For Lifelong English

  • 鈴木佑治先生
  • 慶應義塾大学名誉教授

第96回 アメリカの大学院入学試験The Graduate Record Examination (GRE®)General Testについて

GRE® http://www.ets.org/gre/revised_general/prepare/disabilities/practice_test_1(*1)

前回(第95回 アメリカの医学部(medical school)に入学するには?)ではアメリカのmedical schoolへの留学に関連してThe MCAT Testを紹介しました。medical schoolのような特殊な専門教育をする機関をprofessional schoolと言いますが、他にもarchitecture school; business school; dental school; education school; engineering school; law school; library school; nursing school; pharmacy school; public policy school; social work school; veterinary schoolなどがあるそうです。学部レベルのものと大学院レベルのものに分かれ(*2)、例えば、medical schoolは大学院レベルのprofessional schoolですが、nursing schoolは学部レベルのprofessional schoolです。

前回と今回のテーマはアメリカの大学院留学についてですが、前回のmedical schoolは、大学院レベルのprofessional schoolで、応募時にThe MCAT Testスコアが求められることを述べました。アメリカではlaw schoolも大学院レベルのprofessional schoolで、応募時にThe Law School Admission Test(LSAT)のスコアの提出が求められます。また、business schoolも大学院レベルのprofessional schoolで(businessの学部生用プログラムをオファーしているケースもありますが)、応募時にThe Graduate Management Admission Test(GMAT)のスコアの提出が求められます。すなわち、こうした大学院レベルのprofessional schoolは特殊な専門性に関わる為、それぞれに特化した大学院入試用の標準テストが開発されてきたのです。その主要なものがMCAT, LSAT, GMATというわけです。それ以外の専攻の大学院プログラムの応募時に必要なのが、今回紹介するGRE®のスコアです。少々前置きが長くなりましたが、早速チェックしてみましょう。

The Graduate Record Examination(GRE)も、TOEFL®、SAT、上述のMCAT、GMAT、LSATと同様にThe Educational Testing Service(ETS)のテストです。ETSは1947年に設立されましたが、GREは2年後の1949年に誕生していますから、今年で67年もの歴史を有する大学院入試用の標準テストです。日本では各大学の大学院研究科が個別に入試を作成しており、全国一斉の大学院入試用の標準テストの伝統は皆無です。筆者は1966年に日本の3つの大学の大学院入試を受けました。専攻は英文学でした。1次試験は筆記試験で、英語(英文和訳と和文英訳)、英文学そして第二外国語(ドイツ語またはフランス語:和訳)で、2次試験は面接ということでは同じでしたが内容はそれぞれバラバラです。

予め各大学院の教授陣の研究テーマを調べて準備しておかないと太刀打ちできません。例えば中世のminstrel(吟遊詩人)に関する記述問題がありました。母校の英文科で中世英文学の名著であるGeoffrey ChaucerのThe Canterbury Talesを原文で読んでいましたが、あまりにも細か過ぎてお手上げです。(*3)それから数年後にアメリカの言語学科の大学院博士課程に進む為に受けたGREには逆の意味で驚きました。文科系の専攻であろうと理科系の専攻であろうと同一のテストであること、それぞれの専門分野の知識について一切問わないこと、大学院における多量のリーディングをこなす読解力とデータ解析に必要な簡単な統計や数学の能力を測定するだけであることなど、日本に無いアメリカらしさにカルチャーショックを受けたものです。GREよりGPA(Grade Point Average)、志望動機(statement)、3名の教授の推薦状を揃える方が余程大変であったと記憶しています。(*4)

GREは約70年の歴史の中で様々な改善を加えてきました。特に2011年8月に大改造を行い、それが今回のタイトルにあるThe Graduate Record Examination (GRE) General Testです。他のETSの諸テストの様にcomputer-basedテストです。ではまず、公式サイト“About the GRE® General Test”を開いてみましょう。サイトの下の“When and Where Do People Take It?”を見ると、世界160か国に散在する1,000か所のテスト・センターで年数回受験できること、受けた中で一番良いスコアを送ればよいことが書かれています。別けても、極東では中国、香港、台湾、韓国で毎月1回から3回受験できるとあります。日本を除いた極東では盛んなようですね。“Test Centers and Date”をクリックしてチェックしてみましょう。また、“Who Accept It?”の“View This List”には、GREを採用している大学院のリストがあります。アメリカとカナダではほぼ全大学の大学院が採用しています。それ以外の国でも広く採用されていますが、日本のような非英語圏では留学生にのみ課している可能性があります。いずれにせよ相当多数の大学が大学院入試用に採用していることが窺われます。

