメリカ医学界の登竜門であるmedical schoolsは、アメリカ人にとっても超難関です。Medical schoolsの数も限られ、受け入れ人数も限られます。そこで今回の本題です。そんな中に留学生が食い込める余地があるのでしょうか?Can a foreign student be admitted to a US medical school?と入力してヒットしたサイトから、余白が限られているので、以下の3つを取り上げます。開いて読んでみましょう。TOEFL iBT® テストの中級程度のreading passagesです。

[1]“Applying to Medical School as an International Applicant
Instructions for international applicants who want to apply to U.S. medical schools using the AMCAS® application”は、AAMC(Association of American Medical Colleges)の記事です。AAMCは、1876年に設立され、MCAT®を直轄する非営利機関で、アメリカのmedical schoolsを目指す人に向けて様々なサービスを提供しており、そのOfficial Siteは要チェック情報で満載です。この記事では、先ず、AAMCがTrump大統領による2016年1月27日発の移民規制に関するexecutive orderが及ぼすmedical schools志望の留学生への影響を調査中であると述べています。特定の国家を対象としており、日本人留学生は、若干の手続き上の遅延などがある程度でしょう。

アメリカのmedical schoolsは留学生を受け入れるのでしょうか?記事の答えは、「受け入れるが、厳しい」です。

“Do US medical schools ever accept international students? The short answer is yes, but it is not easy.”

全く余地がない訳ではなく、若干チャンスありということでしょう。

記事によると、2014年には62校のmedical schoolsが留学生を受け入れ、1901名が応募し、409名が合格し、最終的には300名が入学したとあります。各medical schoolが留学生を受け入れるかどうかは、official Siteのapplication deadlines and requirementsで確認できます。

大部分のmedical schoolsは、American Medical College Admissions Service(AMCAS®)を利用するprimary applicationと、各校独自のsecondary applicationの2段階選抜方式を採っています。AMCASに託された業務の一つは、応募者のtranscript(成績証明書)を精査し・評価して(*3)AMCAS GPAを出し、志望校に報告することです。

留学生の場合はこの段階から問題が生じます。AMCASはカナダ以外の外国の大学のtranscriptsを受け付けません。(*4)よって、AMCAS GPAを出せません。各校のsecondary applicationでtranscriptsが要求されるかもしれないので、添付しておくよう勧めますが、AMCAS GPAは算出されません。

University of North CarolinaのSchool of Medicineの入試担当事務局のRandee Reid氏曰く、外国の大学のカリキュラムはアメリカのそれとは違っており、アメリカの4年制大学の学部で授業を取れば判断しやすいと述べています。アメリカのmedical schools関係者の本音と具体的対策を次のように語っています。

“..and it is very helpful to medical schools to evaluate your progress in a program in a U.S. accredited four-year institution. If taking the prerequisite course work as a non-degree seeking student, the prospective applicant will need 30 credit hours or more in order to evaluate progress. The course work should be completed before applying to medical schools.”
(“Applying to Medical School as an International Student..” AAMCより抜粋)

ずばり、アメリカの大学の学部に設置されている“the prerequisite course work”(*5)を、30単位以上、“a non-degree student”(*6)として取得するよう勧めています。アメリカのmedical schoolsに留学するには、このルートが一番可能性があると述べています。

また、留学生にはアメリカ政府による学費補助は受けられないこと、私的ローンを組むか各大学が提供する学費補助に応募して勝ち取るか、いずれにせよ、留学生には4年間の学費を賄えることを証明するescrow account(*7)の提示を求められます。これもmedical schoolsへの留学の障壁になっていることは間違いありません。

[2]と[3]の記事はUS Newsの記事です。2つとも上記[1]のAAMCの記事を補足する関連記事として取り上げてみました。以下、[1]とオーバーラップする情報を割愛し、重要と思える補完情報のみを取り上げます。

[2]“International Students: Get Into U.S. Medical Schools
Most U.S. medical schools require applicants to complete undergraduate coursework in America.”は、(1)Know where to apply(2)Complete academic requirements(3)Gain clinical and service-based experience(4)Hone English proficiency for the MCATの4 tipsを掲げています。(1)と(2)はAAMCの記事とオーバラップするので(3)と(4)に焦点を当てます。

