For Lifelong English

  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授
    立命館大学客員教授

第83回 アメリカの「高等学校卒業程度認定試験」事情 ―新規参入The HiSET Examについて―

アメリカでは高等学校までが義務教育です。ということは、高等学校卒業証書(high school diploma)無くしては職に就けない可能性があります。以前にも述べましたが、アメリカやカナダでは幼稚園から12年生、すなわち高校3年生までの教育制度のことをK-12(kindergarten-through-twelfth grade)と言います。この制度を通して幼稚園から高校まで一貫した教育プログラムを目指しています。ですから、幼稚園、小学校、中・高等学校で転校を繰り返しても、一貫教育を受ける事が出来ます。アメリカでは国も地方自治体も教育予算の多くをここにつぎ込んでいるようです。

そうまでしても色々な事情で高校を卒業できない人がいるので、アメリカでは州レベルで、早くから、そういう人たちの為に、General Education Development(GED:https://ged.com/)と称する団体による5教科のThe GED Testが用意されています。これに合格すれば、高等学校卒業程度を認定され、卒業証書(General Education Diploma)を授与されます。アメリカでは高等学校卒業が義務教育(K-12)修了の印ですから、その後の人生に大きく影響するでしょう。

日本も平成17年より、かつての大学入学資格検定(大検)から高等学校卒業程度認定試験に名称を変えて同様の制度を導入したようです。筆者も大学で教鞭を執っていた頃、大検合格を経て入学し、学業に勤しむ優秀な学生に会いました。しかしながら、大検はあくまでも大学入学試験を受ける資格であり、高等学校卒業程度認定ではありませんでした。したがって、大学に進学しない大検合格者の最終学歴は中学校卒業のままでした。今回の改正ではそういうことを無くしたのでしょう。

さて、そうしたGEDによるThe GED Testは、コスト面を含めて汎用性に問題があるものと見えて、2013年には、TOEFL® テスト, SAT, GRE, GMAT, LSATなどを手がけて来たETS (Educational Testing Service)も、The HiSET (High School Equivalency Test) Exam ( http://hiset.ets.org/)と称する高等学校卒業程度認定試験を提供し始めました。これ以外にも McGraw-Hill Education CTBが、TASC (Test Assessing High School Completion)と称する高等学校卒業程度認定試験(http://www.tasctest.com/)を提供し始めました。ここ2年の間に、これら2つのテストが全米50州中の20州に浸透し始めているとのことです。

ETSのHiSETサイトを見ると、ペーパー・ベ—スの形式も温存しつつ、オンライン化しており、いつでもどこでも受験できます。また大学および各種団体企業にも受け入れられており、受験料もリーズナブルであると謳っています。また、英語だけではなくスペイン語でも受けられるようです。“Official Overview of the ETS High School Equivalency Test” (http://hiset.ets.org/s/flash/overview_tutorial.html) と称するビデオ・クリップにアクセスしてみましょう。HiSETについて簡単に説明してくれます。テストは次の5教科で構成されています。

  • 1. Language Arts – Reading
  • 2. Language Arts – Writing
  • 3. Mathematics
  • 4. Science
  • 5. Social Studies

Mathematicsのサンプル問題を見ると、日本の小学校高学年レベルのものも混じっており、恐らく、日本の中学3年間と高校1年で習ったことが分かれば十分対応できそうです。Language Arts — ReadingとWritingは、TOEFL iBT® テストのReadingとWritingと大差ありません。登録すれば、ScienceとSocial Studiesも含めて全教科のサンプル問題を入手できるということです。関心ある読者は、上記のHiSETオフィシャル・サイト(http://hiset.ets.org/)で詳細をチェックしてください。

導入されたばかりですから、日本でHiSETを受けるセンターがあるかどうかは分かりませんが、同じETSが主催するTOEFL iBTテストやSATなどを受けるセンターは整っているので、そのうち受験できるようになるでしょう。日本にいながらにして、アメリカの高等学校卒業程度認定を受ける事ができることになります。以前紹介したアメリカのK-12オンライン・プログラムで自学自習し、HiSETの準備が出来ますね。

世界のあちこちに、政情不安や天変地異により教育が受けられない子供達が沢山います。アフリカなどでもかなりの広範囲で携帯電話を利用できインターネット接続が可能なのですから、こうしたオンラインで提供されている教育システムと試験制度にアクセスできます。これをうまく利用したら多くの子供達が教育を受ける事ができるようになるでしょう。もっとも既に行われているかもしれません。

日本では、ここ30年の間に起きうる大規模地震などの天変地異により、数年間学校が封鎖されるという事態が起こる可能性が大です。多くの児童生徒が義務教育を修了できないという事態が生じてしまうでしょう。オンラインでできる中等学校や高等学校卒業認定制度なら何処にいても受験できます。更に、アメリカのようにオンラインでK-12のみか大学や大学院の授業を受ける事ができるようにしておけば、数年間は教育活動をすることができます。こういうことに慣れて行くことによって、何か起きたときの日本を救うことが出来るかもしれません。教育は国の礎ですから、停滞や中断は許されません。

アメリカでは2001年の9.11事件を機に多くの事がオンライン化されたように思われます。当時ニューヨーク市では幼稚園から大学に至るまで学校教育は大混乱に陥りました。学校に行けなくても受けられるオンライン教育や試験は当然多くの関心を呼んだ筈です。今回、HiSETとTASCのオンライン・テストが旧来型のThe GED Testに代わり脚光を浴びているのは象徴的な出来事だと感じます。

筆者が主宰する「プロジェクト発信型英語プログラム」は、face-to-faceはもちろんのこと、オンラインで何時でも何処でも世界中の人たちとプロジェクトを行う事を目指しています。緊急時にはオンライン活動に切り替えて続行できます。オンライン活動を継続するには双方向発信型でなければなりません。ICTはテクノロジー、情報交換、コミュニケーションの相互作用を促すもので、一方通行なものや受け身型のものとは馴染みません。

筆者は、大学以外にも、幼稚園、小学校、中学、高校などの英語教育に関するアドバイジングをしております。中には、昨年度より本プログラムを導入し、グローバル・プロジェクトに向けたインフラ整備を着実に進めている中学校があります。本プログラムの活動を通して、TOEFL iBTテスト、SATの準備もできますから、アメリカの大学に留学する道も開けるものと思っております。もちろん、やがて起こる天変地異への備えにもなります。

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。