では、GREのスコアを要求している大学院の専攻をチェックしてみましょう。medical school、law school、business schoolなどのprofessional schoolは、上述したようにそれぞれMCAT、LSAT、GMATのスコアを要求していますので、大雑把に言うとそれら以外の専攻ということになります。ただし最近ではGMATに替わりGREのスコアもアクセプトするbusiness schoolが増えてきました。推測ですが、2008年のリーマン・ショックの引き金となったWall Streetのbusiness school出身者に対する批判が強くなり、全米のbusiness schoolが社会常識とバランスが取れたbusiness professionalの養成に大きく舵を切った為でしょう。“MBA Programs that Accepts the GRE® General Test”にGREをアクセプトするMBA programsがリストされています。全米のトップbusiness schoolを含め多くが名前を連ねています。2011年にGREのrevisionに“General”というキーワードが加えられて改編されたこととも何らかの関係がありそうです。

まとめてみると、medical schoolとlaw schoolを除き、それ以外の大学院でオファーされている大学院プログラムに入るにはGREのスコアでよさそうですが、読者の中で大学院留学を考えている人は、志望するthe graduate program(for MA/MS/Ph.D.)のofficial siteをチェックして確認すべきです。“A Snapshot of the Individuals Who Took the GRE® revised General Test”と称するETS・GREに、過去The GRE General Testの受験者の様々なデータがあります。その中の“Intended Graduate Major Fields”はGREのスコアが求められる専攻を学問系列別に分類しています。また、“Percentage of GRE revised General Test Examinees, by Intended Graduate Major”と称する表は、受験者が登録した専攻を学門系列ごとに分類したものをグラフで表示しています。Business系 4%、Education系 6 %、Engineering 系11%、Humanities and arts 系7%、Natural sciences 系27%、Social sciences 系14%、Other fields 26%などです。国別、性別、年齢別のデータとともに、それぞれの学問系列の平均点をThe GRE General Testの3セクション別に比較した受験者必見のデータが掲載されています。

繰り返しになりますが、The GRE General Testは、特定分野の知識の有無をテストするのではなく、以下の引用にある通り、大学院プログラムに必要とされる基本的思考力とスキルを測定するテストであることを謳っています。

The GRE® revised General Test features question types that closely reflect the kind of thinking you’ll do — and the skills you need to succeed — in today's demanding graduate and business school programs.

いずれも大学の授業を通して培われるものですが、具体的なこのテストの内容と構成をみると、授業が知識伝授型ではなく、問題発見解決を重視しリサーチ・ディスカッション活動を伴う発信型であることが前提になっていることが分かります。

The GRE General Testにはcomputer-deliveredとpaper-deliveredがありますが、日本では大部分においてcomputer-deliveredが主流ですので、こちらについてチェックしてみましょう。“About the GRE® General Test”を開き、更に、 “Learn more about the content and structure of the GRE General Test.” をクリックしてみましょう。テストは1.Verbal Reasoning 2. Quantitative Reasoning 3. Analytical Writingの3セクションで構成され、それぞれが評価対象とするabilitiesは以下の通りです。そのまま引用します。

  • 1. Verbal Reasoningで測定するのはthe abilities to:
    • (1)analyze and draw conclusions from discourse; reason from incomplete data; identify author's assumptions and/or perspective; understand multiple levels of meaning, such as literal, figurative and author's intent
    • (2)select important points; distinguish major from minor or relevant points; summarize text; understand the structure of a text
    • (3)understand the meanings of words, sentences and entire texts;
      understand relationships among words and among concepts
  • 2. Quantitative Reasoningで測定するのはthe abilities to:
    • (1)understand, interpret and analyze quantitative information
    • (2)solve problems using mathematical models
    • (3)apply basic skills and elementary concepts of arithmetic, algebra, geometry and data interpretation
  • 3. Analytical Writingで測定するのはthe abilities to:
    • (1)articulate complex ideas clearly and effectively
    • (2)support ideas with relevant reasons and examples
    • (3)examine claims and accompanying evidence
    • (4)sustain a well-focused, coherent discussion
    • (5)control the elements of standard written English

