The New York Times誌編纂の西暦2000年版の年鑑The New York Times 2000 Almanac(1999)のWho Uses the Internet?の項目は、以下の一文で始まります。
“Almost unheard of before 1990, the Internet has entered the vocabulary of most Americans and the homes of a large number of them.”
インターネットは、1990年以前にはアメリカに於いてさえ一般の人はあまり耳にしたことがなかったとあります。それからおよそ30年後の現在、インターネットは世界中の人々の生活の一部になりました。本コラム第128回で取り上げたMcLuhanの予言通り、世界は国民国家(nation-state)の枠を超えて個々人を繋げ、まるで一つの村のようになりつつあります。
第128回「検索ヒット数約11億件!McLuhanのUnderstanding Media: the Extensions of Man -“Media Hot and Cold”を振り返る」
そのMcLuhanの言葉を借りれば、the electric mediaの世紀に突入し、中枢神経・末梢神経の延長かのように瞬時に情報を交換できるようになりました。そうした事態が多くの物事に変化をもたらしてきたことは明らかです。まず、コミュニケーション形態が大きく変わったことで、言語環境にも大きな影響を及ぼしています。本コラムが対象とする英語はインターネット上で世界共通語としての役割を益々強め、すでに多くの非英語圏の人々には、日々の生活に欠かせない第二言語(a second language)(*1)となりつつあります。
それに関連して今回は次の二つの記事を取り上げてみました。
Have we reached peak English in the world? By Nichols Ostler
Can English remain the‘world favourite' language?
二つともイギリス人が書いた記事です。Nichols Ostlerの記事はイギリスの著名誌The Guardian(2018年2月27日付け)に、Robin Lustigの記事はBBCで紹介されました。Ostler氏はThe Foundation for Endangered Languagesと称する絶滅寸前の言語を保護する団体の代表です。Lustig氏は、BBC所属のジャーナリストで、BBC同局放映番組“The Future of English”(BBC May 23, 2018放映)のpresenterを務めています。英語圏のいわば総本家のイギリス人が英語の現状をどう把握し、その未来をどう予測しているのか知るのに良い記事です。まず読んでみましょう。TOEFL iBT® テストを受ける読者は原文で読んでください。参考までに本稿の最後に重要ポイントをまとめた翻訳を付しました。(*2)
これらの記事は、英語がこのまま地球規模の言語であり続けるかについて考察していますが、次の3つの理由でそうではないであろうと予測しています。(1)英語圏諸国の国力が下降気味であるのに対して中国などの国力が増大していること。(2)翻訳テクノロジーの向上。(3)Hybrid英語の出現。(1)は両氏が、(2)についても両氏が取り上げています。(2)についてはOstler氏は簡単に触れる程度ですが、Lustig氏はかなり強調しています。(3)についてはLustig氏のみが取り上げています。英語の存続を脅かす原因にhybridな英語を挙げており、Lustig氏の言う地球語としての英語にはhybridな英語は含まれないということになります。この点については後ほど述べます。
しかしながら、両氏とも、当面はいずれの理由も英語の地位を奪うまでには至っておらず、英語がその地位を保持するであろうと予測しています。
Ostler氏は、英語のようなグローバル・メガ言語の陰で絶滅寸前のマイナー言語があることをほのめかしつつ、そうしたメガ言語自体も栄枯盛衰の運命にあると述べています。一方のLustig氏はジャーナリストとして世界中を駆け巡り、様々な人々の生活実態に触れながら、言語とそれを取り巻く状況をそのまま報告しています。言語に留まらず、ジャーナリストとして(2)に掲げたtranslation machineなど、コミュニケーション媒体の変革にも注視しています。
両方の記事から読み取れるのは、英語が国民国家(nation and state)の枠を超えて地球規模で広がり、総本家のイギリスの英語も分家のアメリカの英語も飲み込まれてしまっていること、そして、その地球規模の英語をもってさえ、その人気をいつまでも保てる訳ではなく、やがて中国語などの他の言語がとって代わるということです。
