2015年3月20日~23日「第4回科学の甲子園全国大会」(科学技術振興機構主催)が茨城県つくば市で開催されました。筆者は22日の表彰式に出席しました。優勝は千葉県代表の渋谷教育学園幕張高等学校、2位は兵庫県代表の白陵高等学校、3位は静岡県代表の県立清水東高等学校でした。優勝校は5月16日と17日に開催される米国Science Olympiadに招待されます。今年で41回目を迎え、ネブラスカ州リンカーン市にあるUniversity of Nebraskaで行われることになりました。TOEFL Web Magazineの発行元であるCIEEからは副賞として、「英語研修」が与えられ、その英語研修の担当を筆者が行う事になりました。「第4回 『科学の甲子園』優勝校スペシャル対談 ―前編―」に詳細が記してあります。
本コラムでも何回か触れましたが、筆者は過去慶應義塾大学SFCではコンピュータサイエンス、立命館大学生命科学部・薬学部では応用化学、生物工学、生命医学、生命情報学、薬学専攻の学生に英語を教えてきました。立命館では、両学部の全学生が専門分野のテーマにつき英語で論文を書き学会発表する英語能力をつけられるプログラムを開発・実践しました。また、立命館大学生命科学部・薬学部の入学前教育で、高校3年生を対象に2日程度の英語研修を開発し実践しました。こうした経緯で今回の講師依頼を引き受けることになりました。(*1)
Science Olympiadに向けた事前英語研修は、千葉市幕張の渋谷教育学園幕張高等学校で、4月初旬と末に各2回ずつ以下の内容で実施されました。
1回目(4月4日13:00~17:00)
2回目(4月6日14:00~17:00)
3回目(4月24日14:00~16:30)
4回目(4月25日13:00~16:30)
ほんの4回の短い研修でしたが、生徒8名が非常に意欲的に取り組みそれなりの事前準備ができたと思います。この研修中に相当量の英語を聞き、話し、読み、書きしたものと思います。インターネットで配信されているScience Olympiad関連の記事を読んだり、動画を見たり、ディスカッションしたり、考えをまとめてプレゼンテーションしたりで時間はあっという間に経ってしまいました。英語圏長期滞在の経験をもつ生徒は1名、残りの生徒はありません。研修1回目の英語診断テスト(TOEFL ITP® テストから抜粋したサンプル問題を使用)ではかなり良い点を取りました。また、1回目の英語インタビューでは日常会話を中心に、4回目の英語でインタビューでは、参加種目を中心に質疑応答をしてみましたが、無事こなしていました。もちろんまだ十分とは言えませんが、たった4回の研修では上出来です。ちなみに、長期滞在経験者の生徒は、生徒は英語診断テストでは満点で、米国での生活を満喫できる英語コミュニケーション能力を有しています。
かくして、これらの生徒達は「理系は英語が苦手」という巷間の俗説を研修1回目から払拭しました。Science Olympiadに参加して刺激を受け、科学も含めた好きなテーマを英語でリサーチし、その成果を発表する事で英語力は抜群に伸びるであろうと確信しました。事実、Science Olympiadでは三上喬弘君と白石航暉君がBungee Drop 種目で見事5位に入賞しました。
Science Olympiadは1974年に始まり41年の歴史があります。オリンピックのトラック競技を模してacademic track meetsとして出発し、今日では幼稚園、小学校、中学校、高校までの義務教育(K-12)を対象に4部で構成されています。
毎年、全米50州から7,300チームが参加しているようです。
Science Olympiad: Home Pageを見ると、競技をする生徒はもちろんのこと、先生、保護者、地域社会が協力して競技に立ち向かうこと、また、2人以上のペアを組んで競技すること、すなわち、科学の世界におけるコラボレーションを非常に大切にしています。参加校は以下5分野の23種目を競います。
これらの種目は、先ず、Science Concepts and Knowledge、Science Processes and Thinking Skills、Science Application and Technologyに分けられ、それぞれの種目がKnowledge-based (科学知識テスト、例Astronomy)、Hands-on(科学実験、例Forensics)、Engineering-based(機械創作、例Bridge Building)のいずれかに該当するようです。
渋谷教育学園幕張高等学校は、このうちのForensics、It’s about time、Bungee Drop、Write it do it、そして大会主催者側の要請で急遽参加することになったScience Quiz Bowl(Biology、Chemistry、PhysicsとHistory of Scienceの早押しクイズ)の5種目に参加しました。8名をそれぞれの種目に2名割当て本格的な準備ができたのは、英語研修の3回目辺りでそれから半月程でよく準備できたものです。結果、Bungee Dropでは見事5位に入賞できました。三上君と白石君の見事なコラボレーションが実を結んだようです。もう少し時間があったなら、優勝したのにと悔しがっていました。他の生徒さん達も同様の思いを持ったことでしょう。
Science Olympiadの優勝校は全23種目の順位の総合で決まります。今回、否、今回も優勝校はTroy High School(http://www.troyhigh.com/)です。Los Angeles近郊のFullerton市にある公立高校です。10回目の優勝をさらいました。学業はもちろんのことスポーツ、文化活動、地域活動が盛んで、Troy High School projectsと入力してみると米国でも群を抜いた発信型の高校であると見受けられます。日本も今回の渋谷教育学園幕張高等学校の健闘を機に全種目に参加して次のレベルの挑戦をするとよいでしょう。好成績の生徒には大学スカラーシップが出る可能性も秘めています。
最後に、小学生と中学生のScience Olympiadもあり、日本の小学生も中学生も参加したらよいでしょう。残念ながら大学生のものは無いようですが、Science Olympiad at MITなど個々の大学が行っているものがいくつか見受けられます。今、英語力無いからできません?そんな声が聞こえて来ますが、こういう発信活動を通して英語を使う機会が増えてモチベーションも高まり向上するのです。今回の渋谷教育学園幕張高等学校の生徒さん達もそれを実証してくれました。
(*1)筆者は1978年~2008年まで慶應義塾大学の経済学部とSFC(責任者)にて教鞭を執り、成果を『英語教育グランドデザイン:慶應義塾大学SFCの軌跡と展望』(鈴木佑治 2003、慶応大学出版)にまとめた。2008年~2014年まで2008年開設の立命館大学生命科学部・薬学部(責任者)にて教鞭を執り、成果を『グローバル社会を生きる為の英語教育:立命館大学生命科学部・薬学部・生命科学研究科プロジェクト発信型英語プログラム』(鈴木佑治 2012 創英社三省堂書店)にまとめた。その後筆者のプログラムは2010年開設の立命館大学スポーツ健康学部でも実践され、2015年開設の総合心理学部でも導入される。Lifelongプログラムとして、大垣市の幼稚園と東近江市の私立中学校で実践中。
(*2)本書は筆者が理系学部の大学生を対象に書いた2冊目のテキストで、科学の全分野を総合的に扱う最新記事を選出し、筆者が注(日本語)と練習問題(英語)を付けたもの。理系のみか文系の学生にも読みやすいようにし、また、TOEFL iBTテスト、SAT、GREなどのリーディングを念頭に入れた。全記事は当該出版社がNature誌の版権を購入して作成した。Nature誌はScience誌とともに世界で最も権威ある科学誌で、ノーベル賞受賞者の多くが論文を寄稿している。