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話題校トップによる英語教育、国際化への想い

東京工業大学  学長 三島良直先生
  • 2017.09.26
  • 三島良直先生
  • 東京工業大学
    学長
東京工業大学  理事・副学長(教育・国際担当) 丸山俊夫先生
  • 丸山俊夫先生
  • 東京工業大学
    理事・副学長(教育・国際担当)

東京工業大学学長の三島良直先生と同大学理事・副学長である丸山俊夫先生に、グローバル人材育成への取り組みについてお話を伺いました。

“留学や各国の大学間の交流の際にも活用できるという点でTOEFL® テストを採用”

東京工業大学(または三島学長)が考えるグローバル人材について教えてください

編集部:
語弊を恐れずに敢えて「文系」「理系」という大きな括りで言いますが、いわゆる「理系」の方が研究開発での競争、学会での発表の場等で「海外」や「世界」を非常に身近に感じられるかと思います。そこでまずは「理系」「理工系」にとって目指すべき「グローバル人材」とは具体的にどのような人物でしょうか。
三島学長:
理工系は国際会議や学会で発表したり、海外の研究者とディスカッションをする機会も多いので、自身の専門について英語で話せるということは必要最低限の条件だと思います。専門以外の部分できちんと自分の考えを伝え、また人の話を聞き、その上で自分はどう思うかを言えること、さらに、例えば日本の事、日本の政治の事、文化、歴史等に関して英語で話せることが非常に重要だと考えています。これらは普段から考えていないとできないことです。人物としての幅の広さや視野の広さ、教養など、人間としてグローバルになっていかなければいけないと思っています。よく「日本人は国際会議で発言しない」と言われるように、自分の考えがすぐに出てこないという弱点が日本人にはあるので、そこをどうするかが大事だと思います。特に小学校、中学校、高校と段階を追って人前で話す機会を増やすなどの訓練をしていかないと、なかなか身に付かないスキルだと思います。
編集部:
先生から見て教養というのはどのようなことを意味するのでしょうか。
三島学長:
「自分の興味があること」や「自分の好きなこと」は、誰に言われなくても自分で調べたりします。単純に言うと、そういう「興味があること」をいくつも持っていることだと思います。そしてどうやれば色々な話ができるようになるか。例えば世界情勢について「あなたは移民についてどう思うか」と尋ねられた時に、「日本でも受け入れるべきだと思う」とか「いや今の仕組みでは難しいのではないか」など、自分の考えを日頃から言えるように訓練することが必要です。日頃のニュースや話題になっている事を、「自分はどう思うか」という視点を持って常に見るだけでも随分違うと思います。

東京工業大学 学長三島良直先生インタビュー

編集部:
東京工業大学(以下、東工大)は、教養やリベラル・アーツにも力を入れている印象があります。
三島学長:
そうですね。まずは学生には色々なことに対し、自分がどう思うかということを他の人と一緒にディスカッションします。他の人は自分と違う事に着目しているかもしれませんから。入学直後の1年目の初めに行う『東工大立志プロジェクト』という授業では約1,100人の学生が、池上彰特命教授や外部の著名人も含めた、各分野の第一線で活躍されている方々の大人数講義と、少人数クラスに分かれてのグループワークを交互に繰り返し、自分の意見が積極的に言えるような場を設けています。
丸山理事:
この授業を通して自分の意見を言えるようになるなど、アクティビティの前後で違った雰囲気になる学生が多く見られます。
三島学長:
やってみて彼らは「話したいのだ」と感じました。今までの日本の教育というのは、子どもたちは何を答えれば“正しい”のかという基準で考えるように教えられていて、自分の思ったことを言わない教育を受けているのだと思います。自分の思ったことを言えるというのは、その人のパーソナリティが出るということに繋がります。だから異文化の人と話した時に、共通の意見を持つことが正解ではなく、違う意見を持っていることが当然なのです。そしてそういう立場で話せないと自分のパーソナリティが理解してもらえませんし、理解してもらうことで一緒に力を合わせて仕事ができるのだと思います。

東京工業大学 学長三島良直先生、丸山俊夫理事・副学長 インタビュー

TOEFL ITPテストを導入された理由をお聞かせください

編集部:
2016年からそれまでのTOEIC® テストを変えてTOEFL ITP® テストを学士課程1年目の学生に対して導入されていますが、これもグローバルな人材を育成しようというお考えのもとでしょうか。
丸山理事:
2016年4月からスタートした教育改革で、学生自身に様々な興味を持たせれば彼らは自ら勉強する、という考えを柱にするとともに、グローバルに活躍できる人材の育成を大きな背骨にしていることもあり、英語力の向上を目指しています。本当の意味で能力はあるのでしょうけれども、理系思考ということであまり英語に対して慣れていないという学生が平均的に多く入学する傾向があります。ある程度成長していくと学会等々で英語が必要になってきますので、まず学内で英語力を伸ばすようにさせたい。そして留学もさせたい。そこで世の中の「留学にはTOEFL® テスト」という流れに沿って、TOEFLテストに変えました。4月に学士課程1年目の学生はTOEFL ITPテストを受験し、3年生になった時にも受けさせる予定です。入学してから英語の標準的な能力がどこまで伸びたかを測る際に、世界で通じる世界共通のテストが利用でき、留学や各国の大学間の交流の際にも活用できるという点でTOEFLテストを採用しました。

