大学・高校トップに聞く
話題校トップによる英語教育、国際化への想い
- 2015.06.23
- 鈴木典比古先生
- 国際教養大学
学長
前編に引き続き、国際教養やリベラルアーツについてお考えをお伺いしました。前編の内容はこちら
“グローバリズムが進むペースと同じペースで、多様性というものを育て上げなければいけない”
国際教養、リベラルアーツ教育に関して
- 鈴木学長:
- リベラルアーツは語源的には「Artes Liberales」というラテン語からきている言葉で、「自由人になるための学芸」、つまり一度あらゆる価値から自由になり、もう一回人間を形成し直すという意味を持っています。日本にしっかりと根を張り、海外のこともよく理解し、そしてグローバルな流れをしっかりと見極めながら自分自身を再構築していく、というのがリベラルアーツなわけです。そのようなことを国際的な場で行える人材を育成するためにも、学生の構成をサンドイッチにしています。
- 編集部:
- 国際教養大学(以下、AIU)が先頭に立ってリベラルアーツ・国際教養という言葉を確立してきたと思いますが、年々リベラルアーツ・国際教養を掲げる大学が増えてきたことに関してどう思われていますか。
- 鈴木学長:
- 志を共にする大学、教育機関が増えるということはこの国の人材輩出にとっては非常に良いことだと思います。GIISの方向に進んでいかないと2050年の人材輩出において、あるべき姿やそれを達成する人材を、充分な質や量ともに輩出できないことになります。その意味においては国際教養やリベラルアーツ的なプログラムを提供しようとする大学が増えていることについては歓迎しています。
ではAIUにとってどのような状況かというと、これまで十年間走り続けてきた道に他の大学も入ってくることで、AIUの競争優位であるとか比較優位が狭められ、相対化されていくということになります。AIUとしてはもう一段上に飛躍していかなければいけない。そこで「日本発ワールドクラスリベラルアーツカレッジ構想」を打ち出し4つの取り組みでさらに高みを目指していきます。この4つの取り組みとは、1つ目が「24時間リベラルアーツ教育の推進」、2つ目が「世界標準カリキュラムの充実」、3つ目が「日本の英語教育を改革」、4つ目が「国際ベンチマーキングの実施」になります。
1つ目の「24時間リベラルアーツ教育の推進」というのは、1年生が全寮生活をしているのをはじめとして90%以上の学生がキャンパス内の住居施設に住んでおりますので、24時間のうち授業に出てくる以外の時間は寮で生活しています。この寮で過ごしている生活のための時間を教育のための時間に変換していくという取り組みです。寮で共同生活をする仲間と同じテーマで勉学に励み、共に切磋琢磨していく環境を整えることで、リベラルアーツ教育の肥料を充分に与えて、そして社会に飛び立たせていくということを目標としています。共通のテーマとしては「日本文化」、「公共政策」、「外交官」等々が学生へのアンケート調査からあがってきています。
「世界標準カリキュラム」という2つ目の目標は、先ほども申し上げましたが、概ね3年次には全員留学をします。その3年生が留学中の時は海外から留学生を受け入れており、二重のサンドイッチ構造になっています。そのため、本学の学生が留学から戻ってきた時にスムーズに復帰できるカリキュラムでなければいけませんし、本学にきていた留学生が海外の母校に戻った時に、復帰できるカリキュラムでなければいけません。そのようなこともあって、海外の大学のカリキュラムと融通性を持たせる必要があり、世界基準のカリキュラムを提供していかなければなりません。また、科目の構成と同時に先生の教授法等においても変革して、教育の成果も世界基準を目指しております。
3つ目の「日本の英語教育を改革」になりますが、これは地方・地域貢献的な面も含んでおりますが、AIUの学生たちは「英語で授業を受ける」「英語でディスカッションする」「英語でディベートする」ということに非常に慣れていますので、主に秋田の小中高の生徒たちに対してAIUの学生や留学生たちが「英語で英語を教えよう」ということで、イングリッシュヴィレッジを開講しています。また小中高校の英語教員向けに、AIUの教員が「英語で英語を教えるのはどういうことなのか」「どういうことをしなければいけないのか」など「英語で英語を教える方法」を伝授しています。これらの取り組みはAIUの学生や教員でないとできないことだと考えております。
