“TOEFL® テストは「留学」のためだけではないということ、英会話やリスニングはもちろんのこと、米国の大学や高校などの授業で使用される英語を、大学生の教養として学ぶことができる”
大阪教育大学(以下、大教大)は、柏原キャンパス(大阪府柏原市)と天王寺キャンパス(大阪市)があり、約4200名の学部生、約400名の大学院生などが学んでいます。大教大柏原キャンパスでは、2003年にTOEFL ITP® テストを初めて試験的に実施し、2007年から「英語IIa」の授業で期末試験にTOEFL ITPテストを導入、毎年7月と1月に実施しています。
以下では、導入の経緯、TOEFL® テストを課している「英語IIa」の特徴、授業における指導、交換留学とTOEFLテスト、私の専門である英語学・言語学とTOEFLテストの関係についてまとめてみたいと思います。
私は教育学部教養学科欧米言語文化講座に所属し、欧米言語文化コースの学生に言語学や英語学の専門科目を教えるだけでなく、共通基礎科目の言語科目(英語)も担当しています。
今から10年前、まわりの大学が英語教育の改革に取り組む中、大教大でも改革を望む声が上がり始めました。自分なりに何ができるかと考えていたときに、当時龍谷大学で英語の教鞭を取っておられた英語学の大先輩かつ恩師に相談し、初めてTOEFL ITPテストの存在を知りました。
まずは、大教大の学生の英語能力を把握するために、300名による試験的受験を2回実施し、その後、同僚の安部文司教授と私を中心にして、英語IIaの授業にTOEFL ITPテストを導入しました。
「なぜTOEICテストでなくTOEFLテストなんですか?」―これは、2003年に初めてTOEFL ITPテストを実施したときから、常に問いかけられる質問です。第1の理由は、TOEFLテストが世界的に英語能力達成度テストとして認められているからです。第2の理由は、本学は教員養成課程の学生が半数以上を占めるため、統一試験となると、日常生活用語、学生生活/学術用語の語彙を中心としたTOEFLテストの方がふさわしいと考えるからです。第3の理由は、TOEFLテストが米国などの英語圏に留学する際に要求される試験だからです。TOEFLテストを受験することにより、留学に興味を持ち、また、留学を希望する学生に非公式とはいえTOEFLテストを容易に受験する機会を与えたいと思っています。
本学の英語の授業は、残念ながら、多いとは言えません。柏原キャンパスには教員養成課程と教養学科があります。教養学科では第1外国語を英語に選んだ場合、1回生前期は英語Ia, 後期は英語Ibという90分の授業を週1回受講、2回生は外国語コミュニケーションIと英語IIaの授業をそれぞれ前期か後期の指定された学期に受講することになっています。
1回生と2回生で週1回ずつになったのは、人件費削減のためです。共通基礎科目の英語教育は非常勤の先生にご協力いただいていたのですが、大学の方針で、なぜか英語の非常勤の先生だけ実質ゼロとなり、授業も週1回に減らされてしまいました。最悪の条件の中で何とか英語教育のレベルを維持するため、英語IIaをCALL(コンピュータ支援語学学習)教室(定員64名、本学での正式名は、CALL & Media Lab)での授業とし、その代わりに他のクラスを少人数にするという苦肉の策を取りました。またこれを機に、英語IIaだけでも、共通教材・統一評価を目指すことにしました。その結果導入されたのが、TOEFL ITPテストだったのです。
TOEFL ITPテストのスコアを成績評価に組み入れた英語IIaの授業は、「統一評価」「CALLシステムを用いた共通教材」「自学自習」の3つの特徴があります。
現在英語IIaは、3名の欧米言語文化講座教員が担当していますが、2012年度の英語IIaの共通のシラバスに記載されている「授業の到達目標」は次の通りです。
「TOEFLテスト(米国などの大学において留学生に求められる英語力を測定するテスト)のための教材を中心に、TOEFL ITPテスト500点を目指して学習することにより、大学生としてふさわしい、実用的で教養と国際感覚を備えた英語コミュニケーション力を身につける。情報機器操作および情報機器を用いた語学学習に慣れ親しみ、自学自習の意欲を高める。TOEFL ITPテスト(団体受験向けペーパー版TOEFLテスト)を利用した統一期末試験により、自分の英語力の身長を客観的に把握する。」
成績は次のように計算します。
成績=「TOEFL ITPテスト素点」+「出欠点」+「平常点」
