達セミに学ぶ 英語学習のヒント

全国の熱血教師による授業に学ぶ英語学習方法伝授

宮城県名取北高等学校英語科/大槻欣史先生
  • 宮城県名取北高等学校
  • 大槻欣史先生
今回のヒント
新聞を活用し英語で表現する機会を増やす工夫

 

Ⅰ.新聞を活用する理由

NIEとは「教育に新聞を(Newspaper In Education=エヌ・アイ・イー)」の略語で、学校で新聞を教材として活用することです。1930年代にアメリカで始まり、日本では1985年に静岡で行われた全国大会で提唱され、その後、「NIE実践校」制度は47都道府県全ての地域での実践が実現されました。私も二度のNIE実践指定校を経験し、その後は、NIEを「深め、広める」ため、知識・技術・体験を生かして、地域のNIEの普及・発展に努力しています。

さて、文部科学省が2015年に示した「英語教育の抜本的強化のイメージ(高等学校)」では、「ある程度の長さの新聞記事を速読して必要な情報を取り出したり、社会的な問題や時事問題について課題研究したことを発表したりすることができるようにする」ことを目標例に掲げ、英語教育での新聞の有用性や価値を認めています。

新聞記事ならではの特徴としては、一覧性・携帯性・記録性・確認性・詳報性・解説性・予測性などが挙げられますが、どれも、授業における新聞記事の使いやすさや有効性を十分に説明するものであります。また、その社会的意義も広く認められ、新聞通信調査会「メディアに関する全国世論調査」(2015)によると、信頼度の高さ、内容の充実度、種類の多さ、正当性、責任ある報道などの点で他のメディアよりも高評価を得ています。

私が日ごろ感じている新聞活用のメリットは、「世界観が変わるほどの題材が豊富である」、「『遊び』の要素を含んでいる」、そして、「『本物』を教室に持ち込める」の3点です。これらを活かして授業を行うことで、生徒は生き生きと、そしてより創造的な活動ができるようになります。今回は、授業で行ったNIEの実践例を紹介することで、英語を学ばれている方々の学びの一助となれば幸いであります。

Ⅱ.具体例紹介

 1.「全面広告」の活用

写真と宣伝文だけの全面広告は、シンプルではありますがメッセージ性が非常に高いことをご存知でしょうか。そのメッセージを読み解き、英文で表現させることがここでの目的です。昨年11月3日に、「嵐」の文字とメンバー全員の写真、そして「1999-2019」の数字だけの全面広告が読売新聞に掲載されました。マグネットで貼り付け、右上の11月3日を指しながら"What is today?"と尋ねると、一瞬考えた後で「嵐がデビューした日!」という答えが返ってきました。"OK. Say that in English."と言いグループで話し合わせました。生徒と「時制に注意。過去のことだから過去形ね。」とやりとりをしながら、"ARASHI made a debut on November 3rd in 1999."と答えを作り上げました。

次に、広告全体を指しながら"What does it mean?"と問うと、「来年20週年!」という答えが勢いよく返ってきました。"Please write that in English."と言い、しばらくグループで話し合わせ、"So, please use the future perfect form."という時制のヒントも与えました。数分後にグループの代表に板書させ、どの表現が最も良いかを選びました。選ばれた英文は"ARASHI will have been active for 20 years next year."です。

写真や数字は万国共通なので、そこから言いたいことを理解し、英語で表現することはとてもクリエイティブな活動となります。つまり、「必要な情報を取り出したり、社会的な問題や時事問題について課題研究したことを発表したりすることができるようにする」ための第一歩になると確信しています。また、ここで教師に必要な配慮は、平常点などの成績や評価を気にせず、自由にクラスメートと自分の意見を言い合える場を提供し、間違いを恐れずに話ができる雰囲気を醸し出すことだと考えています。

 2.「天気予報」の活用

最近、外部検定試験や模擬試験などで、グラフや図から必要な情報を読み取る問題が出題されます。そこで、新聞に掲載されている天気予報を活用し、日本各地の天気を見ながら、天気、降水確率、その日の最高気温・最低気温を読み取る活動をします。まず天気ですが、"What is today's weather in Osaka?"のように、単純に疑問文で尋ねるのも良いですが、"Please tell me what today's weather in Osaka is."と高学年で扱う場合は間接疑問文にすることもできます。事前の「口慣らし」として、「晴れ・曇り・雨・風・雪」の基本的な言い方や「晴れ時々曇り」や「晴れのち曇り」と言った応用編を練習しておくことも忘れてはいけません。

次に、降水確率ですが、"What is the possibility of rain in Naha?"と聞かれたら、"There is a 50% possibility of rain in Naha from 6 p.m. to noon."と答えます。新聞によっては午前と午後に分けて記載されているものがありますので、時間を気にしながら答えることになります。

最後に、世界の天気を使った活動です。"What is the coldest/hottest city in the world?"と最上級を使って聞くこともできますし、"Which is colder/hotter, Soul or Taipei?"と比較級を使うことができます。この活動を進めていくと、北半球と南半球の季節の違いを知り、同じ北半球でも緯度の違いにより気温が全く異なることに気づき、世界の広さを実感することになります。また、国名と都市名を覚えることができますし、異文化理解の導入にも最適です。

