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話題校トップによる英語教育、国際化への想い
- 2015.06.09
- 鈴木典比古先生
- 国際教養大学
学長
国境を越えて多面的な交流が進むグローバル化の時代には、多様な価値観や世界観を互いに認め合い、諸問題の解決に努めながら、それぞれが未来を切り拓いていく力が求められます。
こうした認識のもと、国際教養大学は「国際教養(International Liberal Arts)」という新しい教学理念を掲げ、英語をはじめとする外国語の卓越したコミュニケーション能力と豊かな教養、グローバルな視野を伴った専門知識を身に付けた実践力のある人材を養成し、国際社会と地域社会に貢献することを使命としています。
国際教養大学は、2004年の開学当初から次のような取組を行い、高い評価を得てきました。
①全て英語の少人数制授業
「英語を学ぶ大学」ではなく「英語で学ぶ大学」として、全ての授業を英語で行うとともに、1クラスあたり15名程度の少人数制とし、国際社会のあらゆる環境で活躍できる十分なコミュニケーション能力を身に付けます。
②1年間の海外留学
卒業までに全学生が1年間、留学します。留学先の提携大学の多くが世界の大学ランキングに入る一流校で、現在46の国と地域、174大学に及んでいます。(※授業料は相互免除。)
③国際色豊かなキャンパスと寮生活
専任教員の半数が全世界から集まった外国人教員です。提携大学などからの多くの留学生と、美しい自然に恵まれた環境で共に学び、また、入学からの1年間は学生寮で共に暮らすことで、豊かな国際感覚を身に付けます。
④きめ細かな進路支援
小規模校ならではの個別相談に力を入れた、きめ細かな就職支援を行っています。また、国内外の大学院への進学を目指す学生を支援する環境も整えています。
さらに、昨年9月には、文部科学省から大学の国際競争力向上などを目的とした「スーパーグローバル大学創成支援」(SGU)の採択を受け、今後10年にわたり4つのプロジェクトを展開します。その1つが、今年4月からスタートした「24時間リベラルアーツ(教養教育)」の推進です。学生の9割がキャンパス内に居住していることを生かし、テーマ別の学生寮を導入することで、日本文化、公共政策、外交官など学生が選んだテーマごとに共同生活をしながら学びます。このほか、世界標準カリキュラムの充実や国際ベンチマーキングの実施などの取組を通じて、日本発の「ワールドクラスリベラルアーツ大学」を目指します。
国際教養大学学長の鈴木典比古先生に、グローバル人材育成への取り組みについてお話を伺いました。
“仮にTOEFL®テストを日本語に訳して行ったとしても、これは立派な全人力を測る手立てとして通じる”
グローバル人材について教えてください
- 編集部:
- 国際教養大学(以下、AIU)にとっての「グローバル人材」というのはどのような人材でしょうか。そしてその人材を作り上げるために、どのようなことを意識して行っているのでしょうか。
- 鈴木学長:
- 教育は社会の進展と深く結びついており、教育した人材が社会をリードしていくという側面と、社会が必要としている人材を養成する、という面があります。社会と手を携えて発展していく教育、という面では、マーケティングなどで「GIISの原則」というのがありますが、それがより鮮明になってきていると思います。GIISというのは、「Global」「Instant」「Interactive」「Satisfaction」の略で、地球上において瞬時に双方向の意思の疎通を図ることができ、お互いにお互いの意思を表明して、それに対して相互理解をしていくということですから、「GIISの原則」というものを貫徹するのが21世紀の基本的な社会のあり方になっていくと思います。そして今、この「GIISの原則」が実現する方向に向かって世界が動いています。それはこれからもっと顕著になっていくことでしょう。今の高校生・大学生が社会を担う中心の世代になる35年後の2050年までに、このGIISを満たす人物を育成していかないと、人類社会というのは成り立たなくなるほどの、基本的で強固な原則になっていくだろうと思います。
-
- そのような世界においてどのような素養や能力を持っていなければならないのかといえば、基本である日本というものをちゃんと自分の中に持ち理解して、そして将来に向かって「自分はこのようなことをやりたい」という方向性を持ち、そしてグローバルという意味での普遍化に向かって柔軟で積極的に対応していける、その二重の構造を確立していなければいけないと思います。それが2050年に必要とされる人材です。
