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話題校トップによる英語教育、国際化への想い

東北大学 副学長 山口昌弘先生
  • 2020.03.19
  • 山口昌弘先生
  • 東北大学 副学長
    (教育改革・国際戦略担当)
    教授(理学研究科)、理学博士
東北大学 国際文化研究科 岡田毅先生
  • 岡田毅先生
  • 東北大学大学院
    国際文化研究科 教授

東北大学は、日本の大学法人として初めて、米国非営利法人Educational Testing Service(以下、ETS)と英語教育と研究に関する覚書に令和1年7月25日に調印しました。本締結にあたり東北大学の山口昌弘副学長と東北大学大学院国際文化研究科の岡田毅先生にお話を伺いました。

“ETSとパートナーシップを結ぶことによって、本学の教育学習や評価だけでなく教員の教育力向上にも繋がっていく”

なぜETSとの連携を選んだのでしょうか

山口副学長:
まず東北大学での英語教育について紹介させてください。グローバルな社会の中で活躍するためには英語能力が不可欠だと認識しており、学生の英語力の向上について2018年度から学内で議論してきました。わが国、有数の研究大学である本学の基本的な理念の中でも学部教育が国際的な視野に立って多様的な分野で専門性を発揮して指導的、中核的な役割を果たす人材を育てていくということを謳っていることもあり、英語教育が重要だと認識しています。

実は、この10年ほどで学生の英語力は伸びてきており、2008年から毎年1年生全員が受けているTOEFL ITP®テストでは、この間で平均点が20点ほど伸びています。またアメリカの大学に交換留学できるレベルと言われている550点を超える学生が、10年前だと2~3%しかいませんでしたが、最近では7~8%に達しています。ただこれだけはまだ物足りないと考えておりまして、ここから研究大学として英語教育をどのように進めるかということで、学部の特に1~2年生に English for General Academic Purposesと呼ぶ一般学術目的の英語を身に付けてもらいたいと考えております。これは、学生が授業やキャンパスライフ、普段過ごしている様々な場面で使う英語の事です。実は今回提携をしましたETSが提供するTOEFL®テストにおいては、まさにこのような場面で使われている英語力を測っており、それは本学の目指すところであります。その他にETSに対して魅力に感じていることは、単にETSがテストや評価を提供している団体というだけではなく教育学習それから教員トレーニングといった、エコシステムを作っている点です。ETSとのパートナーシップを結ぶことによって本学の教育学習それから評価だけではなく、例えば教員の教育力向上などにも繋がっていく、いわば包括的な連携関係も構築できるのではないかと考えております。

東北大学 副学長 山口昌弘先生インタビュー

編 集 部:
TOEFL ITPテストを1年生が全員受けるとのことでしたが、具体的にはいつ受けるのでしょうか。
山口副学長:
4月の入学直後に受けてもらいます。それから12月にも受けます。これが最低限、もちろんその他にも全学的にも各学部でも色々と受験の機会を用意しています。我々としては教育効果のモニタリングをする上で、本学の英語教育で求めるコアスキルが身に付いているのかという判断基準にTOEFL ITPテストがあるわけです。学生にとっては自分の実力を「どうやって伸ばしたらいいか」、それが「どのぐらい伸びたか」が明確になり、大きな学習意欲に繋がることも期待しています。
編 集 部:
TOEFL ITPテストを受けるための技術を学ぶというわけではないんですね。
山口副学長:
そうではないです。あくまで本学が掲げているコアスキル、これが身に付いていけば自然とTOEFLテストのスコアが上がると考えています。アメリカの大学だけではなくて、日本にいても英語で学ぶコアスキルが必要であり、TOEFLテストを利用することで自然と身に付いていくと考えています。
編 集 部:
先ほどお話にありましたEnglish for General Academic Purposesを目標にした貴学での英語教育システムについてお聞かせください。
山口副学長:
一般学術英語と言っても分かりにくい部分もあるかと思いますので、具体的に何をするかを示す必要があると考えています。一般学術英語をコースの目標に据え、具体的なコアスキルという形で先生方に示し、シラバスにも入れてもらいました。令和2年度から1年生の英語教育を変えていくわけですけれども、本学では読む・書くということを中心とした授業(以下、英語A)と、聞く・話すことを中心とした授業(以下、英語B)の2本立てで進めていきます。英語Aに関して1年間で目標を6、それからコアスキルを12という形で用意しています。英語Bについても同じで、1年間を通して目標を12、それからコアスキルが24ということです。このコアスキルや目標の立て方というのはTOEFLテストの評価基準を参考にし、英語教育学などの知見も踏まえて定めています。