それから4つ目の「国際ベンチマーキングの実施」というのは2つ目の「世界標準カリキュラム」と連動していますが、この国際ベンチマーキングというのは、アメリカの良いリベラルアーツ教育をしている大学との間で、教育の方法や内容あるいは教育の成果等において比較検証して、世界における本学の立ち位置を相対化・客観化することを目指しています。具体的にはアメリカのウィリアム・アンド・メアリー大学、ジョージタウン大学、ディキンソン大学などとの間でベンチマークを行います。それらの大学との間でカリキュラムの内容で比較ができるレベルにしようと努力しています。
留学では何を身に付けてきてほしいですか
- 鈴木学長:
- 国内ではできないことを海外でやってほしいと思います。自分たちが生まれ育った日本という国を海外から見ることで日本を相対化するということが必要です。日本を相対化することを通じて、他の国のことやそこで生活している人たちのこともわかります。また、親も兄弟も親戚も友人もまったくいない離れた環境で生活を行うことは、これこそ全人力で対応していかなければできないことですから、そこで初めて「自分の自分による自分のための勉強」を海外で実体験して、そこからもう一度自分を再生していくという作業を行ってほしいです。
- 編集部:
- 個をいったん解放して、個をもう一回作る。先ほどのリベラルアーツに繋がってくるお話しだと思います。
- 鈴木学長:
- そうです。実際は10か月間くらいになるかと思いますが、最低1年間の留学期間は必要だと思います。この留学生活にも起承転結があります。第一段階では異なる環境や文化に右往左往しますが、3か月が過ぎた第二段階に入ると、初期の色々な異文化やそれに伴う混乱から脱出して異文化に順化していけるようになります。そして半年過ぎた第三段階に入ると自分を取り戻して留学を楽しめるようになり、最後の2か月はあっという間に過ぎていきます。このような留学の経験を通じて異文化に触れることで、今まで自分が「こうあるべきだ」「これが正しい」と思っていたことが破壊されていくという経験をすることになります。その自信が育まれていくプロセスは、リベラルアーツが凝縮された1年であると思います。
TOEFL Web Magazineの読者にメッセージをお願いします
- 鈴木学長:
- 今の高校生、大学生が社会の中心を担う世代になる35年後の2050年に向けて「自分たちが主役になるんだ」という意識を持ってもらいたいと思います。それは一世代後の世代に責任を持って運営していかなければいけないということでもありますし、同時に自由に世界を作っていけるということでもあります。他人任せで自分を訓練するとか、成り行き任せでいくということではいけません。「なんで私が日本に責任を持たなければいけないんだ」という、けして狭い意味でのナショナリズムではなく、グローバリズムに対する責任です。
これからの世界は国境を越えて、同一化あるいは単一化の傾向が強くなっていきます。全ての国が同じような価値観や行動様式になることは、効率的・経済的ではあるでしょうが、それは世界が脆弱化することでもあります。その中で自分たちのポジショニングを得るためにも多様性を維持していかなければいけません。グローバリズムが進むペースと同じペースで、多様性というものを育て上げなければいけません。
- 国際教養大学 学長 鈴木典比古先生プロフィール
-
- 1968年
- 一橋大学 経済学部卒業
- 1972年
- 一橋大学大学院 経済学修士
- 1978年
- インディアナ大学経営大学院 経営学博士 (DBA)
- 1978年
- ワシントン州立大学 助教授・准教授
- 1982年
- イリノイ大学 助教授
- 1986年
- 国際基督教大学 準教授
- 1990年
- 国際基督教大学 教授
- 1991年
- ワシントン大学 客員教授
- 2000年
- 国際基督教大学 学務副学長
- 2004年
- 国際基督教大学 学長
- 2010年
- The Association of Christian Universities
and Colleges in Asia 理事長
- 2012年
- 公益財団法人大学基準協会 専務理事
- 2013年6月~
- 国際教養大学 理事長・学長
現在、中央教育審議会大学教育部会委員、大学設置・学校法人
審議会委員、国立大学法人評価委員会委員、高等教育質保証学会会長などを務める。
- 国際教養大学
- 国際教養大学は、2004年の開学当初から、英語による少人数制授業、海外留学の義務付け、1年次の全寮制などの取組により、国際社会に貢献できるグローバルな人材の育成を行ってきた。
さらに、昨年9月には文部科学省から大学の国際競争力向上などを目的とした「スーパーグローバル大学創成支援」(SGU)の採択を受け、今後10年間で、日本発の「ワールドクラスリベラルアーツ大学」を目指す。
上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。