For Lifelong English

  • 2014.10.14
  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授
    立命館大学客員教授

第75回 アメリカのpreparatory school (通称prep school)について

この8月に日本の大学受験界に激震が走りました。日本の3大予備校の一つが全国27校舎の内の20を閉鎖するとのこと。ここ数年いわゆる大学浪人の数が減ってきたことが主因のようです。筆者の大学生時代の1960年代は、2浪や3浪は当たり前で、4浪や5浪という、つわものもいました。一時期には、大学へ入るよりも一部の予備校に入るほうが難しいと言われたことさえあります。さて、日本の予備校を英語ではなんというのでしょうか?普通に訳すとpreparatory (prep) schoolというのでしょうが、アメリカではpreparatory (prep) schoolは、将来大学に進むことを目指す公私の小学校、中学校、高等学校を指します。大学教育を目指さない学校はないので、その意味でアメリカの小学校、中学校、高等学校はみなprep schoolということになります。アメリカでは入学試験に特化して短期間で訓練する学校をcramming schoolといい、イギリスではcrammerというようです。cramとは「短期間で詰め込む」という意味で、I have been cramming for a history test tomorrow.(明日の歴史の試験のために詰め込み勉強している)などの表現があります。アメリカでも夏休みなどを利用して試験準備をするキャンプがありますが、「詰込み型」ならcramming campというのかもしれません。

そもそもアメリカには「浪人」するという概念がないような気がします。アメリカ人の大学生が「1浪」したとか「2浪」したなどと言うのを聞いたことはありません。高校を出てからしばらく働いてから大学に来た人は大勢いましたが、ここ40年間アメリカの様々な大学と関わってきた筆者の体験からして、日本の予備校のような学校に行って「浪人」した人に会ったことはありません。アメリカの高校生は、高校卒業時の実力に合った大学に入ればよいと思っているからでしょう。このコラムで以前述べたように、transferというシステムが充実していて、ある大学から他の大学に比較的容易に移ることができるからです。誰でも入れて授業料が安い公立の2年制コミュニティー大学に行き、4 年制大学にtransferすることができます。大学院ならどこでも応募できます。その為には入った大学でしっかり勉強すれば、決して無理なことではありません。大学のどのキャンパスでもそうしたtransfer学生が多くいます。高校卒業時にノーベル賞受賞者70人(*1)を輩出しているカリフォルニア大学Berkeley校に入れなくても、入れた大学で頑張ればtransferできる可能性が残されています。

アメリカのすべての小・中・高の学校は、広い意味でのpreparatory (prep) schoolといえそうですが、狭い意味でのprep schoolは、有名大学に大勢の卒業生を送る学校を指すようです。インターネットでAmerica’s best prep schoolsと検索してみてください。私立、公立、day schools(自宅通学), boarding schools (全寮制)等など、色々な種類に分けてランキングをしています。その内のThe 50 Best Private Day Schools in the United States (http://www.thebestschools.org/blog/2013/04/30/50-private-day-schools-united-states/)を検索すると、全米1位にニューヨーク市にあるTrinity Schoolがあります。1位に選ばれた理由に以下4点が上げられています。(1) 多くの卒業生が有名大学に進学しており、(2) 教員の修士号等の保有率が高く、(3) ギリシャ、ラテンなどの古典をはじめ、ユニークなカリキュラムが充実しており、(4)生徒の課外の興味を伸ばす教育を行っている、からだそうです。過去の卒業生には、1. John McEnroe (tennis star), 2. Stacy London (fashion consultant), 3. Humphrey Bogart and Larry Hagman (actors), 3. Sophie B. Hawkins (singer-songwriter), 4. Yo-Yo Ma (cellist), 5. Truman Capote and Colson Whitehead (novelists), 6. Oliver Stone (filmmaker)等など多士済々です。McEnroeは、確か、スタンフォード大学(テニス界入りで中退)に入りました。その他の有名校も勉強はもちろんのこと、生徒一人一人の個性を伸ばす教育をしているようです。時には、preppyなどと揶揄され、こうした学校の卒業生を集めた学校をpreppy collegesと呼ぶこともありますが、それらの多くは全米Top 50にランクされている私立大学です。

私立に対して公立のprep schoolsもあります。ニューヨーク市のBronx School of Scienceは、過去にノーベル賞受賞者を8人出しています。The Best Public Schools in the United States (http://www.thebestschools.org/blog/2013/03/27/50-public-high-schools-u-s/)を検索してみましょう。留学は何も大学生や大学院生に限られていません。高校生も進んで考えてよいでしょう。どうやら、アメリカでトップ校に選ばれるのは、詰込み型のcramming schoolsではなく、生徒の個性・趣味・関心を伸ばす学校のようです。高校留学を考えている人は、それを念頭に入れて選びましょう。ここでも、ランキングに左右されず、自分にもっとも適した学校を選びましょう。調べること自体が英語の勉強になります。

(*1)List of Nobel laureates by university affiliation
(http://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Nobel_laureates_by_university_affiliation)

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