“TOEFL iBT® テストを受ける前に自分の英語力を確認したり、学内での交換留学の選抜に備えてTOEFL ITP® テストを受験する学生も”
前回に引き続きTOEFL ITP® テストの活用法について大阪教育大学の松本マスミ先生からご寄稿いただきました。 >>前回の内容はこちら
大阪教育大学(以下、大教大)は、米国のコンソーシアム3大学とオーストラリアの1大学との間で学生交流の協定を結んでいます。これらの大学に留学するときは、TOEFL®テストのスコアが要求されるため、英語IIaの試験の際に、交換留学希望者も受験できるようにしています。ほとんどの協定校は、TOEFL iBT® テストのスコアを要求しますが、TOEFL iBTテストを受ける前に自分の英語力を確認したり、学内での交換留学の選抜に備えてTOEFL ITPテストを受験する学生もいます。
交換留学は国際センターの担当ですが、交換留学について相談しに行った学生がTOEFLテストの学習法について知りたい場合は、欧米言語文化でも相談するように指導していただいています。逆に、TOEFLテストの学習法をたずねに来た学生が交換留学も希望する場合は、国際センターに行くように指導しています。
TOEFLテストについて相談に来るのは、何も知らない1回生から、交換留学の面接試験後に推薦されたけれどもTOEFL iBTテストのスコアアップをしないといけないという学生まで様々です。自分なりに工夫して学習している学生も多いので、新しい学習法や参考書の感想など、相談に来る学生の話を聞くことで逆に学ぶことがたくさんあります。
2012年度は学内の部屋を1年間借りて、「英語資格試験のための資料・指導室」を開きました。これまでの参考書に加えて新たにプロジェクトで参考書を多数購入し、100冊を越えるTOEFLテスト対策を中心とした図書がそろいました。月、火の昼休み15分と私のオフィスアワーぐらいでしたが、TOEFLテストを中心に、例年の約2倍のべ80名を越える相談者がありました。このプロジェクトは1年間限定でしたが、英語資料室がない大教大にとって、将来恒常的にこのような部屋を開設できたら学生の英語力向上につながるのではと思います。
相談をしていて個人的に一番困るのは、TOEFLテストについて全てを教えてほしいという学生です。というのは、一通り説明すると、1時間ぐらいかかる場合があるからです。そのために、前期1回、後期1回、国際センターと欧米言語文化講座との共催で、CIEEのスタッフの方におこしいただき、TOEFLテスト説明会を開催しています。問題例を含めてわかりやすく説明していただき、学生もとても喜んでいます。
説明会後にやってきた学生には、説明会の際にCIEEからいただいた資料とTOEFL ITPテストについて独自にまとめたプリントを渡して、まず自分で一通り読むように指導しています。さらに、CIEEやETSのウェブサイトで情報を集めることを勧め、TOEFL iBTテストの場合は、公式問題集(日本語版)を読んで実際に問題を解くことを勧めます。力のある学生には、TOEFL® Tipsをじっくり読んでもらうのがいいと思います。
留学までに時間があって、TOEFL ITPテストをまだ受けていない場合は、まずTOEFL ITPテストを受験して自分のスコアを知ること、また、TOEFL iBTテストを受けないとならない場合は、1回目の受験を先延ばしにしないことを指導しています。
昨年、協定校であるUNCW(ノースカロライナ大学ウィルミントン校)から、TOEFLテストの授業を担当されている先生が来学され、英語IIaの授業を見学されました。指導の仕方が自分と似ていると喜んでいらっしゃいましたが、こちらの方こそそれを聞いて安心しました。今度はこちらがUNCWのTOEFLテストの授業を見学して指導の参考にしたいと思っています。
私の専門は、英語学・言語学で、人はなぜ言語を話すことができるのかということを追求する生成文法の研究をしています。特に、統語論(文や句の構造・組み立てについての研究)と意味論の重なる領域が研究対象です。
TOEFLテストというと、Listening、最近ではSpeakingが重視される傾向がありますが、「文法力」も軽視することができないと思います。例えば、Writingのスコアが上がらない学生に話を聞くと、品詞の違いが理解できていないし、意識もしていないという場合がありました。
TOEFL ITPテストでは、Structureのセクションがあり、主語と動詞の一致、動詞の活用など、コミュニケーションに必要な文法問題がある他、ListeningとReadingにおいても、長い主語の場合、どこまでが主語かということを判断する力、すなわち文の「構造」を理解する力が必要です。Listeningの会話問題において、仮定法の知識が必要な場合もあります。
さらに、Speakingにも文法力が必要とされているのは、TOEFL iBT® TipsのAppendixでSpeakingの評価方法としてあげられているIndependent Speaking RubricsとIntegrated Speaking RubricsのLanguage Useの項目で、grammarという表現が1~4の全ての欄、structureという表現も多くの欄で使われていることからも明らかです。
英語学では、言語理論の知見を何とか英語教育に活用できないかという試みが従来から行われています。最近私も、『最新言語理論を英語教育に活用する』(開拓社)という論文集を共編で出版しました。英語IIaの授業では、TOEFL ITPテストの会話問題における文法力の重要性について意識してふれるようにしています。
2012年度の「言語学概論II」では、半年間「音声学・音韻論で研究されている音の規則を学ぶ→その規則が使われている例をCDによるネイティブの発音で聞く→自分の発音を録音してネイティブの発音と、音と波形について比べてみる」という授業をCALLシステムを使って行いました。
6.1でふれたTOEFL iBTテストのSpeaking RubricsのDeliveryの項目にはintonationが要素として含まれています。Intonationにも規則と例外があり、intonationやstressについて、規則を学んだ上で、波形で音の強弱・高低が記録されるCALLシステムを用いて発音練習をすると、より効果が上がるのではないかと思います。
以上、TOEFL ITPテストを中心にこの10年間の経験からまとめてみました。TOEFLテストの指導をされたことのある先生から見ると、当たり前のことばかりかもしれません。私の結論は、TOEFL ITPテストの指導・実施は、一人ではできないということです。 同僚の安部文司教授は、英語IIaについての規則やCALL教室の管理・運営などで中心的役割を果たしていただいています。TOEFL ITPテスト実施に関するCIEEとのやりとり、受験の受付と当日試験の運営の準備、テストマテリアルの受け取りと返却、スコアの返却は大阪教育大学生協にお願いしています。部屋の予約から当日静かな環境の確保にいたるまで、大学事務スタッフの協力が不可欠です。さらに、英語IIa担当者の間でのフィードバック、国際センターの教員による支援などがあります。
これまでは大阪教育大学教育振興会から会員に対する全額または一部の受験料補助をいただいてきましたが、2012年度は大学から受験料の全額補助がありました。
今でも、一番最初に300名を大教室に集めてTOEFL ITPテストを実施した10年前の11月のことが目に浮かびます。CIEEや生協の皆様が真剣な顔をされて並ばれる中、どきどきしながらカセットテープのボタンを押したときの初心を忘れずに、これからも学生の英語の指導にあたっていきたいと思っています。
参考図書:『最新言語理論を英語教育に活用する』(開拓社)