東京工業大学丸山俊夫理事・副学長 インタビュー

「世界トップ10に入るリサーチ・ユニバーシティ」を目指す教育についてお聞かせください

三島学長:
今よりも質の良い教育を学生に提供し、非常にレベルの高い研究を行うことで研究者やドクターが世界中から集まるようになれば、おのずと世界トップ10に入る理工系総合大学になると思います。ただし、それは一般的な話でもう少し教育に落としてみると、質が良いだけでなく教員や学生のダイバーシティ、例えば女性教員や留学生の割合、教員の国籍の多様性など、そういった比率も大学の評価に関係してきます。つまり学内の国際化というのがとても重要になっています。東工大でも掲示板や書類などを順次英語で作成するなど、そういう事務的な面でも色々な意味でのキャンパスの国際化を行っています。またそれだけでなく、単位の互換性でも改善を進めています。具体的には、日本のGPAは非常に点数の付け方がいい加減で、出席点で単位が取れるような仕組みにもなっていますが、それだと採点基準や達成度をどうやって測っているの分かりにくく、海外の大学と単位の互換ができない場合があります。現状では東工大生がマサチューセッツ工科大学(以下、MIT)に行って取得した単位は当然認められるけれども、MITの学生が東工大で単位を取得しても卒業単位として認められないということがあります。そういう不均衡を積極的に直していこうと考えております。極端な言い方ですが、ランキング上位の大学になれば、世界のトップレベルの大学から、東工大となら学生交流ができると思ってもらえます。また世界中の子どもたちが進学先や留学先を考えた時にまず参考にするのがランキングなので、そこを我々は意識しています。さらに選んでいただくために非常に重要なことは、日本の国の良さだと思います。アメリカの大学の学長の中には、サマースクールで学生が他の国へ行くことになった時に、行き先は日本が一番人気がある、と言う方もいます。安全で、清潔で、それから独特の文化がある。海外から日本というのはかなりミステリアスな国だと思われていますが、そういう日本人のマインドや奥ゆかしさ、我慢強さをもっとアピールするべきだと思います。日本に留学した学生が日本の良さを理解して自国に帰ってくれるというのが、やはり留学や国際交流の大事な意味ではないでしょうか。でも現状はそこまでは行っていないので、まずはキャンパスの国際化や単位の互換性というところから改善を進めていくことだと思います。
編集部:
成績の付け方を含めてということでしょうか。
三島学長:
具体的には2016年4月に全く新しいカリキュラムにして、全て日本語と英語でシラバスを公開しております。毎週どういう教材で何をやるかということから成績の達成度など詳細を明記したシラバスを作りました。まだまだ不完全なところもありますが、ブラッシュアップして世界中から東工大の教育が見えるようにしたいと思います。
編集部:
なるほど、世界中から東工大の教育が見える。
三島学長:
MITと東工大のどちらに進学しようかと悩んだ時に、ほぼ同じレベルだったら「日本に行った方が面白そうだなぁ」と思ってくれるのが理想の姿です。2030年を目標にしておりますが、その頃には教育も研究力の質もさらに高まって、結果としてランキングも上位になっていると思います。でも、“言うは易く行うは難し”とは言いますが、大変だと感じることも多々あります。やはりこれは時間がかかることで、2030年までにと言っていますが、あと13年しかありませんので、できる限り進めていきたいと思っています。

東京工業大学 学長三島良直先生、丸山俊夫理事・副学長 インタビュー

 
一方で学生の変化に手ごたえを感じていることもあります。この間初めて『東工大立志プロジェクト』の講義を私が担当した中で驚いたことがありました。質問を受け付けている時に、学生から「先生の話は面白かったけれども期待外れでした。東工大ではどういう人材を出すのかというビジョンを先生から聞きたかった」という意見を立ち上がってマイクで言われた時は「すごいなぁ」と、とても感心しました。面白いですよね。そのようなこともあり、今夏に1年生の有志を集めて『三島学長にいい質問をする会』というイベントを行いました。丸山先生も秋に登壇される予定です。日本の大学は「教えてあげるから勉強しなさい」という“学校”のイメージが強いですが、アメリカの大学はもっと先生も学生も活気があり両方が非常にポジティブに学んでいます。ある意味では厳しいこともありますが、その厳しさが良いところなのだと思います。いつの間にかいなくなってしまう学生もいますが、自分たちが一生懸命やる中でぶつかりあって、それを超えていくある意味でフェアな場です。またドロップアウトしたからといって、何か人生に傷がつくようなこともなく、何度でもチャレンジできる雰囲気も良いと思います。
編集部:
東工大の学生はそういう方向に向かっていますか。
三島学長:
そうですね、「先生の話は期待外れでした」と言えるんだから、そうなってきていると思います。

 

*「第16回 東京工業大学 学長 三島良直先生、理事・副学長 丸山俊夫先生インタビュー ―後編―」は2017年10月10日に掲載予定です。

東京工業大学  学長 三島良直先生
  • 東京工業大学 学長
    三島良直先生プロフィール
  • 1975年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。79年カリフォルニア大学バークレー校大学院博士課程修了。81年東京工業大学精密工学研究所助手。97年同大学大学院総合理工学研究科材料物理科学専攻教授。同大学理事・副学長(教育・国際担当)などを経て2012年10月から現職。
東京工業大学  理事・副学長(教育・国際担当) 丸山俊夫先生
  • 東京工業大学 理事・副学長(教育・国際担当)
    丸山俊夫先生プロフィール
  • 1977年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程修了。78年同大学工業材料研究所助手。96年同大学工学部教授。同大学大学院理工学研究科長、工学部長などを経て2012年10月から現職。
  • 東京工業大学
  • 東京工業大学は創立136年の歴史を持つ我が国最高の理工系総合大学です。「ものつくり」の精神を大切に創造性豊かな教育を実践し、日本の産業界・科学界を支える多くの人材を輩出してきました。確かな基礎力と理工系専門力、そして、人文社会系教養をあわせもち、さらに、世界を舞台に活躍できるコミュニケーション能力を身に付けた人材の育成を目指しています。
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