「英語を使えるようになるためには、あなたにはどんな学習が必要ですか?」と尋ねますと、最も多い回答が、①「語彙を増やす」②「文法を身に付ける」です。これらは、language-focused learning(*)(以下LFLと表記:言語項目の学習)に属するもので、それ自体大変重要です。一方で、正確さや流暢さを伸ばすためには、meaning-focused learning(以下MFLと表記:意味を伝える・受け取る学習)が不可欠なのです。過去に学習して、概ね定着している言語項目を繰り返して使用することがMFLです。こうして言葉にしてしまいますと、当たり前のことにしか聞こえませんが、冷静に自分の学習を振り返ってみれば、MFLが圧倒的に少ないことに気づきます。LFLとMFLには同じくらいの時間と量が求められるのです。
覚えたての単語や文法項目を用いて、日本文を英文に訳したり、英文を読んだり聞いたりすることは、すべてLFLに属します。学校での英語授業で、イディオムや構文を用いて文を書いたり言ったりすること、新出単語を含んだ教科書の文章を読むこと、そして、新出文法や語句を含んだリスニングをすることも、すべてLFLです。こうして見てみますと、日本の伝統的な英語の授業は、ほぼ100%がLFLだったことがわかります。「英語が使えない日本人」は、LFLに終始してMFLが欠如していたことの結果なのではないかと私は考えています。
例え話をさせてください。あなたは、日曜大工で犬小屋を作りたいと考えています。そこで、ホームセンターへ出かけて、のこぎりとかグラインダーを買います。使ったことがありませんから、とりあえず店員さんに使い方を教えてもらいます。これが、言語学習で言うと、LFLにあたります。
さて、のこぎりとグラインダーだけではお目当ての犬小屋は作れませんから、とりあえずガレージにしまっておいて、次の日曜日には、曲尺とかインパクトドライバーを買いに行って使い方を聞いてきます。これを繰り返してすべての道具が揃ったら、いよいよ犬小屋作りができるのですが、残念なことに、犬小屋の仕上げをするペンキとかニスまで揃う頃には、のこぎりの使い方やグラインダーの使い方は忘れてしまっています。LFLを続けるということは、だいたいこんなイメージです。
犬小屋の話が続きます。ではどうしたらよかったのでしょうか。すべての道具が揃わないと、犬小屋が作れないのはその通りでしょう。でも、道具が揃ったところで、のこぎりが上手にひけませんから、最初から立派な犬小屋を作ることはできないと気がつくべきだったかも知れません。道具を買い揃えるたびに、その道具を試しに使って練習してみる必要があったのです。とりあえず本番用の材料でなくても、その辺にある木切れなんかを使って切ってみるとか、やすりをかけるとか、ペンキを塗る練習をしておくとよかったでしょう。「完璧でなくても使ってみる」ということが、道具(=言語項目)を使えるようになるための必須のプロセスです。これが、MFLです。
個人でできるMFLのトレーニングとして、J-E Exerciseを提案します。難しいことは何もなく、ただ頭に浮かんだことを英語で言って(書いて)みようというものです。ルールはただ一つだけで、それは「辞書を使用しないこと」です。辞書を使用しないことにより、既習の言語項目しか使用できませんから、必然的にMFLになるのです。和英辞典を使用すると、また新たな単語や表現を学ぶLFLになってしまうので、辞書は使用しないのです。うまく話せない、あるいは書けないことの理由は、大工道具のように、既習の項目を使わないままガレージ(頭の中)にしまっているからなのだと考えてください。
●私は音痴だ。
「音痴だ」にあたる語は、辞書を引けばtone-deafと出ていますが、これは使いません。「音痴」とはどういうことかを考えて、この言葉が意味することをリストにしてみます。そうすると、「音程を外して歌う」とか「リズム感がない」のように、なおさら難しくて英語で言えないような表現が思い浮かんでしまうこともありますが、かまいません。とにかく自分の知っている範囲の英語で言える表現が見つかるまで、できるだけたくさんリストに書き加えましょう。そして、言えるものを見つけて英語で言って(書いて)いきます。最初のうちは、表のような、ワークシートを使うといいでしょう。
【表】
それでは、いくつかお題を出しますから、トライしてみてください。
1)私は宿題に追われている
2)彼はガリ勉だよ
3)あの車は中途半端に古い
J-E Exerciseを繰り返すうちに、次第に思ったことがすぐに英語で出てくるようになります。流暢に英語を話す人の多くは、ものすごくたくさんのボキャブラリーを持っていると言うよりは、限られたボキャブラリーを自在に使っているだけなのかもしれません。テレビを見ているとき、雑誌を読んでいるときなどに、ふと目についたり耳に入ってきたことを「言い換え」テクニックで英語に置き換えてしまう習慣をつけましょう。MFLが増えて流暢に話せるようになることでしょう。
1)【宿題が多すぎる】I have too much homework (to do).
【先生が宿題を出しすぎる】Our teacher gives us too much homework every day.
2)【勉強ばかりしている】He is always studying.
【彼の唯一の趣味は勉強】His only hobby is studying.
3)【十分に古くない】The car is not old enough to be cool/valuable.
(*)語根、form-focused learningとも言う
【参考文献】
Nation, I.S.P. (2009) Teaching ESL/EFL Listening and Speaking. Routledge.
○『部品で覚える入試重要2300語 つむぐ英単語 』河合出版/内田浩樹(著)
○『英単語メモリー』(2011)Jリサーチ出版/内田浩樹(著)
○国際教養大学・内田浩樹教授のライブ授業シリーズPart 7『Learn to Write before You Write “日本語を見つめて書ける英作文”』(ジャパンライム)