達セミに学ぶ 英語学習のヒント

全国の熱血教師による授業に学ぶ英語学習方法伝授

秋田県立秋田南高等学校中等部/吉澤孝幸先生
  • 秋田県立秋田南高等学校中等部
  • 吉澤孝幸先生
今回のヒント
「立体ノートテイキング」を活用したスピーキング練習

家庭で行えるスピーキング練習

生徒にとって英語の学習を考えた場合、学校の授業においては「学校の授業でしかできないこと」を、家庭では「家庭で行った方が効果的な内容」を行うのが望ましいと考えます。今回は、家庭で行えるスピーキングの練習方法として「立体ノートテイキング」とシャドーイングを組み合わせた方法をご紹介します。

一般的なシャドーイングは

シャドーイングは、学習方法の一つとして、広く紹介されています。ただ、一般的に「シャドーイングは英語力向上の手段として効果がある」と信じて行っている場合が多く、授業の中でも数回シャドーイングを行い終わりという場合が多いのではないでしょうか。もっとも授業でシャドーイングを中心にすることには、伝える相手がいるのにも関わらず個人練習を行っているようなもので、ふさわしいとは私は思えません。むしろ、授業で扱った題材を足がかりとして、教室外で行うことが好ましいと考えます。しかし、家庭でシャドーイングを行う場合でも、なんとなく音を追えた段階で次の英文題材に移ってしまう傾向が多いのではないでしょうか。つまり、目的を持った上で少量の英文でも本当に自分の体の一部になる感覚を味わえるまで、仕上げることはそれほど多く行われていないと推測しています。

少量の英文でも、目的意識を持って仕上げる感覚を

中学生の教科書1ページ分の英文にも、たくさんの学ぶべき事柄が埋もれています。正しい発音、強勢、構文パターン、英語の論理展開などです。毎回、音だけを追ってシャドーイングするのではなく、フォーカスする観点を変えて行うことで、例え少量の英文でも効果が見られると感じます。少量の英文でもしっかりやり込む感覚を持って取り組むからこそ、英語力の核が形成され、他の英語に触れたときにも得られた効果が生きてくると思います。これらのことを私は、「KHシステム」の研修会に出て学びました。興味のある方は、『究極の英語学習法K/H System(入門編)』(アルク)をご覧ください。

立体ノートテイキングとは

ノートテイキングとは、受信した内容を要領よくメモする方法をイメージしますが、「立体ノートテイキング」では単に項目をメモするだけでなく、話の展開や流れが一目で分かり、自分でも意識し易くなるような「地図」の役割を果たすメモをイメージしています。

例えば、英語の基本的なロジックパターンとして次のようなものがあると思います。(図1)

「立体ノートテイキング」を活用したスピーキング練習

それを踏まえて、図2のイメージに沿って、メイン・サポ(1)~(3)・まとめの箇所に、1語~3語程度の単語をキーワードとして記入し、話の流れを意識した「地図」、すなわち「立体ノート」を作成する。作成する際は、丁寧に論理の展開などを確認しながら行うため、文字として英文を読んでその上でじっくり作成する方がいいと思います。

立体ノートを基に話す

その上で、音声にも慣れ親しみ、構文単位でも意味がストンと落ちた段階で、先ほどの(図2)のようなノートをもとに再度シャドーイングをすることで、自分が実際に話しているような感覚で行うことができます。また、聞いた英文を1文または数文ごとに止めて、立体ノートを見ながら文を組み立てて話す練習をすることで、より自分で話している感覚を味わえます。そして最後の段階では、音源なしで、立体ノートだけをもとに英文を伝える練習をすることで、正しい音声や強弱を身に付けた上で、論旨の展開を意識して話すことにも繋がります。何よりも、この立体ノートのメリットは、自分が一体どの部分を話しているのかが見通しを持った上で発話できることです。

授業における活用

授業では、主として読んだ内容の展開を自分なりに判断して、それを立体的なメモとし、それを基に第三者に概要や要点を伝えるという活動に繋げることができます。この活動は、シャドーイングと併用した活動とは異なりますが、教室という場を踏まえるとシャドーイングにはとわられず、理解した内容を相手に誤解なく伝えるための足場としての手段としての活用例です。下の図3は、NEW HORIZON3(東京書籍)Unit6「Striving for a Better World」で扱われているアウンサン・スーチーさんの半生についての英文を読んだ後に生徒が作成した立体ノート(メモ)です。教科書の内容は、必ずしも先に示した図1や2のロジックパターンにはなっていませんが、自分で理解して判断した展開を書くことが大切であると思います。このように、学校の授業では理解した内容を立体ノート(メモ)に基づいて他者に伝えたり、家庭ではシャドーイングと立体ノート(メモ)を併用して、じっくりと音声面や構文理解においてのトレーニングをすることなどが考えられます。

また、このことは新学習指導要領の下記の部分とも軌を一にするものであり、自分で理解した内容を精選し、他者に伝えるための橋渡しとなります。

「立体ノートテイキング」を活用したスピーキング練習
(図3)

今回は、受信した内容を整理し、内在化するための立体ノートテイキングの活用をご紹介しましたが、次回は発信するための内容から自ら構成するための橋渡しとして行う「メモに基づいたスピーキング」を今回の内容と関連付けてご紹介します。

 

  • 秋田県立秋田南高等学校中等部
    吉澤孝幸先生 プロフィール
  • 「第5回英語教育の在り方に関する有識者会議」にて「言語活動における即興力の育成~メモに基づくスピーキング指導を通して~」と題して
    新指導要領のカギとなる「即興力」について提案。「学習指導要領解説」を執筆(話すこと[やり取り]を担当)
    ・2018年パーマー賞受賞
    ・2014年度 文部科学省「第5回英語教育の在り方に関する有識者会議」オブザーバー
    ・2015~2017年度 文部科学省 コアカリキュラム「英語教員の英語力・指導力強化のための調査研究事業」における調査研究担当者
    ・2016~2017年度 文部科学省「中学校・高等学校における英語教育の抜本的改善のための指導方法等に関する実証研究」企画評価会議委員
    ・2016~2018年度 文部科学省「学習指導要領等の改善に係る検討に必要な専門的作業等」の協力者(学習指導要領本体及び解説の執筆)「話すこと[やり取り]」担当
    ・2018年度~ 文部科学省「中学校・高等学校における英語教育の抜本的改善のための指導方法に関する実証研究に係る有識者会議」委員
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