Ostler氏は、British Councilが中国で行なった“English is great”と謳うキャンペーンを取り上げ、(*3)今や凋落したイギリスを代表する文化機関がこのようなキャンペーンを行なっていることを皮肉交じりに語っています。現在の英語人気はイギリスというよりアメリカの国力やソフトパワーの影響であり、その英語人気も今がピークであって、しかも、このキャンペーンが行われた中国がアメリカを凌ぐ国力を持つや中国語が英語に取って代わろうとしていると述べています。Lustig氏も英語に代わる中国語の可能性についてほぼ同意見ですがもう少し過激です。アフリカなど非英語圏の若者が職を探すなら、英語ではなく中国語を勉強した方が良いだろうとまで言い切っています。
Ostler氏は、ラテン語、フランス語、Farsi語を例に、いかなる時代にもこのような言語が存在し、同じようにピークを迎えるやその役割を他に譲り消えていったことを強調しています。既にピークを迎えている英語に代わるかもしれない中国語も、更にそれに代わる他の言語もその役割に永遠に君臨することはないと断言します。恐竜をはじめ多くの生物が全盛期を迎えてはやがて消えていった古生物学の一コマを連想させます。歴史言語学は主として文字を持つ言語の歴史ですが、paleo-linguisticsというか言語進化論というか、そのような分野があっても良いかもしれません。
両氏とも、Global Englishにおいては、英語の母語話者もその一部に過ぎず、Ostler氏は、母語話者としての特権はなくなると断言しています。Lustig氏は、Global Englishが(3)の hybrid英語であることに注目し、アメリカのSpanglish、インドのHindilishやBengalishやTanjilishなど、多くのhybrid Englishが存在し、それぞれが話者文化のidentityの象徴(*4)となっていると述べています。
筆者が特に注目したのは(2)のmachine translationです。Lustig氏は、computer translationとvoice recognition technologyの開発が進み、リアルタイムで異言語話者間の翻訳を担うようになり、英語が君臨する時代は終焉すると述べています。言い換えれば、もはやリンガ・フランカ的な言語を必要としないということです。そうなるとOstler氏が指摘したように英語話者の特権は泡沫のように消えるでしょう。
何語で話され書かれてもタブレットをタップするだけで瞬時に他の言語に翻訳してくれるのです。Lustig氏の記事の冒頭に、互いの言語を知らないフランス人と中国人が話すとしたらおそらく英語で話すとあります。しかしLustig氏が指摘するように、5年前の2013年頃までは確かにそうであったかもしれませんが、この記事が掲載された2018年現在においては翻訳機が普及し始め、やがては不慣れな英語で話す必要もなくなるであろうことは容易に想像できます。当事者達が英語に堪能であれば英語で話すかもしれませんが、そうでなければ母語で意思伝達する方が安心できるので翻訳機に頼る可能性は高まります。来年のオリンピックには多くの外国人が日本に来ますが、多くが携帯の翻訳アプリを使用することになると予測します。(*5)
これが常態化していけば苦労して英語を学習する意味が無くなります。要するに、母語さえ話せれば、英語も含めて他言語を学習する意味がなくなるかもしれません。それを可能にするAI(artificial intelligence人工知能)は、McLuhanの“media”を“the extensions of man”とした主張を地で行くかのようにヒトの中枢神経の延長部として一体化され、日進月歩で開発されつつあります。このまま開発が進んで更に高性能で小型化され、身体の一部にビルトインされるのは時間の問題です。
Global Villageの空間では、文字がないゆえに絶滅寸前の危機に瀕していたマイナー言語でも、音声さえあれば他の言語に翻訳可能になります。マルチ・メデイア機器は、少なくとも、音と映像・動画で辞書を作ることができますから、文字を介さなくても翻訳は可能なはずです。コミュニケーションのmedia(媒体)には言語と非言語も含まれます。それに近づけるべく、聴覚や視覚だけではなく、今後は触覚、味覚、嗅覚などの媒体も取り込むAIが開発されるでしょう。異言語間、異文化間、もしかすると、ヒトを超えた異種間(*6)の翻訳を可能にするholistic(統合的)communication technologyが期待されます。次々世代のコミュニケーション・システムは、英語とか中国語とかという議論を飛び越えたものになる可能性が大です。
イギリス人の両氏の記事に共通して言えることは、両氏が共通語として君臨し続けるかどうかを問うている“English”は、あくまでも英語圏で話されている英語であるということです。Lustig氏の言葉を借りれば、中世英語(Chaucer)、近世英語(Shakespeare/Milton)、そして近代英語(Dickens)に続く伝統的なイギリス英語ということになるでしょう。両氏とも、それぞれの立場で、そうした伝統的な英語がいつまで君臨し続けるであろうかという疑問を抱いているのでしょう。しかしながら、既に、両氏そろって指摘するように、onlineで飛び交う英語は、前述(3)の理由として挙げられたhybridな英語なのです。