成績の判定基準は、「秀≧600>優≧550>良≧500>可≧400>不可」となっています。この基準は、TOEFLテストの試験的実施の際の大教大学生のスコアをもとにしています。欠席ゼロで、平常点が100点の場合、TOEFL ITPテストのスコアが450ならば優、500以上ならば秀ということになります。
また、TOEFL ITPテストで550点(TOEFL iBT® テストで79点)以上を得点した学生は、英語IIaの単位を取得したものと認定する場合があります。
英語IIaの授業は、64台のコンピュータを備えたCALL教室で実施されます。授業は、TOEFLテスト対策のCALL教材を使用した共通の部分と、各教員が独自で行っている部分があります。
英語IIaは、学生の自学自習の意欲を高めることを目標としています。CALLシステムを利用することで、学生は自分のペースで学習をすることができます。また、授業がない毎週水曜日の午後12:30~17:30に自習開放をしています。その他、授業で自習用の参考書やウェブサイトなどを紹介したり、10分1点の自習ポイントを与えたりしています。希望者には研究室で参考書を貸し出したりしています。
英語IIaでは、共通教材以外は各教員が自由に工夫しています。私のクラスでは、当初は、TOEFLテストとは別のDVDを見せたりもしていましたが、対策に絞ってほしいという学生の希望が多く、現在は完全にTOEFLテスト対策の授業となっています。2年前からこれまで配布したプリントなどをまとめて、「英語IIaハンドブック」をテキストとして配布しています。授業内容をまとめてみました。
第1回授業では、TOEFL ITPテストとはどんなものかを、ハンドブックとパワーポイントなどを使用して、TOEFLテストのセクション構成を含めて説明します。そして、TOEFL ITPテストを体験してもらうために、学期の最初と最後に、ハーフテストを実施します。
TOEFLテストは「留学」のためだけではないということ、英会話やリスニングはもちろんのこと、米国の大学や高校などの授業で使用される英語を、大学生の教養として学ぶことができるということを伝えます。
毎回の授業は、語彙とCALL教材による3つのセクションの学習、スピーカーから流す一斉のリスニング練習から成っています。
最初の5分間で、ハンドブックを使ってその日の分野の語彙チェックを行います。学期中に2回、語彙テストをして、平常点に反映します。
次に、共通教材のCALL教材を用いて、3つのセクションの学習をします。基本的には自分のペースで自分の好きなように学習をすればよいのですが、目安として、各セクションのその日のメニューを提示します。その日のメニューが終わったら、あらかじめハンドブックで指定されている他のCALL教材を学習します。
CALL教材を用いたリスニングの学習は、実際のTOEFL ITPテストのように次々と問題が流れるのではないので、それを補うために、授業の後半の時間帯に、スピーカーを使って一斉にリスニングの練習をします。洋書の参考書を使って、毎回一つのパートの問題に取り組みます。解説は、書画カメラで解答スクリプトを各学生のコンピュータのモニターの間にあるセンターモニターに写しながら英語をもう一度流して行います。
StructureとReadingのセクションは、時間配分がカギとなりますが、CALL教材ではその練習ができないので、毎回課題プリントを配り、授業以外で時間を計って問題を解いてきて、次の授業の最初に提出してもらっています。授業ではプリントの解説をせず、学生は課題を提出したら名簿のその日の欄にチェックをして、解説のついた解答を受け取ります。問題を全て解いているかを私がざっと確認して、CALL教材のその日のメニューが終わったら学生が取りにくることができるようにしています。
ハーフテストの時はT.A.の院生に手伝ってもらうこともありますが、以上の内容の授業を、最大60名近いクラスで、一人で行っています。これも、CALLシステムとハンドブックのおかげです。
現在留意している指導のポイントをまとめると、次のようになります。
幸い、ハーフテストで計算するスコアは、2回目のハーフテストの方が上がっています。また、学期の最後で実施する授業アンケートでは、特にリスニング能力の向上を実感している学生が多く見られます。スピーカーを使った授業を評価する声も聞かれます。
次号は「TOEFL ITP® テストとの10年間 その2」をお送りいたします。