For Lifelong English

  • 2014.11.11
  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授
    立命館大学客員教授

第76回 アメリカの大学に留学するための年間総費用(cost of attendance)と財政援助 (financial aid)について

アメリカの大学に留学したくても、高騰する授業料を見ると二の足を踏まざるを得ません。なにせ、トップ私立校の殆どが軒並み年間約45,000(2014年10月1日現在の為替レートで約500万円http://colleges.usnews.rankingsandreviews.com/best-colleges/rankings/national-universities)もするのです。州立大学では、アメリカの市民権を持ちかつその州に住んでいる学生の授業料(resident tuition)は約13,000ドル程度ですが、留学生も含めてそれ以外の学生の授業料(nonresident tuition)は36,000程度です。それに教材や生活費が掛かり途方もない金額になります。

私立のハーバード大学は、2014年~2015年の1年間に掛かる総費用の概算は約68,000ドル(約7,400,000円)と言っています。(http://www.nyhabitat.com/new-york-apartment.html)州立のカリフォルニア大学は、キャンパスごとに違いますが、平均すると1年間の総費用は約55,000ドルだそうです。(admission.universityofcalifornia.edu/paying-for-uc/)

どちらの試算も大学の賄い付きの寮に入る場合を中心にした控えめな算出であることは間違いありません。いずれにせよ、どのようなコミュニティーに大学があるかで1年間の総費用(cost of attendance)は変わります。小さなワンルームのアパート(studio)で月に2,000ドルから2,500ドルもするニューヨーク(www.nyhabitat.com › New York City Apartments)などの大学は、治安維持に伴う費用が物価に反映され額が増えます。コロンビア大学の場合は賄い付きの寮に入れた場合は、約63,000ドルとのことですが(http://www.collegedata.com/cs/data/college/college_pg03_tmpl.jhtml?schoolId=399)、全員入寮できるかどうかは分かりません。入れなければ、アパートに住むことになりますが、かなり割高になるでしょう。

スモールタウンにあるリベラル・アーツ・カレッジの人気が高いのは、治安もさることながら、寮が整備されて面倒見が良く、費用的にも学生が住みやすいコミュニティーにあるからでしょう。

とは言え、どの大学をとっても大変な費用が掛かり、これでは平均的な所得の子弟が簡単には行けません。アメリカ人の多くは融資を受けて大学を卒業し、2012年の概算では大学卒業者が平均で27,000ドルの借金を抱えていると報告されています。ただし、アメリカ人の多くは融資を受けられますが、留学生が受けられるかどうかは分かりません。

そこで、アメリカの各大学には財政援助(financial aid)があり、その一つとして奨学金制度(scholarships)があります。大学支給のものと外部機関支給のものがあります。それ以外にも様々な名目の報奨金(grants)があり、例えば、経済学で優れた業績を残した学生に与える賞とか、その大学で経済学の学位を得た卒業生による寄付金を基金(funds)にしたものなどがあります。特に長い歴史を持つ私立大学にはこうした基金が数多くあります。

それ以外にwork study programがあります。アメリカでは教育の一環として、大学業務で学生に出来る仕事は学生にさせるという伝統が根付いています。教職員の補助とか、大学院生にはTA(Teaching Assistant)という職位で、学部の1年生や2年生の授業を教えながら教歴を積む道があります。

少々脇道にそれますが、筆者も40年も前にTAとして日本語を教えた経験があり、それが後の研究と教育に大いに役立ちました。筆者が慶応義塾大学SFCや立命館大学生命科学部・薬学部で行った「プロジェクト発信型英語プログラム」の原点を辿ればそこに行き着きます。また、筆者がジョージタウン大学で書いた英語法助動詞についての博士論文を執筆する際に、日本語の法助動詞を英語の法助動詞と比較しながら教えたことが大いに役立ちました。

話を基に戻すと、それ以外に、いわゆる大学が紹介するstudent loansがあります。アメリカの大学生はこうしたfinancial aidを組み合わせてなんとか卒業にこぎ着けるというのが現状です。今年度のUS News & Reportの全米大学ランキングで1位とされたのはプリンストン大学です。その大きな理由の一つに、

The ivy-covered campus of Princeton University, a private institution, is located in the quiet town of Princeton, New Jersey. Princeton was the first university to offer a "no loan" policy to financially needy students, giving grants instead of loans to accepted students who need help paying tuition.

という下りがありました。要するに、プリンストン大学は、経済的に困窮している学生に、授業料分の返す必要が無い(no loan)報奨金を出すという政策を打ち出しています。確かに、日本人が奨学金などを貰うことは大変でしょう。しかし、皆無ではありません。学部生であれ、大学院生であれ、それなりの能力が認められれば貰えるかもしれません。 各大学のfinancial aid programを調べてみましょう。

最後に筆者の経験を述べます。筆者が留学を決意した1968年当時の日本はまだ発展途上国でした。円ドル換算で1ドルが360円で、実際に買おうとすると400円もしました。しかも日本政府が外貨制限をしていたために、一回の渡航で許されたのは500ドルでした。約20万円です。当時大学卒の初任給が15,000円でしたから、ほぼ1年分の給与にあたります。当時のカリフォルニア大学の年間授業料は1500ドルで約60万円、東京郊外で100坪付きの一戸建てが買える金額でした。4年居たら6000ドル、それに渡航費や生活費を入れたらそうした一戸建てが何軒買えたでしょうか?

アメリカの大学への奨学金にはフルブライトがありましたが、ほんの一握りの人しか貰えませんでした。しかも、当時のアメリカの大学や大学院の敷居は今では予想できないほど高く、筆者のような英語・英文学の専攻には狭き門でした。筆者は、そうした過酷な制限の中でも先ず行ってしまったのですが、所持していた500ドルは忽ち無くなり、当時留学生に許されたオンキャンパス・ジョブで急場を凌ぎながらやっと日本語を教える職を掴んで貯蓄し、渡米からやっと5年後に本格的に言語学・英語学のPh.D.取得の道に進みました。大変でしたが、細い蜘蛛の糸のような可能性を活かしながら生き延びました。学位もさることながら、それ以上に、そこで培った海外で活き抜く力がその後の人生に役立ちました。

みなさん、もし目指す学問の本場がアメリカにあるなら、是非挑戦してみることです。上記のようなcost of attendanceをみるとたじろいでしまうのも理解できますが、情報を集めて可能性を調べてみるのもよいでしょう。

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。