しかも、それは、Lustig氏の言うSpanglishやHinglishやBenglishやTanglishなど、旧英国植民地でピジン(pidgin)化された口語(vernacular)だけではなく、個人的要素が強い個人言語(idiolects)に近いhybrid英語がかなり含まれています。Spanglishなどは英語の母語話者ではない人々の間で生まれましたが、今や、英語母語話者も加わり、個々人が勝手に英語を加工してネット上に投げ込み、夥しい数の新語、造語が飛び交っています。Lustig氏が挙げた“I’ll text you.”や“Why don’t you friend me?”における“text”や“friend”のように、名詞を動詞化した例は母語話者間の個人語から派生したものでしょう。このようなGlobal English(es)をも含めて英語と称するなら、英語の持つ生命力(vitality)はかなり強く、簡単には無くならないでしょう。
英語は長い歴史の中で外来語を受け入れてきました。古代・中世英語から近代英語に至るまでの1000年以上、ギリシャ語、ラテン語、フランス語などから多くの語彙を借入してきました。英語が世界語となるきっかけとなったとする、英語で書かれた最初の国際条約であるベルサイユ条約(Versailles Treaty)(*7)の文言にはギリシャ、ラテン、フランス語からの借入語が散在します。概して、高度の概念を指示する英語の語彙の多くはこれらの言語からの借入語です。世界の主要言語で、これほど長きに亘り他の言語からの影響を受けて変化した言語はあまり多くありません。英語が地球規模の言語としてのし上がったのは、確かに英語圏の経済的、軍事的、政治的なパワーもありますが、それ以上に英語がその歴史の中で内在化した他言語に対する許容度の高さにも一因があると思います。
加えて、新大陸アメリカに根付いた英語は、更に多くの他言語に晒されてきました。アメリカには建国以来世界各地から移民が押し寄せ、その影響を受けながらアメリカ英語が形成されていきます。そして、Lustig氏が指摘するように、Versailles条約を機にアメリカが台頭して第二次世界大戦後に覇権を握るや言語的にもアメリカ英語が主流になり、21世紀のonline時代にその地位を固めたと言って良いでしょう。移民国家アメリカは多民族、他言語国家であり、そこで話される英語は他の言語、文化に対しことさら寛容でそれらを許容し、自由と多様性を理念にするonline環境に適していたと言えます。
その結果、夥しい数の語彙が英語に投入され続けています。英語はこうして膨大な語彙力を誇る言語になりました。MicrosoftのWordなどのソフトウエアで英字入力して下に赤い線が出なければ、英語の語彙として認められたということです。50年前に「刺身」は“raw fish”と言わなければわかりませんでしたが、今で“sashimi”です。語形態だけではなく、統語、音韻、意味、すべての構造において英語は簡素化され、汎用性が高い言語になりました。こうしてみると、英語のhybrid化は今に始まったことではなく、古代・中世英語の時代から始まり、21世紀に加速したと言えるかもしれません。
最後に本稿冒頭に掲げた本コラム第128回で触れたMcLuhanの“Media Hot and Cold”の観点から考えると、coolなelectric mediaの最先端であるonline環境で飛び交うこのような英語はcoolであると考えます。McLuhanはcool mediumはlow in definition(filled with little information)であり、聞き手はそれを埋めなければ理解できない、よって、参加度が高まる(high in participation)と述べています。そこで飛び交う個人言語に近いhybridな英語は、初めて聞くものなど、出ては消え、消えたかと思うとまた出てきます。変幻自在でまさにlow in definition、触れる人はそこに参加せざるを得ません。
要は、hybridな英語を別の言い方をすればlow in definitionであると言えます。それに対し、1837年から1901年までのVictoria朝で絶頂期に達したイギリスが培ったCharles Dickens(*8)らの作品に代表される英語は、産業革命を頂点にしたMcLuhanのいうmechanical ageのthe mechanical mediaの一つであるthe print mediumが築いた英語と言えるでしょう。それは、high in definitionでlow in participationでもあるa hot mediumとしての英語かもしれません。それではonline時代のニーズに答えられないのです。
