前回(第55回『Debateで養う「問題解決」的思考-前編-』、第56回『Debateで養う「問題解決」的思考-後編-』)の寄稿から6年、本年度、私は8年間の夜間定時制高校での勤務を経て、進学校へ異動しました。その間、第10回全国高校生英語ディベート大会in岐阜の運営に関わり、その後、岐阜県高校生英語プレゼンテーション大会の運営に関わりました。進学校に転勤し初年度の今年は、教員人生で初めて「英語スピーチ」の指導にもチャレンジしました。ディベート・プレゼンテーション・スピーチは「全く別モノ」と思っていましたが、「根幹は一つなのではないか?」と感じました。
今回は「英語プレゼンテーション」の準備のためのフレームワークを紹介します。ベースは前回寄稿した「英語ディベート」と重複しますが、参考になればと思います。
授業で「AIやロボットが発達すると、私たちの仕事が無くなる、私たちがこれまで同様に働き続けるのは難しくなると言われています。私たちはこれからどうするべきだと思いますか?」というテーマでエッセイを書かせた時のことです。“We should stop developing robots and AI because we will lose jobs in the future.”と書いた生徒がいました。与えられた時間が短く調べる手段もスマホ以外にないため、そういう記述にならざるを得なかったのだと思います。
上記のテーマでプレゼンテーションをする課題が与えられた場合、読者の皆様はどうされるでしょうか。課題からは「AIやロボットが発達すると、私たちの仕事が無くなる、私たちがこれまで同様に働き続けるのは難しくなると言われています。」という簡易的な前提情報を読み取ることができます。ここから現状分析のために「インプット」つまり、テーマに関連した情報を賛成側・反対側双方の識者によって書かれた記事を読み込みます。よく分かっているテーマであれば最初から英語で書かれた情報を読みます。そうではない場合は日本語でこのことについて考える素地となる情報を集めます。実際、私が今年度英語プレゼンテーション大会で発表する指導を行なった場合は東洋経済オンラインやNews Week日本版で情報を集めました。News Week日本版は当然探せばNews Week英語版の記事もありますので「この表現は英語ではこう表現されていたのか」といった発見があり、そういった表現をリスト化してプレゼンテーションの中にも織り込みます。現状分析を行うと、「これから、こうするべきだ」という主張が見えてきます。これがプレゼンテーションに必要なあなたの主張となります。
更にもう一段深めましょう。"So, why is it important?"と自分に問いかけるのです。それでは答えが出ない時は"How can I say so?"と自分がなぜそう思うのかを深掘りすると良い場合が多々あります。いずれにせよ「こうするべきだ」という主張の背景に「そうすべきメリットの提示」が存在するのです。
メリットの提示というと利益誘導のようで何か後ろめたい気もします。こう考えましょう。「人は何らかのインセンティブを与えられることで、善なる行動をとる」と考えたらどうでしょうか。そうすることで聴衆がその後行動を変える、そうすることで社会が少しでも良い方向に向かう。これをプレゼンテーションの世界では"Call to Action"と呼びます。私がプレゼンテーションの師匠と敬愛する杉本真樹先生(帝京大学冲永総合研究所 特任教授)は「PresentationはPresent、聴衆が持って帰ることができるPresentを与えることだ」と仰っています。「自分が言いたいこと」を伝えがちなプレゼンテーションですが、こういう視点で準備をしていくことで真に意味のあるプレゼンテーションになります。