目の前にタウンページがあったとしましょう。それを30分ほど見た後で、「○○町のフローラという名前の花屋さんの電話番号は何番?」と尋ねられて答えられる人はほとんどいないでしょう。それは、タウンページを見ていた時の読み方が、スキミングだったからです。逆に「○○町のフローラの電話番号を探して」と頼まれたら、おそらくは1分もかからないで見つけることができるでしょう。あらかじめ見つけ出すべき情報がはっきりわかっているときは、読み方はスキャニングになります。
煮物をしているときに、浮いてきた灰汁(あく)をすくい取ります。これがskimのイメージです。そこから「表面をさっとすくうように読む」という意味が派生しました。つまり、だいたいのことをさっと読むのがスキミングです。ですから、細かいところまでは読み取りません。花屋さんの電話番号を思い出せないのは当然のことなのです。
scanが意味するとおり、特定の情報を探しながら読むのがスキャニングです。30分間スキミングしても記憶に残らなかった花屋さんの電話番号を1分足らずで探し当てることができるのは、あらかじめ探さなければならない情報をしっかり意識して読むからなのです。このことからもわかるとおり、スキミングよりは、スキャニングの方が楽な読み方なのです。
リーディングが苦手な方は、スキャニングで読むようにすれば良さそうです。でも、初めて読む英文は、スキミングしてだいたいの内容を把握するしかありません。そこで、初めて読む文章でもスキャニングになるような工夫をすることが必要になります。
次の英文を読むことにしましょう。
Youth at Risk of Hearing Loss
The World Health Organization estimates more than 1 billion young people are at risk for losing their hearing. The cause: listening to audio devices or going to concerts and bars for too long with decibels at unsafe levels. The WHO recommends limiting the amount of time you listen to music to about one hour a day and not spending more than eight hours at events above 85 decibels to avoid permanent hearing damage. Most concerts hit more than 100 decibels.
CNN english express 2015年6月号(朝日出版社)より
この文章のタイトルに「若者に聴力障害の危険性が」とあります。タイトルを読まない人は少ないでしょうけれど、しっかり意識して読み、内容を予測することが大切です。たとえば・・・
このように考えて、内容の予測を立ててから読み始めます。「自分が予測したことが書いてあるかな?」と確認するために読むことはすでにスキャニングなのです。また、予測のすべてを読む前にする必要はありません。途中まで読んで、続きの予想を立てることも効果的です。「聴力低下の危険性を避けるためにはどうしたらいいか?」などと自問自答していくのです。予想がまったく外れることもありますが、同様に自問自答を繰り返して軌道修正しながら読み進めます。
リーディングが得意な人は、リーディングをスキャニングに変えて読む作業を無意識にやっているものです。リーディングに苦手意識のある方は、「予測することでリーディングをスキャニングに変える」のだということを常に意識するように心がけてください。
英語能力テスト対策で、英文を読む前に設問を先に読もうといったようなテクニックがよく紹介されますが、これも同じ原理です。先に設問を読むことで「何を読み取る必要があるのか」をはっきりさせ、リーディングをスキミングからスキャニングに置き換えているということです。実際の試験では、設問を読んで英文に戻る時間はなかなかありませんから、設問先読みのテクニックは実践的ではないかもしれません。そういう場合は、ご提案した自問自答式の方法で、リーディングのスキャニング化を図るようにするのが効果的でしょう。
短い英文で練習を重ねましょう。教材の一例として、例題でも使用したCNN English express(朝日出版社)があります。短い報道記事がたくさん収録されていますし、記事の音声CDも付属しているので、総合的な学習に活用すると良いでしょう。
【参考サイト】
○ CNN english express(朝日出版社)
【参考文献】
○『部品で覚える入試重要2300語 つむぐ英単語
』河合出版/内田浩樹(著)
○『英単語メモリー』(2011)Jリサーチ出版/内田浩樹(著)
○国際教養大学・内田浩樹教授のライブ授業シリーズPart 7『Learn to Write before You Write “日本語を見つめて書ける英作文”』(ジャパンライム)