本コラム第98回「アメリカ社会の諸分野に影響を与えたpragmatism(プラグマティズム)について」で述べた通り、アメリカでは医学においてpragmatismが浸透しています。上記(3)Gain clinical and service-based experienceでは、アメリカmedical schoolsが医療現場でのclinical and service-based experienceを非常に重視すると強調しています。医学の基礎研究はclinical experienceに基づくものと考えるからでしょう。よって、medical schoolsが、応募の際にpre-med course以外に何らかの形で医療現場での体験を持つ応募者に関心を持つことを指摘しています。

具体的にどうすれば良いかは、

“Get Strong Clinical Experiences for Medical School”(develop strong clinical experiences for medical school.)に書かれています。開いてチェックしましょう。要は、医療サービスのシステムをある程度理解した上で応募することが相応しいとするからでしょう。それに関連して、医療サービスにおけるcommunication skillsと、特に医療が届かない人たちに対する医療サービスへの熱意も審査の対象になるとのことです。これらはmedical schoolsのコースワークにおいても成功の鍵を握ると述べています。以下2つのサイトに重要な関連情報があります、開いてチェックしましょう。

Cultivate Communication Skills for Med School Admissions Success

Be Culturally Aware as a Prospective Medical School Student

さて、(4)Hone English proficiency for the MCATですが、medical schools応募者には最重要課題の一つです。このテストは高度のcritical reading skillsのテストであることを強調しています。本コラムでは何回かに分けて、TOEFL iBTテスト、SAT®テスト、GRE® テストなどを紹介し、いずれのテストもcritical thinking及びcritical reading skillsを極力重視していると述べましたが、このテストも例外ではありません。(*8)アメリカ現地の学生にとっても難しいテストですから、留学生にとってはそれ以上に難しいと感じるでしょう。できるだけ早く、大学1、2年生、否、高校生から準備を始めるべきです。

このテストには、Critical Analysis and Reasoning Skills, The Psychological, Social, and Biological Foundations of Behaviorなどの sectionsがありますが、どのsectionにおいてもかなり幅広い分野のテクストを読み、理解し、分析しなければなりません。上記の医療サービスにおけるcommunication skillsも含め、こうした高度の英語力は、medical schoolsのコースワークでもその後の医療現場においても必要不可欠です。留学生には高いハードルに思えても、テストをパスするだけの基本的なノウハウを有していれば、medical schoolsのコースワークで洗練され身に付くと述べています。 

勿論、TOEFL iBTテストも受けなければなりません。TOEFL iBTテストの先にはこのような難しいテストが待っているのです。TOEFL iBTテストが難しいと言って躊躇している場合ではありません。なるべく早くTOEFL iBTテストをクリアして、MCATの準備に取り掛からなければとても追いつけません。それは日本人留学生だけではなく、他の国からの留学生にも当てはまります。 

[3]“3 Tips for International Students Applying to U.S. Medical Schools
Learn the best strategy to gain acceptance to American M.D. programs.”は、先ず、留学生がアメリカのmedical schoolsに応募して合格する確率と、medical schoolsに掛かる費用を賄える確率の低さを指摘しています。アメリカ人でさえ公的機関から奨学金を得るのは難しく、留学生にとっては可能性は皆無と述べています。その理由について、Yale UniversityのAdmissions Policyを引用していますが、最初の文言が全てを語っています。

“International students follow essentially the same procedure and have the same application requirements as all other students.”

すなわち、入学許可(admission)においても財政援助においても国内外の全応募者を同じ選考基準と方法で審査し、留学生特別枠は無いということです。特にmedical schoolsの競争は熾烈であり、応募する前に真剣に考えるよう注意を促しています。

現在自国で医学部に在学している留学生がアメリカのmedical schoolsにtransferする道はあるのでしょうか。これはどうやら不可能なようです。 

Transferring From Foreign Medical Schools

このように、アメリカmedical schoolsを目指す留学生には厳しい状況であることを指摘しています。しかし、同時に、この記事は、2011年には117名の留学生が合格しているとのAAMCの統計を引き合いに出して、諦めるべきではないと明言しています。その対策として次の3つのtipsを掲げています。

(1)Research early.
(2)Consider completing some coursework in the U.S.
(3)Consider M.D.–Ph.D. programs.