少しだけ紹介させていただきますと、英語Aの読む・書くについては、単に文章を読むというだけではなくて、文章のテーマ、主題、アイデアなど鍵になる情報を素早く見つけていく能力を付けるために、例えばスキャンニングでキーワードを探していくような訓練もしていきたいと思っています。また、文章の論理構成を把握できる力やエッセイを書くという点では構成を踏まえてパラグラフライティングを行い、最終的には学術的な論文を読んだり書いたりする能力を付けていきたいと考えています。それから英語Bの聞く・話すについては、例えば、聞きながら重要な点についてのノートテイキングの能力を付ける、TOEFLテストでもありますが、そのようなことを学んでいけるようにして、最終的には学術的な話題について話し、議論する、そのような能力を付けていけるように、トータルな設計とすることを謳っています。各担当の先生にはそれを参考にして教育プログラムを作ってもらうという仕組みです。同時に学生にとっても身に付けなければいけない力が明確になりますので、自主学習の基準を提示できます。さらにTOEFLテストの教材などで勉強していくということで、全体として英語教育が向上できればと考えています。

東北大学 副学長 山口昌弘先生インタビュー

編 集 部:
学部の1、2年生の間に一般学術英語の力が身に付いていると、専門課程やその先の大学院に進んでいった際、英語での研究活動が高いレベルでできるようになると思います。東北大学では大学院に進まれる比率がかなり高いと伺っています。現在大学院に進む割合はどのくらいでしょうか。
山口副学長:
理系では8~9割が大学院に進みます。特に理系の大学院では英語で文章を読んで論文を書き発表するので、英語力は重要です。また留学生や外国人の研究者も多くなっていますので、研究室では英語で対応するということは日常茶飯事になっています。私自身、物理の教員ですので、研究者としては毎日のように英語を使う環境の中にあります。やはりアカデミックな英語の重要性はこの立場だけではなく一研究者としてもひしひしと感じているところです。
編 集 部:
ご自身の研究者としてのご経験からも、そのような英語力を早くから身に付けた方が良いとお考えでしょうか。
山口副学長:
まさにそう思います。理工系の学生ですと、頭の中では将来必要だと薄々感じながらも、英語を1年生からしっかり学んでいく心構えを必ずしも持っていないことは、自分自身、振り返ってみてもそう思います。ですが、先ほど申しましたように、学生の意識も徐々に変わってきていて、彼らも英語が必須であると認識をしている中、それに応えるような英語教育の改革を行っていく必要があると思っています。

また、重要性という意味では、文系理系問わず、あらゆる学生にとってそうだと思います。アカデミックなところでも、特に文系の研究成果をどう世界に発信していくのかは課題ですし、その中で英語による発信は重要になってくると思います。また、先ほど理系の学生は8~9割、大学院に進学すると申しましたが、文系は逆にグローバルな企業への就職が増えてきています。その意味では本学の学生が求められる役割として、文系理系問わず、また進路を問わず英語の重要性というのは今まで以上に増しているのではないかと思います。

 

*「第18回 東北大学 副学長 山口昌弘先生、岡田毅先生インタビュー ―後編―」は2020年4月20日に掲載予定です。お楽しみに!

東北大学 副学長 山口昌弘先生
  • 東北大学 副学長 (教育改革・国際戦略担当)
    教授(理学研究科)、理学博士
    山口昌弘先生プロフィール
  • 東北大学教養部助手、理学部助手、助教授を経て、2003年より理学研究科教授。2018年より副学長(教育改革・国際戦略担当)。東北大学英語教育改革推進ワーキンググループの座長を務める。専門は素粒子物理学。西宮湯川記念賞受賞。
東北大学 国際文化研究科 岡田毅先生
  • 東北大学 国際文化研究科
    教授
    岡田毅先生プロフィール
  • 浜松短期大学英語科講師、山形大学教養部・教育学部助教授、ロンドン大学バークベックカレッジ客員教授を経て2004年より現職。英語教育改革推進ワーキンググループ副座長。専門は英語コーパス研究および英語教育(特にeラーニング)。英語コーパス学会理事、日本ラーニング学会、英国応用言語学会等会員。
東北大学
  • 東北大学
  • 1907年の建学以来、「研究第一」、「門戸開放」、「実学尊重」の理念のもと、多くの指導的人材を輩出し、世界的に卓越した研究成果をもって人類の知の地平を拡大し、未来社会へ向けた変革・イノベーションを先導してきました。
    2018年11月に策定した「東北大学ビジョン2030」では、教育・研究・社会連携の好循環を実現し、社会とともに成長する大学として、最先端の創造と大変革への挑戦を表明しております。

    Webサイト:https://www.tohoku.ac.jp/
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