AIUでは、そのような構造を持つ人材を輩出することを目標としていることもあり、概ね3年次に全員を留学させることにしています。1年生と2年生は本学の学生、3年生は海外に留学し、その代わり、ほぼ同数の海外からの留学生を本学に受け入れています。4年生は本学の学生ですので、本学の学生の構成はサンドイッチの構造になっています。基本である日本を理解してから、世界のことに関わることができる人材を育てることにしていますので、1年生、2年生、4年生に対しては日本ということをちゃんと学んでもらい、3年生での留学で海外のことをしっかり学び、また海外からきた留学生には、留学期間の1年間で日本という国を学んでもらいます。そこにプラスしてグローバルなことを学ぶ。日本と海外とグローバルという三重の構造が、学生の中に蓄積されていくことで、グローバリズムに対して積極的に参加していける非常にダイナミックな考え方や行動や規範を持った人材に育っていくのだと思います。非常に具体的なことでいえば、もちろん英語ができることも一つの非常に大きな要素ですけれど、それを手段にして日本をしっかりと理解し、海外に行って海外をしっかり理解し、国境を越えたボーダーレスの動きというものに積極的に参加していく、そのような人材をグローバル人材といいます。そういう人材を作りたい、作っていくのが目的だということです。
- 編集部:
- 特にその教育の中で日本について学ばせているということですが、どのようなところに力を入れているのでしょうか。
- 鈴木学長:
- そのための科目としては日本の歴史や政治経済などの社会の勉強と、文化的なことでは書道、華道、茶道それから座禅なども行います。そのような内面的なことも日本人の学生にも海外からの留学生たちも共に科目としてあります。また、文化、政治、経済、歴史、数学、物理学、化学など、西洋で蓄積されて発展してきた学問にプラス日本的なものを付け加えていわゆる全人教育を行っています。
TOEFLテストについて考えをお聞かせください
- 編集部:
- AIUでは、最初からTOEFL®テストを主軸に置かれていますが、その理由についてお聞かせください。
- 鈴木学長:
- これは一つにTOEFLテストは語学のテストであるという面とテストの内容が語学だけできていても答えられないようなリベラルアーツ的で全人教育的な内容を含んでいることが理由です。仮にTOEFLテストを日本語に訳して行ったとしても、これは立派な全人力を測る手立てとして通じると思います。つまり語学+人間力というようなことで、単語をどのくらい覚えたかとか、英文を和訳できるかというような、いかにも日本的な語学テストとは180度異なります。全人力英語を測るということは、他に類をみないTOEFLテストの特徴でもあり特色でもあり役目でもあると思います。AIUは国際リベラルアーツを謳っているので、そのような形で学生の英語力を測るという目的と合致していたということです。
*「第14回 国際教養大学 学長 鈴木典比古先生 インタビュー ―後編―」は6月23日に掲載予定です。
- 国際教養大学 学長 鈴木典比古先生プロフィール
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- 1968年
- 一橋大学 経済学部卒業
- 1972年
- 一橋大学大学院 経済学修士
- 1978年
- インディアナ大学経営大学院 経営学博士 (DBA)
- 1978年
- ワシントン州立大学 助教授・准教授
- 1982年
- イリノイ大学 助教授
- 1986年
- 国際基督教大学 準教授
- 1990年
- 国際基督教大学 教授
- 1991年
- ワシントン大学 客員教授
- 2000年
- 国際基督教大学 学務副学長
- 2004年
- 国際基督教大学 学長
- 2010年
- The Association of Christian Universities
and Colleges in Asia 理事長
- 2012年
- 公益財団法人大学基準協会 専務理事
- 2013年6月~
- 国際教養大学 理事長・学長
現在、中央教育審議会大学教育部会委員、大学設置・学校法人
審議会委員、国立大学法人評価委員会委員、高等教育質保証学会会長などを務める。
- 国際教養大学
- 国際教養大学は、2004年の開学当初から、英語による少人数制授業、海外留学の義務付け、1年次の全寮制などの取組により、国際社会に貢献できるグローバルな人材の育成を行ってきた。
さらに、昨年9月には文部科学省から大学の国際競争力向上などを目的とした「スーパーグローバル大学創成支援」(SGU)の採択を受け、今後10年間で、日本発の「ワールドクラスリベラルアーツ大学」を目指す。
上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。