さて、日本は明治維新以来150年間英語教育を行ってきました。150年前はまさにVictoria朝の真っ盛りでした。日本の英語教育は何故期待に応えられないのか?それは、未だにa hot mediumとしての英語から脱却していないからかもしれません。Global Villageの言語は、英語であるなしに関わらず、参加型の言語なのです。
筆者が1990年に慶應義塾大学湘南藤沢キャンパスに赴任した時、当時はあまり聞いたことがないインターネットがキャンパス中に導入されました。これから自分が担当する英語はどう変わるのか?英語学習はどう変わるであろうか?SFC初代学部長加藤寛先生の「学生は未来からの留学生、彼らが世に出て活躍する30年後を念頭に、知はどうなるか考えてください」という言葉を受け、筆者が考えたのが「プロジェクト発信型英語プログラム」でした。30年後の英語はどうなっているだろうか、そこから考えました。(*9)今回取り上げた2つの記事はその約30年後に書かれた記事で、興味深く読みました。(*10)
(2019年4月13日記)
参考資料
Have we reached peak English in the world? By Nichols Ostler(鈴木訳-細部簡略・付け足しあり)
2018年1月中国でBritish Councilが“English is Great”キャンペーンを開く/Trump大統領の“Make America Great Again”を匂わせる/世界人口の1/4に当たる17億5千万人がthe useful
levelで英語を話す/非英語圏の有力国家が英語を第一外国語として学ぶ(中国では小学校か
ら)/ヨ-ロッパ連合のthe working languageである/Franceの国際ニュース専門チャンネル
France 24は英語でニュースを発信/旧ソビエト圏のMongolは全レベルの学校教育でロシア語から英語に切り替えた/ロシア人の6分の1が英語を話す/Anglo-Saxon国家への政治的スタンスに関係なく、グローバル願望の諸国は英語を選択している/1919年ベルサイユ条約以来ほぼ1世紀、英語は大英帝国やアメリカ合衆国が影響を及ぼす範囲を超えてグローバルに受け入れられてきた/同条約は英語で書かれた最初の国際条約である(*11)/皮肉にもこの時点から(英語圏の総本家たる)連合王国(United Kingdom/UK)(*12)の凋落が始まる/しかし、言語的には、同じ英語圏のアメリカが後を継ぎ、イギリスの力の停滞を偽装するという幸運に恵まれた/経済的に衰退しつつもかつて確立したその地位は保たれているかのようである/しかし、こうした背景で高まる英語学習熱の反映に過ぎない/アメリカは1920年代から1990年代にかけて北米大陸から世界の多くの分野に影響力を広げる/今やドルはポンドに代わり世界通貨の地位を得た/21世紀にはシリコンバレーが象徴するdigital information revolutionで富を築く/これらは(イギリスが礎を築いた)英語の役割にポジティブに機能する/そして、アメリカ文化のsoft powerの成長とそれへの根強い人気を考えると絶頂期に到着するにはしばらく間があるだろうと思われる/しかし、現在、その成長が足踏み状態になってきた/特にアジアの国々(やがては南米やアフリカの国々も)が経済力でアメリカを凌ぎつつあるこの21世紀中に英語はその役割の絶頂期を迎えるであろう/そこで二つの疑問が湧く/ 英語は母語話者の価値ある資産という地位を保てるか?/英語は永遠に権力連鎖の頂点に立つ地位を確保できるか?/英語を母語とすることでもたらされる棚ぼた的な利益は明らかである/世界主要コミュニケーション媒体に直接アクセスできる/高学歴な英語話者が有力な仕事につく手助けになる/賃貸住宅のオーナーが賃料を取るように、非英語話者に対してエリート言語たる英語の関門をくぐる料金を課す(2020年にはイギリスだけで3 billion ポンド)(*13) /また、ロンドンにアジア諸国とアメリカとのグローバル・トレード、投資、金融の機会をもたらした/しかし英語がグローバル社会の資産になると、もはや母語話者の英語知識は資産としての価値は薄れる/イギリスとアメリカとの歴史的繋がりを残すものの、World Englishの知識は英語母語話者に限定されないからだ/棚ぼた的な利益はイギリス国内を満足させる一方で、モラル危機をもたらし、国外では怒りを誘発している/現在進行中のBrexitの交渉にも明らかである/国境を超えて無造作に広がり、“a language of freedom”を標榜する英語のような言語の脆弱性を見極めるのは容易ではない/過去に国境を超えた通商に使われてオーラを放つもやがて消えたリンガ・フランカはある/今、同じことが起こりつつある/中国、インド、ブラジルなどが経済的、政治的かつ軍事的にその地位を確立し、互いに、また、それ以外の国々と通商して言語的、文化的な影響力を益々強めるであろう/しかしいかなる言語が覇権を握ろうともいずれ停滞する/中国が中心になったとしよう、世界はAdam