For Lifelong English

  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授
    立命館大学客員教授

第89回 TOEFL iBT® テストに挑戦しよう(1)
コミュニケーション・ベースのアカデミック英語の発信力を測定する最先端の英語テスト

TOEFL® テスト(Test of English as a Foreign Language)が初めて実施されたのは1964年ですが、The College Board とEducational Testing Serviceの監督下で実施されたのは1965年です。同時期に日本でも実施されるようになりました。当初TOEFLテストが導入されたばかりの頃は、アメリカ留学を考えていた人たちには知れ渡っていたものの、一般には流布されていませんでした。今では考えられないことです。筆者自身も2年後の1967年の秋に東京赤坂にあったアメリカ文化センター(*1)で手にした語学留学パンフレットで初めて目にしました。どう読むか分からずにローマ字読みで「トエフル」と発音したところ、窓口の人が「足指のtoeにflを付けて「トーフル」と発音するんだよ」と教えてくれました。今では懐かしい思い出です。

当時はまだコンピュータが今ほど普及しておらず、TOEFLテストは紙ベースで、今で言うTOEFL® PBTテスト(Paper Based Test)しかありませんでした。しかし、答案はマークシートを使い、コンピュータで機械採点されるなど、日本では考えられない当時最先端の英語のテストでした。それから50年余経てコンピュータが普及するようになり、TOEFL® CBTテスト(Computer Based Test)が開発され、更に最新バージョンのTOEFL iBT®テスト(Internet Based Test)が導入されています。一切紙を使わずにすべてコンピュータ上で行う最先端の英語のテストです。

本コラムでも再三述べて来たように、現在のアメリカの大学は日本で想像する以上にオンライン化が進み、大学生の日常生活から学業に至るまでインターネットの使用は必須です。インターネットは双方向の、インターラクティブなコミュニケーションをベースにしていますから、伝統的にインターラクティブな授業活動をしてきたアメリカの大学にはすんなりと導入されました。TOEFLテストも、オンライン化が進んだ大学の授業に必要なインターラクティブな英語力の測定をすることが求められ、TOEFL iBTテストはインターネットをベースにした双方向型大学教育に見合う英語力を測定すべく開発されてきたと言えるでしょう。

よって、TOEFL iBTテストとTOEFL PBTテストは内容的に大きく変わります。もともとアメリカの大学や大学院の教育は発信型でしたが、紙ベースのテストでは、それにhearingのテープを付けたところで、listeningとreading中心の受信型のスキルをテストする事しか出来ませんでした。1980年後半それにwritingが加わりましたが、十分な発信能力は測れませんでした。1980年代から1990年代にかけてTOEFLテスト対策が盛んになり、浴びるように英語のlisteningやreadingをさせる詰め込み型の予備校(cram schools)が急増しました。その結果、TOEFLテストで高得点をあげながら、speakingとwritingなどの発信スキルが乏しく、アメリカの大学の授業について行けない留学生が多出しました。

何故このようなことが起きたのか、日本にTOEFLテストが導入された1960年代を振り返ってみるとその一端が見て取れます。1960年代の日本の大学の典型的な英語授業では、1コマ90分でせいぜい200語程度の英文を訳すことに終始しており、TOEFL Reading Sectionの3000語あまりの英文を読み50もの設問に答えることは不可能でした。加えて、listeningの授業は皆無でしたから、Listening Sectionに対しては始めからギブアップでした。当時のTOEFLテスト高得点者の多くは、概して、親の海外勤務等で英語圏の国に長期滞在するなどして、英語で生活した経験を持つ数限られた人たちであった可能性が高かったのです。もちろん海外滞在経験が無くても工夫・努力して日本にいながらにしてなんとか英語を使う機会を作り成功した人もいたでしょう。筆者の先輩の中に宣教師の家に住み込んでそうした機会を作り、卒業後にアメリカの神学大学に進んだ人が居ましたが、その1例です。

しかし、筆者をはじめ普通の大学生が日常生活で英語を使う機会はごくまれでしたから、TOEFLテスト受験では膨大な量の英語に唖然としたものでした。当時のTOEFLテストで高得点をあげる事のできた日本人は、海外滞在中に話し書く能力も培っていた希少な人たちであったものと思われます。すなわち、当時のTOEFLテストのListening SectionとReading Sectionの高得点者は、listeningとreadingの受信能力のみならずspeakingとwritingの発信能力も兼ね備えていたのです。当時のインフラ環境では、listeningとreadingに加えてwritingまではできたとしても、各受験者に直接会い面接する以外に方法のないspeaking能力をテストするのは不可能でした。そうしたいと思っても、世界規模で面接するには莫大な費用と夥しい数の面接員が必要になります。それは受験料に跳ね返りますからその意味でも不可能であったと思います。