(1)と(2)は上記の記事の情報とオーバーラップするので、ここでは(3)Consider M.D.-Ph.D. programsに焦点を当てます。

アメリカでは、学部卒業後4年制のmedical schoolのコースを修了すると、M.D. (Doctor of Medicine)を取得しますが、継続してPh.D.(Doctor of Philosophy)学術系コースを修了し博士論文を書きPh.D.を取得することができます。これをM.D.−Ph.D.コースと言います。(*9)この一貫コースの場合、留学生が合格し、かつ財政補助を受けられる可能性が、他のルートと比較するとやや高いと述べています。但し、それには、

However, international students are subject to the same requirements, must have a solid research track record, and should be committed to a career as a physician-scientist.

しっかりした研究歴と将来医科学者となる決意が必要であり、ここでも留学生の特別枠はなくアメリカ人と競わなければならないと述べています。恐らく、将来世界トップの医科学者がこのプログラムに集結するものと思います。以下のサイトには、留学生にこのコースをオープンしている大学がリストされています。 

Medical Scientist Training Programs(MSTP)Institutions

他にも多くのmedical schoolsに関するサイトがあります。その一つの US Medical Schools for International Students と称する機関のサイトでは、“US and Canadian Medical Schools Accepting International Students, Full Statistics”と題する記事があります。個人的なブログ記事のようですが、具体的に留学生を受け入れてくれるmedical schoolsのリストがあり、“State”“Cost”“GPA”“MCAT”“International Matriculated %(留学生の合格率)”“US News Best Medical Schools Rankings”などの項目を設けて情報を提供しています。他にも同様のサイトがありますが、いずれも鵜呑みにせず、自ら調べて精査し判断して取捨選択する習慣をつけましょう。ここでもcritical thinking/critical reading skillsは“a must”です。

アメリカmedical schoolsは、留学生には狭き門です。でも不可能ではありません。世界中から若い優秀な人材を入れ続けて今の地位を築いたアメリカの大学は、それを止めればすぐ凋落してしまうことをよく知っています。優秀な大学には世界中から優秀な学生が集まることを身を以て体験しているからです。日本からも医療に関心を持つ優秀な学生が来て貢献してくれることを願っているはずです。チャンス有りです。

(2018年1月15日記)

 

 

(*1)The MCAT examinationこのテストについては、別の回で述べたいと考えています。
(*2)What is holistic medicine? 参照のこと。
(*3)アメリカ国内の大学と言えども、カリキュラムや成績などの評価基準は違います。本コラムでも述べましたが、grade inflationがささやかれる大学とそうでない大学ではA、B、Cの価値基準が違います。おそらくそうしたギャップを精査し、再調整してAMCAS GPAに統一しているものと思えます。
(*4)但し、外国におけるアメリカ政府またはカナダ政府が認可したinternational schoolsは例外。
(*5)おそらくpre-med courseを指すものと考えてよいでしょう。
(*6)多くの大学でnon-degree programsがオファーされています。大学ごとに違うのでチェックしてみましょう。例、Harvard UniversityのNon-degree Programs
(*7)第三者預託のことです。インターネットでescrow accountと入力しその仕組みをチェックしてください。例:“What is Escrow? How Does Escrow Work?”Escrow.Com
(*8)第105回「アメリカ留学の大学選び―多様性の認識、リサーチ・マインド、Critical thinkingをベースに」を併せてご確認ください。
(*9)AAMCの“Applying to MD-PhD Programs”を読んでください。例として、“The Harvard/MIT MD-PhD Program”をチェックしてみましょう。このプログラムについても、別の回で述べてみたいと思っています。

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。