Smithの国富論の「見えざる手」(*14)に背を向ける事になる(“a language of freedom”にはなり得ない)/それ以外の国なら、イスラム教、ヒンズー教、仏教などの考え方が反映された混合型のものになるだろう(他の宗教や無宗教への寛容性が問われる)/その一方で翻訳技術の進歩により様々な言語間の意思疎通が可能になる/何れにせよ英語圏の伝統に対する敬意は消え去る/17世紀に類似したことは起きている/フランスが最有力国家になるやフランス語が西欧社会の共通語としての役割を担うようになった/フランス語は、啓蒙の言語ともてはやされ、1500年間続いたラテン語の座を奪う/19世紀には帝政ロシアとイギリスが、それぞれのアジアの領土において800年の歴史を持つイスラム文化、政治、通商の共通語であったFarsi(*15) を廃止した/現在では英語が世界語としてまさに絶頂期を迎えこの上なく良好そうに見えるが、その栄光を享受して200年足らず、LatinやFarsiに比べるとかなり短いものになりそうだ/というのは英語の凋落は中国の隆盛と同期するかもしれないからだ/その中国は3000年の書き言葉の伝統を持つ。
Can English remain the‘world favourite' language? By Robin Lustig(鈴木訳-細部簡略・付け足しあり)
世界で最も多くの人が英語を話し、学習しているのは中国である/Cambridge University Pressの調査によると、少なくとも3億5千万人がある程度の英語の知識を持つ/インドでは1億人がいる/英語を第二言語として話す話者の数はアメリカを凌ぐ/しかし英語はいつまでthe world's favorite languageであり続けるか?/The World Economic Forumは世界で15億人が英語を話すとしている/そのうち母語話者は4億人である/もちろん英語は一つではなく、イギリス国内でも、online EnglishやAmerican Englishが台頭する中で存続するPompey方言などがある/英語は世界で人気が高いリンガ・フランカである/互いの言語を知らない人同士が話さなければならないとしたら英語で話す/中国語を知らないフランス人とフランス語を知らない中国人は英語で話すだろう/しかしそれは5年前(2013年)のことだ/今、computer translationとvoice-recognition technologyが発達したお陰でそれぞれの言葉で話せば、リアルタイムで機械翻訳されて相手が言っていることが分かる/よって英語が君臨した時代は終焉する/Computerの到来で独り勝ちしている/読者はこの記事を英語で読んでいるが、タブレットをタップするだけでドイツ語でも日本語でも読める/そこまでコンピュータがしてくれるなら英語を学習する必要がない/とはいえ、今現在では、もし国際的にビジネス展開したいなら、最新のビデオゲームをしたいなら、ポップ・ミュージックを聴きたいなら、全く英語を知らないと不自由する/しかし、事態は変わりつつある/カリフォルニア州のGridspaceで、韓国人computer scientist のWonkyum Leeが開発の手助けをしているtranslationとvoice-recognition technologyは、人間と話しているのか機械と話しているかわからない/Stanford Universityのmachine learningのChristopher Manning教授は近い将来machine translationは人の翻訳と同じくらいか凌ぐだろうという/英語が直面しているチャレンジはこれだけではない/英語があまりにも多くの人に話され、「標準」英語(*16)と世界各国の口語が混合したhybrid formsが拡散している/インドだけでも Hinglish(Hindi-English), Benglish (Bengali-English)and Tanglish (Tamil-English)がある/アメリカにはSpanglishがある/言語はコミュニケーションの手段であると同時に話者のidentityの表現でもある/San Franciscoに居住した詩人Josiah Luis Aldereteはthe "language of resistance"とする Spanglishで詩を書いてアメリカに生まれてもその文化遺産を誇り保持した/英語の地球規模での優位性は最近まで覇権を誇っていたアメリカとイギリスの言語であったからだ/しかし今や中国が経済的に台頭しその地位は脅かされている/今もしサハラ砂漠近郊で職を求める若者なら、アメリカや英国の学校レベルの英語に頼り英国やアメリカで職を探すより、中国語を勉強して中国で職を探したほうが良い/アメリカでは中国語人気が高まり、2015年には中国履修率が2年間で2倍になった(大学ではこの10年で50%増えた)/しかし、ウガンダでは中高等学校の全クラスは英語で行われ、中には子供にthe first languageとして英語を教えている保護者もいる/世界の多くの地域で依然英語が成功へのパスポートと思われている/結局英語の未来は危ういのか?