私は英語とは全く縁のない家庭で育ちました。両親は私の成績や進学にはあまり興味がなかったようです。大学進学を決定する高校最後の三者懇談では、偏差値が何であるかよく理解していなかった母は、担任が熱心に私の成績の説明している最中に私の横でうたた寝している…というある意味悲惨な家庭で育ちました。
そんな母が珍しく勉強について私に語ったことを今でもよく覚えています。私が中学1年生になった時、突然母はこう言いました。
「勉強というのは、自分に合った勉強の仕方を見つけるのが本当の勉強だ」
きっと誰かが言っているのを聞いてそのまま私に言ったのだと思います。しかしこの言葉が私の英語学習方法を考えるヒントになりました。
私の中学生時代の英語の授業というと、ノートを見開きにして使い、向かって左側の端に縦に新出単語を書き、さらに教科書の本文を写す。向かって右側の端にはその単語の日本語の意味を書き、授業中に先生が訳した日本語訳を書く、というものでした。中学校3年間の英語の授業はそれだけでした。私は塾に行っていませんでしたので、自分が持っているものだけで英語の学習をしないといけませんでした。中学生だった私は一番効率が良くて成果が出る方法は何かを考えました。その結果編み出したのが、先生が訳した教科書の本文の日本語訳をさらに英訳して、符号や単語全て完璧に書けるまで何度も書く、という方法でした。それほどリスニングが重要視されていなかった時代でしたので、テスト範囲の教科書本文を完璧に書けるようになるまで練習することで、中学校3年間の英語の定期考査は全て90点以上取ることができました。当時あまり文法なども理解していなかったのになぜ90点以上の点数を取ることができたのか…。当時はよく分かりませんでしたが、今ならテストの点数を取れた理由が分かります。その方法によって単語の綴りを覚え、英語の文法のパターンが身に付いたからだと思います。品詞などを理解するようになってから、その方法でさらに英作文力が付きました。
誰にも教わらず自分で考えた方法でしたが、教師になって生徒の塾の宿題を覗き込んだ時、関西で有名な某塾の宿題が私の練習方法と全く同じものでした。
穴埋めや書き換えをするよりもよっぽど効率的で、確実に力が付くと思います。しかし、この方法にはルールがあります。それは自分に厳しくすることです。符号1つでも間違えたら完璧に書けるまで何度も書く、というストイックさが必要です。ストイックにすることで、英語の品詞やパターンに意識が向きます。何となく書いていては、時間と鉛筆の芯の無駄になってしまいます。
そして、私はあまり記憶力が良いわけではなかったので、大量の英文を覚えて書くということが困難でした。3文程度なら覚えられると思ったら、とりあえず3文練習して、日本語訳を見てテスト形式にして英作する。書けたら次の3文。ある程度練習したら、10文ぐらいテスト形式にして書く。自己採点を細かくすることも、この方法の大切なルールです。
生徒にもこの方法を伝えていますが、見ていると自分に厳しくできる生徒だけがこれで英語を書く練習をしています。自分に厳しい生徒は、この方法で練習するのが楽しいみたいです。「この方法だと英語をよく覚えられる」と言った生徒もいました。
英語だけではないですが「自分に合った勉強方法を見つける」、ということは語学習得にとても大切なことです。生徒たちには私の方法をそのまま教えるのではなく、そこからまたさらに自分に合った方法を編み出してほしいです。