本稿では、即興で話すことができるようになるための橋渡しとして「メモに基づくスピーキング」についてご紹介します。
これまで学校の授業の中で「話すこと」を扱う際に、原稿を書いてそれを読み上げる、または暗唱してそれを発表することをもって言語活動を行う傾向が少なからず見られたのではないでしょうか。教員研修などの場で紹介される「話すこと」についての映像を見ても、事前にかなり練習を重ねた上で発表活動に至った映像が多く見られた記憶があります。外国語の学習ですから、練習をすることも当然必要になりますが、それとは別の場面では、できるだけ日本語を介在する部分を少なくし、限られた時間に伝えようとする内容を構成し、それを適切な言語形式を使って表現することが新学習指導要領の考え方とも軌を一にします。しかし、一足跳びに「即興で話す」段階に到達することは難しいことですので、その橋渡しとなる手段が必要になります。それが、今回ご紹介する「自分の考えを構成するためのメモ」です。メモに基づくスピーキング指導とも表現できますし、メモ式スピーチといっても良いかもしれません。
「メモに基づいたスピーキング」を実践の切り口として紹介すると、「どのような項目でメモをすれば良いのですか」「メモと言っても、うちの生徒は単語すら書けないのですが」といった声が聞かれることがあります。ここで確認すべきことは、メモはあくまでも手段であって、メモの取り方自体が目的ではないということです。単語のつづりが不確かな場合、そのために辞書を引くよりは、記号や絵を描いておくことが良いでしょう。要は、自分で話すための足がかりにさえなれば良いのです。むしろ、前回述べたような「話しの展開」「ロジックパターン」には留意して内容を組み立てる方が重要だと思います。
ここでは、中学生に対して行った「メモに基づくスピーキング」について実際のメモや生徒が自分の話した英語を振り返るために書いた英文をご紹介します。
テーマ1:高校生はアルバイトをするべきか。
テーマ2:“I am a 14-year-old Japanese.”を読んだ感想を述べ合う。
上記題材(アメリカ大使館公式マガジン「アメリカン・ビュー」)を英語にアレンジした英文を読み、自分と題材テーマを関連させながら、限られた時間2分程度で意見をまとめお互いに伝え合う活動を行いました。
項目AからDについては、次のような観点を設けてメモを作成させます。
A:出来事 ➡ B:自分の受け止め方 ➡ C:自分の気持ち ➡ D:自分の行動/影響
これは、ディスコースグラマーの一種と言えますが、パラグラフライティングの観点には沿っていません。人は、ある出来事をどう受け止めるかによって、気持ちが形成され、その気持ちが自分の行動を促すという流れになっています。メモの作成も題材や目的によってさまざまな形態があって良いと思います。大切なのは、「限られた時間」でという点です。1分から2分で考えを形成し、それをどんどん短くしていくことで最終的には、ほぼ即興の状態で自分の考えなどを伝えることができるようになることです。
新学習指導要領においても次のような言語活動が示されており、まさに「メモに基づくスピーキング指導」が取り入れられていることがお分かりいただけると思います。