/そうは思わない、もちろんこれからの数十年でグローバル優位性は少なくなるだろう/他の言語同様に、英語も新しいニーズに合わせて変化している/最近まで、“text”や“friend”は名詞であったが、今や“I' ll text you.”や“Why don't you friend me?”など動詞として使われている/コンピュータ翻訳テクノロジー、hybrid言語の拡散、中国の隆盛が英語に立ちはだかる/それでもなお、Chaucer, Shakespeare, Milton, Dickensなどの言語を母語と呼び享受できる国に生まれて良かったと思う/もっとも私が言う英語は彼らの英語とはかなり違うが。
(*1)アメリカ在住のスペイン語の母語話者にとって、アメリカ社会の主要語である英語は、日常生活で不可欠な第二言語(a second language)です。今や、非英語圏の多くの人々にとっても同じことが起きています。1980年代まで多くの非英語圏では英語を外国語English as a foreign language(EFL)として学習していましたが、English as a second language(ESL)になりつつあります。英語の学習法にも影響します。本稿の最後で述べるように日本の英語教育はEFLに留まっている感を受けます。ここから脱却しないと日本人の英語能力の改善は見られないでしょう。
(*2)本稿はこれらの記事を読むことを前提に執筆しました。
(*3)Ostler氏は、このキャンペーンが、アメリカ大統領Trump氏の“Make America Great Again.”(MAGA)キャンペーンを思わせると言っています。ちなみに、Trump氏の文言はアメリカが現在greatでないことを想定しています。後述のように中国などが台頭して来たことを正直に認めているのでしょう。
(*4)言語タイポロジーでは、pidgin Englishとcreole English(母語化したpidgin English)の違いの基準をvitalityにおいています。通商語としての機能以外に話者文化のidentityとなりうるかどうかです。ちなみに、言語類型学(language typology)では、ハワイのpidgin Englishは母語化したpidginであるcreole English になります。
(*5)本コラムの記事は日本語で書かれていますが、New York市在住の筆者の友人はGoogle翻訳を使って英語に翻訳し読んでくれています。
(*6)既に、ペットの鳴き声翻訳アプリがあります。
(*7)Treaty of Versailles- Library of Congress
(*8)アメリカ留学を考えている人はDickensの作品を読んでおくよう勧めます。A Christmas Carole, Oliver Twist, Great Expectations, David Copperfield, A Tale of Two Citiesなどが代表作です。Dickensはアメリカに何度も講演に行き、アメリカ文学にも影響を与えてきました。
(*9)詳細については、『プロジェクト発信型英語 Vol 1 & 2』(鈴木佑治、南雲堂)の序文とTeacher's Manualを参照してください。
(*10)以下は本テーマに関連する本コラムの記事です。
第61回「Global Englishで発信しよう」
第71回「グローバル社会のプラットフォーム、ICTとグローバル英語」
第79回「YouTubeの英語無料レッスンで英語力をアップする」
(*11)第一次大戦は参戦を渋っていたアメリカが参戦したことで終結したとみられている。ベルサイユ条約はそうしたアメリカに敬意を払って英語で書かれることになった、イギリスへの敬意ではないということを暗にほのめかしています。
(*12)The United Kingdom(UK)、The United Kingdom of Britain and Northern Irelandのこと。省略形はUK。
(*13)世界各国で展開されるイギリス関係の英語学校への痛烈な皮肉とも取れます。
(*14)“The hidden hand”--Adam Smithはその著『国富論』で、個人が利益を得てもいずれは“the invisible hand”「見えざる手」により国に導かれると述べた。
(*15)ペルシャ語の別名。イラン、アフガニスタン、タジキスタン、ウズベキスタンで話されている。4,600万人以上の母語話者がいるインド・ヨーロッパ語族の言語。
(*16)著者は“standard” Englishとquotationマーク付きで表記し、やや皮肉を込めている。