For Lifelong English

  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授

第95回 アメリカの医学部(medical school)に入学するには?

大学留学については数回に亘り述べましたので、今回から大学院留学について述べます。最初は医学部です。英語ではmedical school(s)とかschool(s) of medicineなどの言い方がありますが、アメリカでは大学学部ではなく大学院のプログラムであることが日本と違うところです。慶応義塾大学で教鞭を執っていた30年間、筆者は日本の医学部受験に失敗し落胆して勉学意欲さえ失った学生に何人も会いました。そんな学生には、医学で世界トップの座を譲らないアメリカでは医学は大学院のプログラムであり、学部専攻に関係なく以下に述べるような準備をすれば挑戦できることを教えました。ましてや、アメリカのトップmedical schoolsともなれば医学領域の多様性を重んじ、多様な学問的バック・グランドを持つ学生を集めようとしていることは確かです。その傾向は最近ますます顕著になってきました。ですから日本の大学を卒業していることをむしろ強みにすることが出来うるのです。

最初に、Top medical schools in 2015(http://www.topuniversities.com/university-rankings-articles/university-subject-rankings/top-medical-schools-2015)を開いて世界のトップmedical schoolsをチェックしてみましょう。世界10 best medical schoolsの殆どがアメリカのmedical schoolsであることが分かります。総合的なランキング以外にそれぞれの医学専門領域別の著名medical schoolsも調べられます。医学の専門領域については、例えば、“Medical specialties”(https://www.aamc.org/cim/specialty/list/us/)などのサイトを見ると分かりますから、開いてみましょう。もし、emergency medicine(救急医療)に関心があるなら、そのサイトの検索エンジンを使い“World top medical school in emergency medicine”と入力すれば、その領域で実績があるmedical schoolsのサイトが出て来ます。以前にも述べましたが、アメリカの大学院を選ぶ際には分野・領域ごとにどこが自分に合っているかを調べないと多くの場合失敗します。名前で選ばないことです。特に医学の専門領域は多岐に亘り、人の生命を扱うことから自分に合う領域を慎重に選択することが求められます。願書には応募した理由をしっかり書かなければなりません。その為には教養、体験、判断力が必要であると判断し、大学の学部ではなく大学院のプログラムにしたものと思われます。

では具体的な応募条件を見てみましょう。アメリカのmedical schoolsに応募するには、まず大学を卒業し学士号を取得する必要があります。専攻は理系でも文系でもかまいませんが、medical school が指定するいわゆるpre-medical(pre-med)coursesの単位を取得しなければなりません。殆どのmedical schoolsがbiology, chemistry, physicsなどのコースを指定しています。それ以外にmath, psychologyそしてsociologyやEnglishなどの社会科学や人文科学のコースを指定するところもあります。もちろん、これらの指定コースは何処の大学で取ってもかまいません。

pre-med coursesの単位以外に、どのmedical schoolもThe Medical College Admission Test(MCAT®)(https://students-residents.aamc.org/applying-medical-school/taking-mcat-exam/)のスコアを提出しなければなりません。The MCAT Examもコンピューター・ベースで、 [1] Physical Sciences(general chemistry and physics), [2] Verbal Reasoning, [3] Biological Sciences(biology and organic chemistry), [4] Trial Section (optional) の4部構成で、4時間半から5時間のテストです。マルチプルチョイス型の問題形式ですが、どのセクションも問題解決型の思考力を試せるよう工夫をこらしているようです。Verbal Reasoningの問題は、議論や情報を読み理解、評価、判断して応用する能力を試すとあります。MCAT Khan Academy(https://www.khanacademy.org/test-prep/mcat)にアクセスすると、The MCAT Examの問題範囲とそれぞれのセクションの分析を行っているのでチェックしてみましょう。

The MCAT Examの [1] Physical Sciencesや [3] Biological Sciencesの問題をみると、現実的には学部ではscience系の専攻をした方がよさそうですが、[3] Verbal Reasoningの問題を見ると、人文科学や社会科学系の能力も必要です。どうやら、「理系だから文系が苦手で文系だから理系が苦手だ」などと文系と理系に2分して得手不得手を言っている場合ではないようです。両方のバランスが取れていることを求められているからです。その点でも4年間の大学教育とキャンパスライフが必要でしょう。以前にも述べましたが、アメリカの主要大学は、science系と人文系(humanities)のバランスがとれた教養を育むべくarts and sciencesのコア・カリキュラムを重視しており、どの専攻においても卒業単位に占める割合を高くしています。また、ダブル・メジャーやマイナー(副専攻)の制度も充実し、Englishとscience系の両方を専攻することも理論上可能です。ですから英米文学専攻science系マイナーでpre-med coursesを取りThe MCAT Examの準備もするということも可能でしょう。実際に、筆者が慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスで教鞭を執っていた頃、College of William & Maryの夏季研修で訪れたWilliam & Mary側の参加学生でアメリカ学を専攻した女性が卒業後Harvard Medical Schoolに進学したという話を思い出しました。

もちろん、留学生はTOEFL iBT® テストも受けなければなりませんが、The MCAT Examの難しさはその比ではありません。世界のトップを目指すなら、TOEFL iBTテストが難しいなどと言っている場合ではありません。グローバル化が進むと、世界中で人の流れが活発になります。医学の世界でも医師の動きが活発になるでしょう。どこの国に赴任するか分かりません。また、どこの国にいても患者の国籍が多様化します。従って、人の命を預かる医師ほどグローバル主要言語の能力が要求される職業はありません。言葉が通じない医療を受けるのは患者にとって大変なストレスです。また、医学分野における研究発表や論文は多くの場合英語で行われており、英語で医学を修める価値はありそうです。
(2016年4月30日記、2016年5月17日入稿)

 

【参考サイト】
*Top medical schools in 2015
http://www.topuniversities.com/university-rankings-articles/university-subject-rankings/top-medical-schools-2015

*Study medicine in the USA –International Student (http://www.internationalstudent.com/study-medicine/

*The MCAT Exam
https://students-residents.aamc.org/applying-medical-school/taking-mcat-exam/

*MCAT Khan Academy(ビデオで問題範囲と分析を行っている)
https://www.khanacademy.org/test-prep/mcat

*“Medical specialties”
https://www.aamc.org/cim/specialty/list/us/

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。