それから50年余が経ち、TOEFL iBTテストは、最先端のインフラ環境を駆使した現在のアメリカの大学教育に要されるlistening、speaking、reading、writingの4スキルを総合的に測定するテストと言えるでしょう。留学を考えている読者は、インターネットでTOEFL iBTテスト(*2)を検索してみましょう。 幾つかサイトが出て来ますが、ETS TOEFLテストという銘打った英語のものを開いて読んでみましょう。TOEFL iBTテストは、アメリカの大学・大学院教育に要するアカデミック・セッティング(academic setting)におけるlistening, reading, speaking, writingの総合的な(Integrated)英語能力を測定します。よく質問を受けるので追記します。他にも色々な英語のテストがありますが、アメリカの大学に関する限り、アカデミック・セッティングではないもの、TOEFLテストが1973年にアメリカの大学と大学院の審議機関であるThe College BoardとThe Graduate Record Examinations Boardとの間で成立させたagreementがないものは、TOEFLテストの代用としては認めてくれないでしょう。以下TOEFL iBTテストの各セクションについての要約です。

Reading:(60~80分) 700語程度の3~4つの長文を読み設問に答える。それぞれ約700語程度で12~14の設問が付されている。いずれも大学の学部で使用するテキストブックからのもので、まず、因果関係、相関関係、比較対照、立論・論証などのレトリック能力の理解を要する内容の文章が出題される。それに沿ってメイン・アイディア、サポーティング・アイディアに関する情報、レトリック、文章全体から読み取れる総合的なアイディアを試す。

Listening:(60~90分)2~3つの大学生の会話と4~6つのレクチャー・ディスカッションを聞き、それぞれに付された5問か6問の設問に答える。設問はメイン・アイディア、サポーティング・アイディア、情報・アイディア構成、聞いたことばから推論される意味、話者の目的・姿勢などをめぐる高度なもので、分析力、構成力、批判力、推論・判断力が試される。

Speaking:(20分)6つのタスクで構成されている。2つはIndependentタスク、後の4つはIntegratedタスク。Independentタスクでは身近のトピックについて自分の意見を言う。しっかりまとまった即答ができるかどうかを試す。Integratedタスクの内の2つは、まず、短い文章を読み、レクチャーか大学生活の会話を聞き、文章からの情報も交えて質問に答える。残りの2つではレクチャーか大学生活の会話を聞き、質問に答える。読んだり、聞いたりしたものを分析し総合して自分の考えをまとめて効果的に伝えられるかどうかを試す。ETS Online Scoring Network(OSN)を通して3名から6名のratersの評価を受ける。

Writing:(50分)アカデミック・セッティングのwriting(writing in an academic setting)の能力を測定する。IntegratedタスクとIndependentタスクの2つから成る。Integratedタスクではアカデミックなトピックに関する文章を読み、それについてのディスカッションを聞き、ディスカッションの重要ポイントについてサマリーを書き、更に、先ほど読んだ文章とどのように関連するかを書いて説明する。Independentタスクでは各自が関心をもつトピックについて自分の意見をまとめたエッセイを書く。内容、構成(起承転結)、創造力、論述力などを試す。 ETS OSNの3名のratersが読み評価する。

TOEFL iBTテストのこれら4セクションの満点は120点です。アメリカのトップクラスの大学・大学院に進むのには100点(8割)以上のスコアが求められるでしょう。従来の日本における英文和訳、和文英訳などの訳読、文法・語彙・熟語丸暗記、リスニング教材の聞き流しなどを中心に短期集中型の英語学習ではとてもついていけません。筆者が知る限り、大学受験で一番タフと思える大学の学部でさえ、700語の文章を2つ読み、設問に答えるだけ、それも制限時間が120分です。現在の小学校を加えて高等学校までの8年間の英語授業の到達点としてはやや寂しいと思います。ましてや、大学に入学してさらに最低2年間英語を勉強して計10年間でどこまで行けるのでしょうか?英語が出来ないのではありません。学習方法が間違っているからです。来月号(2016年1月)では、筆者が行って来た発信型の英語学習について改めて述べたいと思います。これまで数多くの学生をトップ・クラスの大学・大学院に送って来ました。中には本当に英語が苦手な人も居ました。幼稚園児、小学生、中学生、高校生、大学生、大学院生、社会人誰でもできます。留学に関心がある人は、何人か集まり楽しく挑戦してみましょう。

 

(*1)現在のアメリカンセンターJAPAN(http://americancenterjapan.com/ アメリカ大使館広報文化交流部管轄)
(*2)https://www.ets.org/toefl/ibt/about

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。