 3.「テレビ欄」の活用

ここでは、読売新聞とThe Japan Newsを使います。表面には日本語の番組表、裏面には英語の番組表を印刷して生徒に配布します。授業日の新聞であれば、帰宅してからの視聴予定を聞きます。ここでは、"Which TV program will you watch tonight?"のように未来時制を意識させることになります。前日の新聞であれば、昨夜見た番組名を問います。ここでは、"Which TV program did you watch last night?"のように過去時制を意識させます。

副産物としては、日本語と英語を両方見ることで、「これは英語でこういうんだ!」という発見があります。また、ペアワークを行うと、相手が何を見ているのかを知り、お互いに情報交換できるので、クラスの雰囲気がほんわかしてきます。高学年であれば、"Why did you watch it last night?"と突っ込みを入れることで、相手の興味・関心を理解し自然に会話が弾みます。

 4.「4コマ漫画」の活用

4コマ漫画は論理的思考を養う絶好の教材といわれています。準備は非常に簡単で、新聞を拡大コピーし、コマをばらし、ペアかグループに1セット配布し、論理にかなうように並べさせる活動がおすすめです。登場人物のセリフや表情、周りの状況をじっくり考えなければならず、ああでもない、こうでもないと議論が白熱し盛り上がる活動です。

並べた後の活動は、漫画の「流れ」により変わってきます。「4コマ目がなぜそうなったのか?」という「因果関係」を説明させたければ、Becauseを使って理由や原因を説明させることになります。例えば、4コマ目に唇を腫らした女性がいたら、"Why did this old lady understand that her daughter eat too many spicy chili peppers?"と問い、その理由を答えさせます。「唇を腫らす」という表現は教科書には出てきません。しかし、自分の身体に関する表現を知っておくべきではないでしょうか。生徒とのやり取りを通して、"Because her mother saw her swollen lips."や"Because her lips were swollen."という模範解答を示していきます。

また、ことわざを取り上げた漫画は、漫画の描写力を借りて、状況とことばとがスッと頭に入ってきます。例えば、悪いことが主人公に同時に起こる漫画を見ながら、"What does it mean?"と聞くと「踏んだり蹴ったり」、「泣きっ面に蜂」、「弱り目に祟り目」という答えが返ってきます。そこで、"How do you say it in English?"と言いながら考えさせ、グループの代表に板書させます。"It never rains but it pours."、"When it rains, it pours."、"What happens twice will happen three times."が板書され、全員が確認しながら納得できる良いチャンスです。

4コマ漫画は、教師がいくら言葉を尽くしても伝えきれないことを、いとも簡単に伝えてくれる教材です。リアルな状況を絵やセリフで表現し、かつ、ユーモアたっぷりに『遊び』の要素を多分に含んでいますので一度試してみてください。

 5.「写真」の活用

英文法の授業は、その単元のポイントを覚え、教科書に書かれた例文を音読し、Exercisesを解いて終了。これでは、せっかく学んだものが使えるようにはなりません。今回は、動名詞を学習した後で、4つの重要構文(How about doing...?/I am looking forward to doing.../It is worth doing.../Do you mind doing...?)を身に付けるために、新聞に掲載された写真を活用したストーリー作りを行いました。

この活動は、最初に4人のグループを作り、各グループに新聞を配布し、「人やモノが2つ以上写っている写真を1枚選び、ワークシートの中心に貼ってください。そして、4つの構文を各コマに一つ使いながら、英語でストーリーを作ってみましょう!」と指示をします。ここでのポイントは、「たまたま開いた(Serendipity)新聞の中から、写真を一枚選択し(Selection)、思い思いのストーリー(Story)を創造する」という流れの中で、自分で表現したいことと習った構文を結び付けようという「3S作戦」です。

最初の写真選びからコミュニケーション活動が始まります。その写真を選んだ理由を説明し、誰の写真を使うか議論します。これが最高のウオーミングアップとなります。次に、コマが印刷されたA3の用紙の中心に選ばれた写真を張り付けます。「話題の中心」という位置づけを可視化するためです。そして、各コマに4つの重要構文のうちの1つを使って、写真の状況を考え、写っている人物の気持ちになって英作文をしていきます。重要構文を使うタイミングを意識しないと英作文ができないので、楽しみながら真剣に取り組んでいました。

新聞を活用し英語で表現する機会を増やす工夫

新聞を活用し英語で表現する機会を増やす工夫

Ⅲ.最後に

「社会と生徒をつなぐ窓」と呼ばれる新聞を授業で使うことは、旬の話題に触れる良い機会であり、新聞を全く読まない高校生が多くなっている中で、とても意義があります。数年後には、社会に放り込まれる高校生が、オーセンティックな(本物の)話題を使って英語で表現する経験を積むことは、文部科学省が示した目標例にも合致することとなります。英字新聞をひたすら読むというリーディング中心の過酷なトレーニングを積むことも必要ですが、記事に書かれている内容を理解し、深く考え、自分の思いを英語で表現するトレーニングも同時に大事であると感じています。是非ご活用ください。

 

  • 宮城県名取北高等学校
    大槻欣史先生 プロフィール
  • 宮城県名取北高等学校教諭(英語科)。宮城教育大学大学院修了。日本新聞協会NIEアドバイザー。過去に2度、NIE実践指定校に認定された経験を基に、実践を重ねる。英字新聞も積極的に活用。NIEのほかにICTの利活用にも積極的に取り組む。仙台在住。
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