では、百聞は一見にしかず、3セクションのQuestion TypesとSample Questionsを開いて見てみましょう。解説も付いていますので、しっかり読んでみましょう。

日本人にはVerbal ReasoningとAnalytical Writingの2セクションは少々難しいかもしれませんが、かつてのGREで出題されたネイティブ・スピーカーにとっても超難解の語彙は無くなったので十分に対応できます。Quantitative Reasoningのmathの問題の難易度はあまり高くなく、読者の多くが高得点を期待してよいセクションです。ただし、英語表現が分からないとお手上げですから科学英語表現をしっかり覚えておきましょう。Sample Questionsをよく見たら、GRE公式サイトに無料でThe GRE General Testを体験するソフト“POWERPREP® II, Version 2.2 Software: Preparation for the Computer-delivered GRE® revised General Test”があるので試してみましょう。

The GRE General Testはこのようにかなり一般的なテストです。しかし分野によってはある程度の専門的な知識を要するものがあります。数学の大学院を目指す人にとってQualitative ReasoningセクションのQuestion Samplesはかなり一般的で易し過ぎます。また、英文学の大学院を目指す人にはVerbal ReasoningセクションもAnalytical Writing以外にもある程度の専門的な基礎知識が必要です。そうした要望に答えるのがGRE Subject Testsです。About the GRE® Subject Testsに該当する7つの分野がリストされています。

みな特殊な分野です。ここでは一つずつ紹介する余白がありません。これらを専攻する読者はそれぞれが該当するGRE Subject Testのサイトを開きチェックしましょう。また、志望する大学院プログラムのサイトを見て、GRE Subject Testのスコアを要求するかどうかもチェックする必要があります。

前述しましたが、日本を除く極東地域のテスト・センターではthe GRE General Testを毎月最低1~3回も実施しているようです。これらの地域の英語学習者は普段からこうしたテストを目標にしているものと思えます。GREを受ける為には、その前にTOEFL iBT®テストをクリアしなければなりませんから多くの学習者が真剣に挑戦していると思います。読者の中にはTOEFL iBTテストは難しいから避けようとする人はいないと思いますが、もしいたら考え直して挑戦する良い機会です。そんな意味をこめて今回the GRE General Testを紹介しました。

(2016年6月24日記、2016年7月4日入稿)

 

(*1)2016年7月1日よりThe GRE® revised General TestはThe GRE® General Testに名称が変更しました。上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。
(*2)アメリカの総合大学universityは複数のcollegeまたはschoolで構成されています。日本の〜学部は英訳するとcollegeまたはschoolになります。facultyという場合もあります。例えば、日本のA大学経済学部はSchool of Economics, A Universityになります。そのcollege/school/facultyの中に学部(BA/BS)と大学院(MA/MS./Ph.D.)のプログラムがあります。
(*3)minstrel は、日本の琵琶法師と同様に、20世紀のblues、rock、folk、blue-grass、hip-hop、rapなどのジャンルのミュージシャンに通じるところ大いにありです。関心のある読者には次のようなサイトをお勧めします。
https://chnm.gmu.edu/courses/jackson/minstrel/minstrel.html
(*4)筆者は1973年Hawaii大学大学院TESL修士課程修了間際にGeorgetown大学の博士課程に応募しました。その際TOEFL®テストではなくGREを受けるよう指示されて受験したと記憶しています。GPAは原則では平均B=3.0以上とありましたが、実際には平均A=4.0に近いものを求められました。推薦状は、ハワイ大学のsyntax担当の教授とsociolinguistics担当の教授と psycholinguistics担当の教授に書いていただきました。
(*5)“Test Content and Structure”The GRE General Test(https://www.ets.org/gre/revised_general/about/content/

上記は掲載時の情報です。予めご了承ください。最新情報は関連のWebページよりご確認ください。