連載最終回は、英語の学びをリアルな社会に繋げることをテーマにお話しします。リアルな社会に繋げるとは、2つの意味があります。1つは、英語の学び方を、リアルな社会での英語の使用場面に合わせて学ぶということです。もう1つは、自分の学んだ英語で、リアルな社会を知ったり、リアルな社会に発信したりすることです。
実際の社会での英語の使用場面を考えてみましょう。例えば、英字新聞を読むとき、一番最初に目に入ってくるものは何でしょうか?恐らく、写真ではないでしょうか。写真から記事の内容を想像します。自分の関心のあるテーマだったら、見出しを見てトピックを確認します。そして、本文を読み始め、面白ければじっくり読むでしょう。読んだ内容が面白ければ、「こんな話が新聞に出てたよ」と家族や友達に話したり、SNSに書いて発信したりしていく。こんな流れではないでしょうか?
リアルな社会では、読む前に丁寧に導入してくれる先生はいません。単語リストもありません。ですから、単語や文法が100%分かってから読み始めるのではなく、面白そうなものをまずは読み始め、最後まで読み続けることが大切です。絵や写真がついていたら、よく観察し、内容を想像することも重要です。一通り読んだ後、分からない単語や文法があれば自分で調べていきます。単語や文法の学び方は、第113回をご参照ください。
最後に分かったことを話したり、書いたりして発信することに繋げましょう。家族に話しても良いでしょうし、日記などに英語で書いても良いでしょう。
人がモチベーションを保つためには、様々な段階があるとアメリカの心理学者アブラハム・マズローは自己実現理論の中で述べています。教室では、役に立ち、認められるという社会的欲求や承認(尊重)の欲求をリアルな社会に繋げるようにしています。自分が社会に必要とされている、果たせる社会的役割があるという感覚が生徒の主体性に火をつけるのです。
学びをリアルな社会に繋げ、社会的欲求を満たしていくのに、最近の授業ではSDGs(Sustainable Development Goals = 持続可能な開発目標)を利用しています。SDGsは2030年までに、先進国も新興国も途上国も、国も企業もNPOも個人も、あらゆる垣根を越えて協力し、より良い未来をつくろうと国連で決まった17の目標です。193の国と地域が賛成し、2015年9月に採択されました。
SDGsのそれぞれのゴールを通すと世界規模の課題に繋がります。例えば、教科書で「ゴミのリサイクル」について学ぶとき、12番目のゴール「つくる責任 使う責任」を通せば、国連の数値目標や実施手段にアクセスできます。資料の多くは英語で書かれているので、リーディングの良い素材になります。
また、最近『未来を変える目標 SDGsアイデアブック』(紀伊國屋書店)の出版のお手伝いをしました。日本語で書かれた本ですが、事例のQRコードの先には英語のページもあります。書籍で紹介されているSDGs.TV では英語の映像にもアクセスできます。
SDGsという窓を通して英語を学習すると、リアルな社会での課題にぶつかります。SDGsを英語で学び、英語で自分の考えをまとめることで、誰もがSDGsの発信者になることができるのです。
こうして、英語の学びを社会に繋げることで、モチベーションを保ち、発信することで「手段としての英語」を実感することができるでしょう。英語は手段ですから、「知りたい」「伝えたい」という目的があってこそ上達するのです。